香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
相続放棄の3か月の期限について誤解している人をみかけます。
誤解に基づき判断をしてしまい、事態が深刻化するケースもあります。
今回は、相続放棄について放棄できる期限はいつから開始されるのか、期限が迫っている場合の手続き、3か月ルールを知らなかった場合、3か月の期限経過後に借金などが発覚した場合について取り上げます。
相続放棄の期限はいつから開始?
今まで言ってなかったのですが、私の両親は私が幼いころに離婚しまして。
ずっと母親に育てられてきたんです。
そうだったんですか。
はい。
それで、父親とはもう何十年も会っていなかったのですが、半年前に父が亡くなったみたいなんです。
何で知ったんですか?
昨日、父の再婚相手から知らせが届きました。
それで、こちらとしては、あまり関わりたくないので相続放棄したいのですが…
亡くなって3か月過ぎているから、もう相続放棄できないですよね?
まだ相続放棄できますよ。
え。そうなんですか。
よく誤解されているみたいなんですが、相続放棄ができる期限の開始日は故人の亡くなった日ではないんですよね。
ちょっと民法の条文をみてみましょうか。
民法の条文!
民法
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
これぐらいの条文ならなんとかわかります。
父が亡くなって私が相続人になったことを「知った時」から3か月以内、ですね。
そうです。
昨日知ったということですので、昨日の日付から3か月以内であれば、相続放棄できます。
相談してよかったです。
たいていの場合、家族や親族が亡くなったらすぐに知ることになりますので、亡くなってから3か月という思い込みをされる人が多いのではないかと思います。
そうかもしれない。
相続放棄のルールをおさらいしておきましょう。
被相続人とは故人のことです。限定承認については今回は詳しい説明を省略します。
相続の単純承認
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産もすべて承継することをいいます。被相続人の相続が開始して自分が相続人になったことを知った時から3か月以内に「限定承認」「相続放棄」の手続きをしなかった場合は、単純承認したものとみなされます。
相続の放棄
被相続人のプラスの財産もマイナスの財産もすべての承継を拒否することをいいます。家庭裁判所に申述して手続きをする必要があります。なお、たとえば、遺産分割協議で相続財産を何も受け取らなかったことを「相続放棄した」という人がいますが、そのような事実上の放棄のことではありません。
わかりました。
では、これから家庭裁判所で手続きをすればいいですね。
相続放棄の期限が迫っている場合はどうすればいいですか?
ところで、自分が相続人になったことを知った時から3か月って短くないですか。
相続するか相続放棄するか、3か月では決めかねるという場合もあると思うのですが。
はい。その場合は、家庭裁判所に「期間伸長の申立て」をすることで延長することができます。
そうなんですね。
ただし、相続財産の数が多くて調査に時間がかかるなど期間内に決断することが困難と認められる事情が必要とされています。
申立てができるのは相続人だけですか?
申立てができるのは、相続人をはじめとする利害関係人または検察官です。
利害関係人には、相続人のほか、相続人の債権者、被相続人の債権者・債務者、次順位の相続人が含まれるとされています。
3か月ルールを知らなかった場合
相続放棄をするには、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内にしなければいけないというルールを知らなかった場合はどうなりますか?
知らなかったという言い分は認められません。
だと思った。
単純承認後に借金や連帯保証債務が発覚した場合
いきなりですけど、たとえば、相続放棄せずに、これからお父様の相続財産を調査して、法律で決まった相続分については相続するとしましょう。
はい。
いきなりですね。
その後、時間が経ってから故人の債権者から請求が届いて借金や連帯保証債務が発覚することがあります。
貸金業者のなかには、あえて故人の死亡後3か月が経過してから相続人へ請求する業者もあったと聞きます。
急にこわいこと言いますね。
その場合どうなるんですか。
次のような判例があります。
相続人が、相続開始の原因事実の発生と、そのために自身が相続人になったことを知った場合であっても、その事実を知った時から3か月以内に限定承認または相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において被相続人に相続財産が全く存在しないと信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知った時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時または通常これを認識しうべき時から起算すべきである。(最判昭59・4・27)
もう長い文章を読むのがつらいです。
相続人がぬかりなく調査したけども判明しなかった相続財産については、その存在を知った時に3か月ルールの期間が開始するということですね。
妥当な判断な気がする。
ただし、この判例は「相続財産の調査を相続人に期待することが著しく困難だったとはいいがたい」場合までも救済する趣旨ではありません。
わかる気がする。
また、期間延長が認められるのは、「相続人が被相続人に相続財産が全く存在しないと信じた場合に限られる」ことになるとされています。
ということは?
単純承認後に借金などが判明した場合のすべてのケースで期間延長が認められるわけではないということです。
ケースごとの判断になってくると。
そうですね。
早めに相談してよかったです。
私は相続放棄します。
はい。
疎遠な家族・親族の相続人になったことがわかったときは、ひとりで悩んだり、判断したりせずに早めに専門家に相談するのがおすすめです。
まとめ
- 相続放棄は、原則として、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にする必要があります
- 場合によっては期間延長の申立てをして延長することができます
- 単純承認後に相続放棄が認められる場合もあります
参考書籍
『Q&A限定承認・相続放棄の実務と書式』相続実務研究会(編)|民事法研究会
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