遺産分割協議の期限が10年になるのですか?

香川県高松市の司法書士 川井事務所です。

所有者不明土地問題の「発生予防策」として、これまで①相続登記義務化②相続土地国庫帰属制度についてみてきました。

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もうひとつの大きな対策として「長期間経過後の遺産分割の制限」があります。

一部では「遺産分割協議の期限が10年になる」という誤解がされているようですが、そうではありません。

この記事では、長期間経過後の遺産分割についてどんな制限がされるのか解説しています。

目次

遺産分割協議に期間の制限はありません

法律が変わって遺産分割協議の期限が10年になるというウワサをききました。
10年とは長いようで相続でもめている人たちにとっては決して長くはない期間ですよ!

司法書士K

いきなり泥沼の相続争いを見てきた感がすごいですね。

司法書士K

誤解ですよ。

え?

司法書士K

法律の改正により、相続開始の時から10年が経過したら遺産分割協議ができなくなるわけではありません。
「特別受益と寄与分の主張ができなくなる」というのが正しいですね。
つまり遺産分割は法定相続分で分けることになります。

ちょっと何言っているかわからないです。

司法書士K

では、そもそも遺産分割協議とは何か?というところから始めていきましょう。

遺産分割協議とは?

司法書士K

相続が開始したら、亡くなった人の遺産は、相続人が相続することになります。

はい。

司法書士K

まず遺言があればその内容に従うことになります。
遺言がなければ、相続人全員で遺産を分ける話し合いをすることになります。
これを「遺産分割協議」といいます。

相続人全員で遺産分割協議をする。

司法書士K

相続人の相続分は法律で決められていて、これを「法定相続分」といいます。

学校で習ったような気がします。

司法書士K

事例でみてみましょう。

司法書士K

Aが亡くなってその子B・Cが相続人とします。
Aの遺産は預金1,000万円と不動産1,000万円です。
遺言はありませんでした。
BとCの法定相続分は2分の1ずつです。

はい。

司法書士K

相続人BとCがAの遺産をどう分けるか話し合います。


(遺産分割協議中)

相続人B

私が預金1,000万円もらう

相続人C

じゃあ、ぼくは不動産で


司法書士K

はい。遺産分割協議が成立しました。

円満ですね。

司法書士K

相続人BとCは、公平に遺産を分けることができました。

すばらしい。

司法書士K

いつもこのようにまとまればいいのですが、そうもいかないのが遺産分割です。

ですよね。

「特別受益」と「寄与分」

司法書士K

時を戻しましょう。

あ。また始まった。


(遺産分割協議中)

相続人B

私が預金1,000万円もらう

相続人C

ちょっと待って、姉さんが家を建てたときに、父さんに資金を出してもらってただろ

相続人B

いや、あんただって、(以下略)


今度は、もめてますね。

司法書士K

もめてます。
この「Aが生前にBに住宅資金をあげていた」というのが「特別受益」の典型例です。

これが特別受益。

司法書士K

亡くなった人から相続人への遺贈(遺言により財産を譲ること)・贈与が特別受益にあたります。
特別受益がある人は法定相続分からその分差し引かれることになります。

遺贈や贈与で多くもらった分が法定相続分から引かれるというわけですね。

司法書士K

特別受益の例としては、

特別受益の例

  1. 結婚のためにあげた持参金など
  2. 大学の学費
  3. 事業用資産
  4. 居住用不動産
司法書士K

などがあります。

あ。また時が戻って何か始まった。


(遺産分割協議中)

相続人B

私が預金1,000万円もらう

相続人C

ちょっと待って、ずっとぼくが病気の父さんの入院費や治療費を負担してきたんだから、その分多くもらってもいいはずだろ

相続人B

いや、私だって、(以下略)


またもめてますね。

司法書士K

またもめてます。
この「CがAの入院費や治療費を負担してきた」というのが「寄与分」の典型例です。

これが寄与分。

司法書士K

寄与分のある人は法定相続分にその分上乗せされることになります。

はい。

司法書士K

寄与分の例としては、

寄与分の例

  1. 亡くなった人の事業を手伝うことにより相続財産を築くのに貢献したこと
  2. 亡くなった人の事業に資金などを援助したこと
  3. 亡くなった人の療養看護をしたこと
  4. 亡くなった人に対して生活費を渡していたこと
  5. 亡くなった人の財産を管理・維持する費用を負担していたこと
司法書士K

などがあります。

遺産分割の見直しの内容

特別受益と寄与分についてはなんとなくわかってきました。
この特別受益と寄与分が相続開始の時から10年経つと主張できなくなるというわけですか。

司法書士K

そのとおりです。
特別受益と寄与分を反映させた相続分を「具体的相続分」と呼ぶこととします。
法改正により「相続開始の時から10年経過した後にする遺産分割は、具体的相続分ではなく、法定相続分で分割せよ」ということになります。

そういうことだったんですね。

司法書士K

ただし、次の例外があります。

相続開始の時から10年経過後も特別受益と寄与分を主張できる場合

  1. 10年経過前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき
  2. 10年の期間満了前6か月以内に、遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあった場合で、その事由が消滅した時から6か月を経過する前に、その相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき
司法書士K

②の「やむを得ない事由」はたとえば、「遭難して亡くなっていたが、その事実が確認できず、遺産分割請求をすることができなかった」などが想定されています。

ふと思ったんですけど、特別受益を受けていることを自覚している相続人が、遺産分割協議に応じずに10年粘れば法定相続分もらえるってことですか?

司法書士K

相続人の中にそういうこと考えている人がいる場合は、早めに家庭裁判所に調停を申し立てた方がいいですね。

そっか。

司法書士K

この法改正に関係なく、遺産分割はできれば早めに終わらせるのがいいですよ。

この改正はいつから始まりますか?

この改正はいつから始まりますか?

司法書士K

2023(令和5)年4月1日から始まります。

司法書士K

この改正も相続登記義務化と同様に施行日(2023年4月1日)よりも前に発生した相続についてもさかのぼって適用されることになります。

司法書士K

ただし、経過措置により、少なくとも施行時から5年の猶予期間が設けられます。

司法書士K

施行時よりも前に相続が開始していた場合のパターン別タイムラインは次のようになります。

まとめ

  • 基本的に、相続開始の時から10年経過した後は、遺産分割において特別受益と寄与分を主張することができなくなります。
  • この改正は、2023(令和5)年4月1日から始まりますが、それより前に発生した相続についても適用されることになります。ただし、経過措置により5年の猶予期間が設けられます。

参考書籍

『Q&A 令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響』荒井達也(著)|日本加除出版

『Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』村松秀樹・大谷太(著・編集)|きんざい

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この記事を書いた人

愛媛県四国中央市出身
早稲田大学政治経済学部卒業

平成28年司法書士試験合格
平成29年から約3年間、東京都内司法書士法人に勤務
不動産登記や会社・法人登記の分野で幅広く実務経験を積む

令和2年から香川県高松市にて開業
地元四国で超高齢社会の到来による社会的課題への取組みや地方経済の発展のために尽力している

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