いらない土地を放棄できる??相続土地国庫帰属制度について教えてください

香川県高松市の司法書士 川井事務所です。

山林や農地を相続させたくない、相続したくないというご相談は本当に多いです。

これまで土地の所有権を手放すことはできなかったのですが、社会的な問題となっている所有者不明土地問題の発生予防策のひとつとして「相続土地国庫帰属制度」が創設されることになりました。

所有者不明土地問題の背景については、相続登記義務化についての記事に書きましたので、こちらをご参照ください。

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相続土地国庫帰属制度については、気になっている人が多いと思います。

この記事では、相続土地国庫帰属制度の概要、申請できる人、申請できる土地の条件、負担金、手続きの流れ、いつから始まるかについて解説しています。

目次

制度の概要

相続土地国庫帰属制度には期待しています。

司法書士K

地方の山林でも持っているんですか。
そんなんなんぼあってもいいですからね。

どういう制度なんですか?

司法書士K

はい。まず制度が創設される背景をみてみましょう。

制度の背景
  1. 土地利用のニーズの低下などにより、土地を相続したものの、土地を手放したいと考える人が増加している。
  2. 相続をきっかけに、土地を望まずに取得した所有者の負担感が増していて、管理の不全化を招いている。

わかりみが深いですね。

司法書士K

とはいえ、無条件に土地を手放していいとなると問題が生じます。

といいますと?

司法書士K

無条件に土地を手放すことを認めると、次のようなことが起こると考えられます。

  1. 土地を管理するコストを国が負担することになるが、それは結局、国の税金を使うことになり、国民の負担となる。
  2. 土地の所有者が将来、土地を手放すつもりで土地の管理をしなくなるというモラル違反を誘発するおそれがある。

なるほど。

司法書士K

そこで、所有者不明土地の発生を抑制するために、国の財政負担の増加防止やモラル違反に考慮しつつ、相続などにより土地所有権を取得した人のために土地を手放して国に引き取ってもらうことができる制度が創設されることになりました。

ひとことで言うと、土地を相続した人がその土地を手放して国に引き取ってもらうことができる制度、というわけですね。

司法書士K

そのとおりです。

誰が申請できますか?

誰が申請できますか?

司法書士K

相続や遺贈(遺言で財産を譲ることです。ここでは相続人に対するものに限ります。)により土地の所有権または共有持分を取得した人です。

共有持分ってなんですか?

司法書士K

複数人でひとつのものを共有するときの所有権の割合のことです。

共有持分を相続で取得した人は、自分ひとりだけで申請できますか?

司法書士K

共有となっている土地は、共有者全員が共同で申請する必要があります。

司法書士K

共有者の中に売買で共有持分を取得した人がいても、相続(遺贈)で共有持分を取得した人と共同であれば、申請することができます。

共有者の中に売買で共有持分を取得した人がいても、相続で共有持分を取得した人と共同であれば申請できる。
所有権の全部を売買で取得した人は、申請できないということですね?

司法書士K

はい。また、相続人でも生前贈与を受けた人は対象外ですので、注意が必要です。

相続人でも生前贈与を受けた人は対象外。

申請できる土地にはどんな条件がありますか?

申請できる土地にはどんな条件がありますか?

司法書士K

さきほどみたように、国の財政負担の増加防止やモラル違反に考慮する必要がありますので、次のような土地は申請できません。
申請しても却下されます。

申請をすることができないケース

  1. 建物が建っている土地
  2. 担保権や使用・収益を目的とする権利が設定されている土地
  3. 通路その他の他人による使用が予定される土地
  4. 土壌汚染対策法上の特定有害物質により汚染されている土地
  5. 境界が明らかでない土地、その他の所有権の存否・帰属・範囲について争いがある土地
司法書士K

どれも第三者との争いや国の費用負担増加が生じるおそれのあるものです。

司法書士K

③の「その他の他人による使用が予定される土地」とは、「墓地、境内地、現に通路・水道用地・用悪水路・ため池の用に供されている土地」ということになります。

なかなか厳しそうですね。

司法書士K

はい。
山林を手放したいという要望は多いと思いますが、山林は土地の境界が明らかでないものが多く、手放すのは難しいといわれています。

これらの条件をクリアしていれば、申請は承認されますか?

司法書士K

申請することはできますが、「通常の管理・処分が難しそうな」次の土地のいずれかに当てはまるものは承認されません。

承認を受けることができないケース

  1. 崖地(勾配が30度以上であり、かつ、高さが5メートル以上のもの)
  2. 土地の管理・処分を阻害する工作物・車両・樹木などが地上にある土地
  3. 土地の管理・処分のために除去が必要な物が地下に埋まっている土地
  4. 隣接する土地の所有者などと争訟が必要な土地(隣接所有者等によって通行が現に妨害されている土地|所有権に基づく使用収益が現に妨害されている土地)
  5. その他の通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地
司法書士K

⑤その他の通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地については、次のような土地が想定されています。

その他の通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地の具体的ケース

  • 土砂崩落、地割れなどに起因する災害による被害の発生防止のため、土地の現状に変更を加える措置を講ずる必要がある土地(軽微なものを除く)
  • 鳥獣や病害虫などにより、当該土地又は周辺の土地に存する人の生命若しくは身体、農産物又は樹木に被害が生じ、又は生ずるおそれがある土地(軽微なものを除く)
  • 適切な造林・間伐・保育が実施されておらず、国による整備が追加的に必要な森林(軽微なものを除く)
  • 国庫に帰属した後、国が管理に要する費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地
  • 国庫に帰属したことに伴い、法令の規定に基づき承認申請者の金銭債務を国が承継する土地

たとえば、地上に樹木が生えていても、通常の管理に支障がない範囲であれば条件クリアになりますか?

司法書士K

そうですね。認められると思います。

やはり全体的に条件はなかなか厳しい印象ですね。

負担金(費用)

負担金がかかると聞きました。

司法書士K

はい。審査の承認を受けた人は、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金を納付しなければなりません。

司法書士K

負担金算定の具体例は次のようになります。

宅地面積にかかわらず、20万円
ただし、一部の市街地の宅地については、面積に応じ算定
(例)
100㎡ 約55万円
200㎡ 約80万円
田、畑面積にかかわらず、20万円
ただし、一部の市街地、農用地区域等の田、畑については、面積に応じ算定
(例)
500㎡ 約72万円
1,000㎡ 約110万円
森林面積に応じ算定
(例)
1,500㎡ 約27万円
3,000㎡ 約30万円
その他(※雑種地、原野等)面積にかかわらず、20万円
(負担金算定の具体例)

手続きの流れ

手続きの流れについて、詳しく聞きたいです。

司法書士K

はい。基本的な手続きの流れは次のようになります。

STEP
承認申請

承認申請書と法務省令で定める添付書類を法務大臣(法務局)に提出し、申請手数料を納付します。
添付書類の詳細は未定です。

STEP
法務大臣(法務局)による要件審査

必要があれば、職員が実地調査をします。

STEP
承認処分

法務大臣は承認申請された土地が、「承認されない土地に該当しない」と認めるときは、承認をしなければなりません。
次の場合は申請「却下」となります。

  1. 承認申請の権限がない人による申請
  2. 申請できない土地についての申請、申請書類・添付書類・手数料に違反があるとき
  3. 申請者が正当な理由なく調査に応じないとき
STEP
負担金の納付

負担金を納付した時に、申請した土地の所有権が国に移転します。

法務大臣の承認があった後に、申請者が偽りその他不正の手段により承認を受けたことが判明したときは、法務大臣は、承認を取り消すことができます。

相続土地国庫帰属制度はいつから始まりますか?

この制度はいつから始まりますか?

司法書士K

2023(令和5)年4月27日から始まります。

その日より後に相続があった土地しか対象にならないんですか?

司法書士K

相続によって取得した土地であれば、法律の施行前・施行後に関わらず、制度の対象となります。
例えば、数十年前に相続した土地であっても、対象となります。

まとめ

  • 相続土地国庫帰属制度は、所有者不明土地の発生を抑制するために、国の財政負担の増加防止やモラル違反に考慮しつつ、相続などにより土地所有権を取得した人のために土地を手放して国庫に帰属させることができる制度です。
  • 申請できるのは、相続や遺贈(相続人に対する遺贈に限ります。)により土地の所有権または共有持分を取得した人です。
  • 申請できる土地には条件があります
  • 審査の承認を受けた人は、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金を納付しなければなりません。

【ご参考】弁護士荒井達也先生の『負動産の窓口』サイト

『負動産の窓口』不要な土地を自分の代で片付けたい方のための総合サイト
https://souzokutochi-kokkokizoku.com/
『Q&A 令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響』著者の弁護士荒井達也先生による解説サイトです。
より詳しく相続土地国庫帰属法や土地を手放す制度について知りたい方はこちらのサイトをご参照ください!

参考書籍

『Q&A 令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響』荒井達也(著)|日本加除出版

『Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』村松秀樹・大谷太(著・編集)|きんざい

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この記事を書いた人

愛媛県四国中央市出身
早稲田大学政治経済学部卒業

平成28年司法書士試験合格
平成29年から約3年間、東京都内司法書士法人に勤務
不動産登記や会社・法人登記の分野で幅広く実務経験を積む

令和2年から香川県高松市にて開業
地元四国で超高齢社会の到来による社会的課題への取組みや地方経済の発展のために尽力している

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