香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
相続人に認知症・知的障害・精神障害など意思能力を欠く人がいる場合は、遺言書を作成すべき典型例のひとつにあげられます。
理由は、相続が開始したときに、遺言書がなければ、相続人全員で遺産を分ける話し合い(遺産分割協議)をしなければならないからです。
相続人の中に正常な判断能力がない人がいる場合は、家庭裁判所に申立てをして成年後見人を選任してもらわなければなりません。
家庭裁判所に選ばれた成年後見人が遺産分割協議に参加することになりますが、成年後見人は本人の利益のために法定相続分を確保する必要があります。
また、成年後見制度は、現状、本人が亡くなるまで続くのが一般的で、遺産分割という目的が達成されても終了するものではありません。
そういう理由で遺言書を書いておいたほうがよいとされています。
今回は障害のある子のために遺言書を作成する際に注意すべき点をとりあげます。
親なき後問題とその対策
遺言書を書きたいと思っています。
万が一に備えておいたほうがいいですよね。
うちの子に知的障害がありまして、遺言書を書いておいた方がいいと言われました。
たしかに、書いておいたほうがいいと思います。
遺言書があれば、私の相続人が遺産分割協議をしなくていいんですよね?
そうですね。
遺言の内容にもよりますが。
対策として少なくとも遺言書を作成しておくことは必要だと思います。
他にどんな対策をしておけばよいでしょうか?
家族信託という方法もあります。
家族信託?
家族信託は、財産の管理を信頼できる家族に託す契約です。
その財産を託す相手を「受託者」といいますが、その受託者に財産の管理権や形式的な名義が移り、財産から生じる利益は「受益者」が受けられるというものです。
いまのお話だと、受益者を知的障害のあるお子さんにするということです。
受託者にするとしたら、もうひとり子がいるので、その子になるかもしれませんが、遠方で働いているし、そう簡単にこちらに戻ってこれるかどうかわかりません。
家族信託についてはいずれ検討するとして、取り急ぎ遺言書を作成しておきたいです。
わかりました。
ご家族の構成を教えてください。
さきほど少しお伝えしましたが、家族構成はこんな感じです。
子が2人いて、Aには知的障害があり、Bは遠方で働きながら生活しています。
今のところこちらに戻ってくる予定はありません。
それで財産は何がどれくらいありますか?
預貯金が5000万円ほどです。
成年後見制度と遺留分
それで、財産はどう分けたいですか?
これまでAにずっとかかりきりで、じゅうぶんな財産も与えてきました。
でもBには何もしてあげられなかったので、残りの財産はすべてBに渡したいです。
そして、BにはAの世話をさせたくないので、Aには専門職の成年後見人をつけてもらいたいと思っています。
わかりました。
まず、Aさんにこれまでどれだけの財産を与えてきたかはわかりませんが、全財産をBさんに相続させる遺言をすると、Aさんの「遺留分」を侵害する可能性があります。
いりゅうぶん?
はい。
兄弟姉妹以外の相続人(配偶者や子、親)に認められる法律で決められた最低限度の遺産取得割合のことです。
基本的に財産の処分は本人の自由なんですが、一定の相続人に対する生活保障、相続人間の公平な分配の確保という観点から、一定の制限を加える遺留分制度というのがあります。
そうなんですか。
その遺留分とやらを無視して遺言したらどうなりますか?
遺留分を侵害する内容の遺言であっても有効です。
遺留分の権利がある人は遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます。
請求されたらそれに従うしかないってことですか。
そういうことです。
Aには判断能力がなく、遺留分の請求ができないんじゃないですか。
そうなんです。それで、さきほどAさんには専門職の成年後見人をつけたいということでしたけど…?
そうです。
Bには、Aに後見人をつけるように言っておくつもりです。
それで、その後見人には遺留分を請求しないでほしいと伝えればいいんですね。
お気持ちは非常によくわかるのですが…もし、Aさんに後見人がついて、遺留分を侵害する遺言書がみつかったときは、後見人は遺留分を請求するしかありません。
え!そうなんですか。
どんなにお願いしても?
はい。
後見人は本人の利益のために財産を確保する必要がありますので。
家庭裁判所も、後見人が遺留分を請求しないという選択を基本的には認めないんですよ。
そうなんだ!
なのでAさんの後見人が、Bさんに遺留分侵害額を請求することになり、後見人とBさんの関係を悪化させる原因にもなりかねません。
ということは、やはりAの遺留分を考慮した内容の遺言にしたほうがいいということですか?
それが無難でしょうね。
まとめ
- 相続人に認知症・知的障害・精神障害など意思能力を欠く人がいる場合は、遺言書を作成すべき典型例のひとつにあげられます
- 遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人(配偶者や子)に認められる法律で決められた最低限度の遺産取得割合のことです
- 成年後見人は、本人の遺留分を侵害している財産処分(遺言・生前贈与など)に対して、遺留分侵害額請求をしないという権限はありません。
参考書籍
『新訂 設問解説 相続法と登記』幸良秋夫(著)|日本加除出版
『3訂版 遺言相談標準ハンドブック』奈良恒則・麻生興太郎・佐藤健一・中條尚・野口賢次・佐藤量大(著)|日本法令
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