会社法322条「ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれ」

香川県高松市の司法書士 川井事務所です。

スタートアップ企業のよくある失敗のひとつに種類株主総会の決議をしていないというのがあります。

種類株主総会の決議が必要な事項なのに、その決議をとっていなければ無効ということになります。
しかもそれが発覚するのはたいていの場合、上場前の審査だったりという、とにかく重要すぎる場面です。

ベンチャーキャピタルなどの投資家から出資を受ける際に種類株式を発行することは、ひと昔前に比べてずいぶん一般的になってきたようにみえますが、やはり、種類株式を発行すると総会運営の難易度が格段にあがる印象です。

今回は、種類株主総会の決議が必要な場合のうち、実務上、特に重要と思われる会社法322条の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合、種類株式を発行する際の株主総会の決議、種類株主総会の決議を要しない旨の登記などについて取り上げます。

目次

会社法322条の内容

会社法第322条第1項で、種類株式発行会社が、ある行為をする場合に、ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、種類株主総会の決議が必要である旨を定めています。

そしてどんな行為が損害を及ぼすおそれがあるかを列挙しています。

(ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合の種類株主総会)
第322条 種類株式発行会社が次に掲げる行為をする場合において、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該行為は、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が二以上ある場合にあっては、当該二以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会。以下この条において同じ。)の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。

そして、1項の列挙事由を次のように分類することができます。

定款変更

1号 次に掲げる事項についての定款の変更(第111条第1項又は第2項に規定するものを除く。)

 イ 株式の種類の追加

 ロ 株式の内容の変更

 ハ 発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加

特別支配株主による株式売渡請求の承認

1号の2 第179条の3第1項の承認

無償行為

2号 株式の併合又は株式の分割

3号 第185条に規定する株式無償割当て

4号 当該株式会社の株式を引き受ける者の募集(第202条第1項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)

5号 当該株式会社の新株予約権を引き受ける者の募集(第241条第1項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)

6号 第277条に規定する新株予約権無償割当て

組織再編

7号 合併

8号 吸収分割

9号 吸収分割による他の会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部の承継

10号 新設分割

11号 株式交換

12号 株式交換による他の株式会社の発行済株式全部の取得

13号 株式移転

14号 株式交付

スタートアップの実務に限っていえば、この列挙事由のうち、重要なものは第1号の定款変更でしょう。

たとえば、普通株式とA種種類株式を発行している種類株式発行会社が、新規にB種種類株式を発行できるように定款変更する場合には、普通株式とA種種類株式の種類株主総会の承認決議がないと定款変更の効力が発生しないということになります。

話は脱線しますが、

種類株式発行会社の普通株式は種類株式のひとつです。

誤解されがちですが、「普通株式」は単なる名称にすぎず、極端な話をすれば、内容が無議決権株式でその名称を「普通株式」としても問題はありません。

普通そんなことはしませんが、とにかく、いわゆる普通株式も種類株式ですので、普通株式の種類株主による種類株主総会決議を忘れないようにしましょう。

本題に戻りますが、1項の列挙事由のうち2号以下をスタートアップ実務ではあまり見たことはありません(組織再編を除きます)。

株式の分割をするかもしれませんが、株式の全部を分割するはずで、一部の種類の株式だけを分割するというのは、今のところ見たことがないです。

仮に、たとえば、普通株式とA種種類株式を発行している種類株式発行会社が、A種種類株式だけを株式分割しようとする取締役会決議(または株主総会決議)に対して、議決権や剰余金の配当で損害を被りかねない普通株式の種類株主による種類株主総会の承認がなければ効力を生じません。

なお、322条1項は「例示列挙」だという説が主流のようですが、拡大解釈しないことが重要だと考えられます。

拡大して解釈すると種類株主に拒否権を与えるような形となってしまうからです。

定款で種類株主総会を不要にできる2つの場合(会社法322条と199条4項)

322条

上でみたように、会社法322条1項で、ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとして種類株主総会が必要となる行為について規定していますが、2項で「種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる」と規定しています。

第322条
2 種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、前項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる。

種類株主の立場はともかくとして、会社側の立場からすると、上で見た例示列挙説のこともあり、2項の種類株主総会の決議を要しない旨を定めておいたほうが安心だといえます。

ただし、

同条3項により、同条1項1号の3つの定款変更議案(イ.株式の種類の追加、ロ.株式の内容の変更、ハ.発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加)については、決議不要とはできませんので注意が必要です。

第322条
3 第1項の規定は、前項の規定による定款の定めがある種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会については、適用しない。ただし、第1項第1号に規定する定款の変更(単元株式数についてのものを除く。)を行う場合は、この限りでない。

199条4項

会社法199条4項は、種類株式である譲渡制限株式を募集するときには、当該種類株式の種類株主総会の決議がなければ募集事項の決定は効力を生じないとしています。

あわせて、「定款で種類株主総会の決議を要しない旨を定めることができる」ともしています。

(募集事項の決定)
第199条
4 種類株式発行会社において、第1項第1号の募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の株式に関する募集事項の決定は、当該種類の株式を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。

なお、新株予約権の発行についても、同じ趣旨の規定として238条4項があり、吸収合併等の組織再編で対価が譲渡制限株式の場合についても795条4項があります。

これらも定款で種類株主総会の決議を要しない旨を定めておくのが無難かと思います。

募集株式発行は322条の損害を及ぼすおそれがある場合に該当しないのか?

ところで、募集株式発行(第三者割当て)は322条の損害を及ぼすおそれがある場合に該当しないのか?と個人的に疑問に思ったことがありました。

つまり、たとえば、普通株式とA種種類株式を発行することができる種類株式発行会社が、A種種類株式を発行すると普通株式の種類株主に損害を及ぼすのではないかということです。

しかし、322条1項1号ハに「発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加」があるということは、その枠内の募集株式の発行である限り、「損害を及ぼすおそれ」がないというのが会社法の立場だとされています。

また、募集株式発行のうち、株主割当てだけが1項4号に挙げられていることからも、第三者割当てについては、種類株主総会の決議は不要と考えられています。

ただし、普通株主だけに1株あたり安い金額で株式を発行するとしたら、他の株主に損害を及ぼすおそれが生じます。

この場合、判断は難しくなってきそうです(そう見かけるケースではないと思いますが)。

やはり322条2項の種類株主総会の決議を要しない旨を定めておくのが無難と思われます。

種類株主総会の決議を要しない旨の登記

種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めの例としては次のようになります。

(種類株主総会)
第〇条 当会社は、会社法第322条第3項ただし書きの場合を除き、同条第1項に定める種類株主総会の決議を要しない。
2 当会社は、会社法第199条第4項、第238条第4項、第795条第4項に定める種類株主総会の決議を要しない。

1項、2項で分ける理由は、1項のほうは株式の内容であり登記事項であるためです(会社法第911条第3項第7号)。

第322条
2 種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、前項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる。

第911条
3 第一項の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。
七 発行する株式の内容(種類株式発行会社にあっては、発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容)

まとめ

  • 会社法第322条第1項のある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがある行為のうち、「株式の種類の追加」「株式の内容の変更」「発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加」については必ず種類株主総会の決議が必要です
  • 会社法199条4項は、種類株式である譲渡制限株式を募集するときには、当該種類株式の種類株主総会の決議がなければ募集事項の決定は効力を生じないとしていますが、あわせて、定款で種類株主総会の決議を要しない旨を定めることができるとしています
  • 原則として、募集株式の発行は322条の損害を及ぼすおそれには該当しないと考えられます
  • 種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、会社法第322条第1項に定める種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができ、その定めは登記事項になります

参考書籍

『募集株式と種類株式の実務【第2版】』金子登志雄・富田太郎(著)|中央経済社

『ベンチャー企業の法務AtoZ』後藤勝也・林賢治・雨宮美季・増渕勇一郎・池田宣大・長尾卓(編集)|中央経済社

『起業のエクイティ・ファイナンス』磯崎哲也(著)|ダイヤモンド社

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この記事を書いた人

愛媛県四国中央市出身
早稲田大学政治経済学部卒業

平成28年司法書士試験合格
平成29年から約3年間、東京都内司法書士法人に勤務
不動産登記や会社・法人登記の分野で幅広く実務経験を積む

令和2年から香川県高松市にて開業
地元四国で超高齢社会の到来による社会的課題への取組みや地方経済の発展のために尽力している

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