香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
合同会社の設立件数は年々増えており、認知度も上がってきたように感じます。
合同会社 | 株式会社 | |
---|---|---|
2020年 | 33,236 | 85,688 |
2019年 | 30,566 | 87,871 |
2018年 | 29,076 | 86,993 |
2017年 | 27,270 | 91,379 |
2016年 | 23,787 | 90,405 |
有名な合同会社としては、アップルジャパン、アマゾンジャパン、グーグル、ユニバーサルミュージックなどがあります。(※有名な合同会社の例でよく出てくる西友は2022年1月6日に株式会社に組織変更しています。)
世間の認知度があがってきた合同会社ですが、株式会社との違いとしてよくいわれるのは、設立コスト・維持コストが安いことや経営の自由度が高いなどいわれています。
だからといって、安易に設立してよいのでしょうか。
この記事では、これから事業をはじめようとする人が、スタートでつまづいて後悔することがないように、合同会社の特徴などについて解説しています。
起業をお考えの方、特に友人や仲間と合同会社を設立しようとお考えの方には、ご参考になる内容となっています。
合同会社の特徴
合同会社をつくりたいと思っている者です。
AppleもAmazonも合同会社なんですよね?
日本法人はそうみたいですね。
でも合同会社って何なんですか?
なんで株式会社と比較されるんですか?
株式会社も合同会社も会社法を根拠に設立することができる法人です。
もっといえば、会社法を根拠に設立することができる会社は大きく分けて株式会社と持分会社の2つがあり、さらに持分会社は合名会社・合資会社・合同会社の3種類があります。
え?そうなんですか?合名会社と合資会社・・・とは?
まず、法人の「社員」について知っておく必要があります。
法人の構成員のことを法律上「社員」といいまして、世間一般でいう正社員とか派遣社員など従業員のことを意味する社員とは異なるものです。
まぎらわしいですね。
株式会社の「社員」のことを特別に「株主」といいます。
そうなんですか。
はい。
で、さきほどの会社の種類の話に戻りますけど、この社員の責任が「有限責任」か「無限責任」かで種類が分かれています。
「有限責任」と「無限責任」・・・株式会社の回でやりましたね。
「有限責任」の発明により経済が大きく発展してきたという話ですね。
はい。
会社の種類と社員の責任をまとめると次の表のようになります。
会社の種類 | 社員の責任 |
---|---|
株式会社 | 有限責任 |
合同会社 | 有限責任 |
合資会社 | 無限責任+有限責任 |
合名会社 | 無限責任 |
合名会社と合資会社には無限責任社員がいるんですね。
そうですね。
だから、現在は設立件数が少ないのかもしれません。
株式会社と合同会社は社員(株主)の責任が有限責任だから会社を選ぶときの2択にあがってくるわけですね。
では株式会社と合同会社は何が違うんですか?
難しい質問ですね。
株式会社は、法律上、株主と経営者が分かれていましたが、合同会社は原則として出資した社員が経営します。
所有と経営がわかれていないと。
そうですね。
会社法って登場人物が「社員(株主)」「経営者」「債権者」の三者だけなんですよ。
その三者の利害関係を調整するのが「会社法」という法律です。
会社法の条文のほとんどは株式会社を規定するもので、持分会社の規定は少ないんです。
社員(出資者)と経営者が同一人物ということは、会社(社員=経営者)と債権者との間の利害関係さえ調整できていればよいということになります。
合名会社と合資会社に至っては無限責任社員がいるので、債権者との利害も調整する必要がありません。
つまり?
合同会社は、債権者に損害を与えるようなことをしない限り、けっこう自由な経営をすることができるといえます。
それに、「社員=経営者」なので、株式会社のように株主が経営者に会社経営を委任するという関係になく、経営者に任期という考え方がありません。
つまり、定期的に役員の登記をしなくていいですし、株式会社と違って決算公告もする必要がありません。
それらのコストがかからないため、会社の維持コストは抑えることができます。
また、会社設立のときの登録免許税が安いこと、定款認証が必要ないことから、会社設立コストも低く抑えることができます。
合同会社 | 株式会社 | |
---|---|---|
登録免許税 | 6万円 または 資本金の額×0.7% いずれか高い額 | 15万円 または 資本金の額×0.7% いずれか高い額 |
定款認証代 | なし | 3万円~ |
合計 | 6万円~ | 18万円~ |
※株式会社は定款謄本代約1,200円かかります。
自由!安い!合同会社をつくります!
自由っていいように聞こえますけど、難しいですよ。
え?
「目の前にある花の絵を描いてください」と「心に浮かんだ風景を自由に描いてください」と言われて、どっちの絵が描きやすいですか?
え?
言われてみれば、自由に描くほうが難しいかも・・・
しかも自由に描いたものが評価されるかどうかの問題があります。
一見、自由に描かれた絵でも絵画の基本や歴史をわかった上で描かれたものでなければ評価はされにくいです。
いったい何の話をしてるんですか。
それと同じで、いくら自由といっても、法律や税務のルールを逸脱するわけにはいきません。
たとえば社員への利益配分が自由だといわれていますが、何でもアリという意味ではないですね。
それって法律や税務がわかっている人じゃないと自由な会社設計が難しいことですか?
そうですね。
合同会社の設立のご依頼をいただくとけっこう緊張しますよ。
株式会社も緊張しますけど。
合同会社は他にどんな特徴がありますか?
株式会社のように、多額の資金を調達するということには向いていません。
株式上場のように市場で資金を調達するということはできません。
そうなんですか。
合同会社は原則として、会社に出資した社員が経営しますが、投資家が経営に興味があるとは限りません。
そうですね。
合同会社は先ほどから言われているように自由な会社設計ができますから、一部の社員に経営に参加させないこともできます。
じゃあ問題ないんじゃないですか?
でもほとんどの場合、投資家の目的は出資に対するリターンです。
そうかも。
リターンには2種類あって、ひとつは株式上場やM&Aによる株式売却益、いわゆるキャピタルゲイン。
もう1つは利益の配当、いわゆるインカムゲインです。
はい。
先ほど言ったように合同会社に株式上場にあたるものはないですし、合同会社を売却するのは不可能ではないですが、株式会社に比べてかなりの制限はあります。
インカムゲインしか期待できないってことですか。
そうですね。
なので投資家から多額の資金を調達することは難しいです。
他にどんな特徴がありますか?
株式会社と違って、社員の出資比率に関係なく会社の意思決定がされる点です。
ちょっと何言っているかわからないです。
たとえば、社員Aが90万円、社員Bが10万円を出資して合同会社を設立したとしましょう。
はい。
A・B両方の意見が一致しなければ会社の意思決定ができません。
これが株式会社であれば、議決権9割を保有するAがほぼ何でも決定できることになりますが、合同会社の場合は、原則として、1人1議決権というイメージです。
へえ。
株式会社の感覚に慣れていると違和感ありますね。
9割出資していても、1割しか出資していない人の意見を聞かないといけないなんて。
友人や仲間と合同会社を設立してよいか?
実は、いっしょに起業しよう!と盛り上がっている仲間がいるのですが。
あー、それはよく考えたほうがいいです。
実は、私が90万円、相方が10万円出し合って合同会社を作ろうって話をしていました。
さっき出てきた例と全く同じじゃないですか。
内心ドキドキしてました。
さっきの1人1議決権の話のほかに、利益の配当の話をしておきましょう。
お願いします。
合同会社は事業による損益が社員に分配されます。
定款で別段の定めを置かなければ、各社員の出資額の割合で分配されます。
社員Aが90万円、社員Bが10万円の例でいきましょう。
それでお願いします。
会社設立時の出資額はそれぞれ全額を資本金に計上、利益が200万円出たとしましょう。
はい。
200万円の利益はA:B=9:1の割合で分配されることになります。
資本金 | 損益 | 持分 | |
---|---|---|---|
社員A | 90万円 | 180万円 | 270万円 |
社員B | 10万円 | 20万円 | 30万円 |
合計 | 100万円 | 200万円 | 300万円 |
この各社員の資本金と利益の合計が「持分」と呼ばれるものです。
そういえば最初に合同会社は持分会社の種類の1つという話がありましたね。
そうです。
ここが株式会社と異なるところの1つでもあります。
勝手に株式会社の簡易版みたいに思ってましたけど、全然違いますね。
合同会社の外からみれば、いま資本金100万円・利益200万円の状態ですが、合同会社の内部では社員ごとに資本金と利益が計上されている状態です。
うーん。
この社員ごとに財布が分かれているという感覚を理解できた方がいいですし、万が一、AかBのどちらかが会社を去ることになった場合の手続きはかなり面倒ですよ。
相方と共同で合同会社を作る話は再検討したほうがよさそうです。
はい。
始める前によく考えて会社の設計をすることをおすすめします。
合同会社に向いている業種
合同会社、思っていたよりも難しそうです。
どういう場合に合同会社が選択されるんですか?
冒頭に言っていたAppleやAmazonなどのアメリカの会社の日本法人が合同会社にしている理由はいろいろあると思いますが、ひとつにアメリカの税制が有利(※)になるからと言われています。
日本法人自体はもちろん課税されますが。
(※)パススルー課税を選択できるようになるという理由ですが、パススルー課税についてはここでは説明を省略します。
そうなんですか。
じゃあこれから起業しようという人が真似するところではないですね。
そうですね。
有名な会社の日本法人が合同会社を選択することで、合同会社の認知度が上がってきたことは確かです。
とはいえ、株式会社と比べるとまだ認知度は低いので、会社名が前面に出ない業種だと向いているかもしれません。
たとえば?
飲食店や美容系サロンなど店名が前面に出るもの、サービス名が前面に出るITサービスや、個人の能力に頼るところが大きいコンサルティング事業などが合同会社に向いているといえます。
なるほど~
ただ、たとえば、飲食店でもいずれは全国チェーンを展開したいというような展望があるのであれば、はじめから株式発行で資金調達しやすい株式会社を選択したほうがいいかもしれません。
そっか。
あとは個人や家族のための資産管理会社を作りたい場合は、合同会社がおすすめです。
法人のメリットを受けつつ、会社の維持コストも低く抑えることができます。
他にも「産学連携」によるベンチャーや「合弁事業」などに向いているとされています。
いろいろ参考になりました。
いったん合同会社を作ったら株式会社に変更することはできますか?
合同会社から株式会社に組織変更することはできますし、その逆に株式会社から合同会社に組織変更することもできます。
ただコストと時間はかかるので、やはり会社設立時によくよく考えて決めたほうがいいですね。
まとめ
- 合同会社は会社法上の持分会社のひとつで、社員の責任は株式会社と同じ「有限責任」
- 株式会社と比べて設立コストや維持コストは低く抑えることができる
- 所有と経営は分離されておらず、債権者に損害を与えるようなことをしない範囲で自由な経営が認められている
- 株式の上場にあたるものはないし、会社の売却は難しいためキャピタルゲインを得る目的は考えにくい
- 社員が複数いる場合は、各自の財布は別で管理しなければならない
- 飲食店や美容系サロンなど店名が前面に出るもの、サービス名が前面に出るITサービスや、個人の能力に頼るところが大きいコンサルティング事業などが合同会社に向いている
- 個人や家族のための資産管理会社に向いている
参考書籍
『商業登記実務から見た 合同会社の運営と理論(第2版)』金子登志雄(監修)、立花宏(著)|中央経済社
『5つの定款モデルで自由自在「合同会社」設立・運営のすべて(第2版)』神﨑満治郎(著)|中央経済社
『合同会社の法務・税務と活用事例(改訂版)』太田達也(著)|税務研究会出版局
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