香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
子の配偶者は相続人ではありません。
つまり、息子の妻に遺産を「相続させる」ことはできません。
しかし、息子の妻に財産を分け与えることができないということではありません。
方法としては、遺言により遺贈する、生命保険の受取人とする、生前贈与する、養子縁組をするなどが考えられます。
今回は、相続人とならないこの配偶者に財産を譲るための対策と問題点などについて取り上げます。
子の配偶者は相続人ではありません
私には長男と長女の2人の子がいます。
私たち夫婦は長男夫婦と同居していました。
ところが、パートナーに先立たれ、つい先日長男も他界しました。
いまは、私と長男の嫁と二人で暮らしています。
長女は遠方に住んでおり、たまに帰ってくる程度です。
ご長男夫婦にお子さんはいらっしゃらないんですか?
いません。
わかりました。
それで、私も体調がよくなかったりするんですが、長男が亡くなった後も嫁が献身的に世話をしてくれていて。
なんとか私の財産を長男の嫁にも相続させてやりたいと思っているんです。
お気持ちはわかりました。
ただ、ご長男の奥様には相続権がありませんので、相続させることはできません。
長男の嫁には相続させることができない。
はい。
法律で相続人になる人は決まっていて、さらにその順位が決まっています。
相続順位 | 相続人 |
---|---|
常に相続人 | 配偶者 |
第1順位 | 子(代襲相続により孫になることも) |
第2順位 | 親など上の世代 |
第3順位 | 兄弟姉妹(代襲相続により甥姪になることも) |
出た。
つまり、いまのお話を聞く限り、相続人はご長女おひとりということになり、すべての財産を相続することになります。
もし、仮にご長男夫婦にお子さんがいたとしたら、その子が相続人になることができました。
これを「代襲相続」といいます。
この場合は、家族としてみれば、ご長男の奥様の献身がある程度報われるのかもしれませんが…。
わかりました。
で、何か方法はないんですか?
いくつか方法があります。
子の配偶者に財産を譲る方法
遺言による遺贈
まずは遺言書を作成するという方法があります。
遺言書を作成する。
自分が亡くなった後に、相続人以外の人に自分の意思で財産を渡すには、この方法しかないといえます。
遺言により財産を譲り渡すことを「遺贈」といいます。
遺贈。
ぜひ遺言書を書きたいです。
全財産を長男の嫁に遺贈すると書けばいいですか?
そういった内容の遺言をすることもできます。
ただし、子には「遺留分」がありますので、遺留分に配慮した遺言にしたほうが無難でしょう。
いりゅうぶん?
兄弟姉妹以外の相続人(配偶者や子)に認められる法律で決められた最低限度の遺産取得割合のことです。
基本的に財産の処分は本人の自由なんですが、一定の相続人に対する生活保障、相続人間の公平な分配の確保という観点から、一定の制限を加える遺留分制度というのがあります。
そうなんですか。
今回のケースだと、唯一の相続人であるご長女が全財産を相続されるため、その半分が遺留分として認められます。
半分も。
遺留分を無視したらどうなりますか?
遺留分を侵害している遺言も有効です。
ただし、遺留分の権利者が権利を行使したら、遺贈を受けた人は遺留分権利者に対して遺留分侵害額にあたる金銭を払わなければなりません。
遺留分を侵害している遺言も一応有効だけど、遺留分を行使されたら遺留分侵害額を払わなければならない。
たしかに気をつける必要がありますね。
私の場合、長女に遺産の半分を相続させて、長男の嫁に遺産の半分を遺贈するとしておくのが無難ということですか?
そうですね。
わかりました。
とにかく遺言書はつくるようにします。
相続人ではないご長男の奥様に財産を遺贈する場合、もし相続税がかかるケースであれば、相続税が2割加算されますので、その点も注意が必要です。
生前贈与
今から贈与するということもできます。
生前贈与といったりしますが。
生前贈与。
ただし、年間110万円を超える贈与は、贈与税がかかります。
贈与税の税率は相続税の税率よりも高いです。
ということは、毎年少しずつ贈与していけばいいですか?
そうですね。
いわゆる「暦年贈与」という方法です。
相続税対策としても使われます。
考えてみます。
もし暦年贈与をする場合は、税理士さんに相談した方がいいでしょう。
生命保険の受取人とする
ご長男の奥様を生命保険の受取人とする方法もあります。
生命保険の受取人とする。
いいかもしれない。
ただし、ご長男の奥様は相続人ではありませんので、死亡保険金の非課税枠が適用されません。
非課税枠?
死亡保険金の非課税金額
500万円×法定相続人の人数=生命保険金の非課税金額
「相続人」が保険金を受け取る場合に限り、「500万円×法定相続人の人数」が非課税となります。
それが適用されないということです。
わかりました。
養子縁組する
ご長男の奥様と養子縁組することで、法律上の親子関係になることができます。
養子縁組!
結果、ご長男の奥様は、法律上は相続人となります。
おお。
相続人が増えたことにより、ご長女の遺留分も減ることになります。
あわせて遺言することにより、より確実にご長男の奥様に財産を渡すことができるようになりますが・・・。
いいじゃないですか。
しかし、この場合はご長女が反発して、相続争いになるおそれがあります。
そうかもしれない。
難しいですね。
特別寄与分の請求
平成30年民法改正(令和元年7月1日施行)により相続人以外の人の故人に対する貢献を考慮する制度が新設されています。
「特別寄与の制度」です。
特別寄与の制度。
改正前は「寄与分」は相続人にのみ認められていました。
それだと、たとえば、今回のように「相続人の配偶者」が故人の療養看護に務めたり、故人の財産の維持・増加に寄与しても、何も財産の分配を請求することができず、不公平という指摘がされていました。
そうかもしれない。
そこで、故人の親族が献身的に療養看護に務めたなどの事情があれば、特別寄与料を請求することができるようになりました。
なるほど。
でも、これは、私が何かするというより、長男の嫁が自分で請求しないといけないものですね。
そうです。
これは事前に対策していなかった場合の救済策的なものです。
なので、ご長男の奥様にご負担をかけたくないのであれば、何らかの対策をしておくほうがよいと思います。
そうですね。
まとめ
- 子の配偶者は相続人ではありません。
- 相続人でない息子の妻に財産を渡す方法としては、遺言により遺贈する、生命保険の受取人とする、生前贈与する、養子縁組をするなどが考えられます。
- 特別寄与分という制度も創設されています。
参考書籍
『3訂版 遺言相談標準ハンドブック』奈良恒則・麻生興太郎・佐藤健一・中條尚・野口賢次・佐藤量大(著)|日本法令
『一問一答 新しい相続法〔第2版〕』堂薗幹一郎・野口宣大(著)|商事法務
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