香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
ストックオプションについて、一昔前と比べるとずいぶんと認知度はあがってきている印象ですが、いまいちよくわからないという人は多いと思います。
また、スタートアップ企業のよくある失敗のひとつに、ストックオプションの設計ミスというのがあります。
今回は、スタートアップ企業が発行するストックオプションについて、その仕組みやメリット、税制、退職したときどうなるか、発行するときの注意点など取り上げます。
ストックオプションの仕組み
ストックオプション、ほしいですか?
ストックオプション、ほしいです。
ですよね。
・・・もしかして、もらえるんですか?
あげません。
・・・・・。
・・・・・。
うちの役員、従業員に与えたいと思っています。
さすが社長。
ストックオプションとは
ストックオプションとは、役員や従業員、場合によっては一定の要件を満たす外部協力者に対して、将来、ある一定の条件で、あらかじめ決められた行使価額で会社の株式を取得することができる権利です。
具体例
株価が1株10,000円の時に「将来、1株10,000円で自社の株式を購入することができる」という内容のストックオプションが無償で付与されたとします。
将来、企業価値が上昇して株価が1株40,000円になり、その時点でストックオプションを行使(1株10,000円で購入)して、その後1株50,000円の時に売却したら、その差額40,000円が利益となります。
これをキャピタルゲインといいます。
- 行使価額はストックオプションを付与する時の株価で設定されることになります。
- 会社法上の「新株予約権」として発行され、その内容を登記する必要があります。
- もし株価が下がっていたらストックオプションを行使しなければいいだけのことなので、基本的に損をすることはありません。
どんな会社がストックオプションを発行するか
ストックオプションは行使する時に「行使価額」が「市場価格」よりも安いことがわからなければ意味がなく、行使する時点で株式が上場され、市場価格が存在している必要があります。
つまり、現状、ストックオプションを発行する意味のある会社は次の2つに限られてきます。
- 上場企業
- 上場を目指す会社
非上場会社の登記簿にストックオプションとしての新株予約権の登記がされていれば、上場を目指している可能性は高いということになります。
ストックオプションのメリット
ということで、うちは上場を目指してがんばっているわけです。
上場を目指してがんばっている。
東証の鐘をいっしょに鳴らしたい仲間がいる。
我々のようなスタートアップは大企業のように給与・賞与を出せるわけではないので、ストックオプションのような制度はありがたいです。
役職員のみなさんにとって企業価値の向上が自分たちの将来の報酬につながるわけですから、モチベーションアップにもなりますよね。
これは、ストックオプションを発行する会社側にとっても受け取る役員・従業員にとってもメリットです。
優秀な人材を招き入れるための説得材料のひとつにもなります。
今すぐ高い報酬は払えないけど、成功したらその働きに報いることができるよう約束する、ということができますからね。
スタートアップの成功の最大のカギとなるのは、やはり優秀な人材を確保することにあります。
外部協力者、たとえば、スタートアップの成長に貢献する業務をになうプログラマー・エンジニア、弁護士等に対しても付与することができ、活用の幅は広がっています。
一定の要件を満たす外部協力者は税制適格ストックオプションの対象になるとして適用が拡大されています。
税制適格ストックオプションについては後ほど簡単に取り上げますが、受け取る側に税制上の優遇があります。
会社側にとってのメリットまとめ
- 役員・従業員のモチベーションアップ
- 優秀な人材獲得のための説得材料になる
- 外部協力者との関係を築くことができる
受け取る役員・従業員にとってのメリットまとめ
- 役員・従業員のモチベーションアップ
- 税制上の優遇を受けることができる
ストックオプションの税制
ストックオプションの税制について確認しておきたいです。
先ほども少し出てきましたが、一定の要件を満たすストックオプションについては、付与された人にとっての税制上の優遇が認められていて、スタートアップが発行するストックオプションはほとんどの場合この形になります。
また具体例をみていきましょう。
具体例
株価が1株10,000円の時に「将来、1株10,000円で自社の株式を購入することができる」という内容のストックオプションが無償で付与されたとします。
権利行使時の株式の時価が「1株40,000円」、売却時の株式の時価が「1株50,000円」とします。
先に税制「非」適格ストックオプション(譲渡制限付とします)からみていきましょう。
税制「非」適格ストックオプション
株式の取得による経済的利益として課税されます。
40,000円-10,000円=30,000円(原則給与所得として、累進税率(最大約55%)で課税される)
株式等の譲渡所得等として申告分離課税
50,000円-40,000円=10,000円(税率約20%)
2段階で課税されますね。
はい。
次に税制適格ストックオプションの場合です。
税制適格ストックオプション
株式の取得による経済的利益は非課税とされます。
株式等の譲渡所得として申告分離課税
50,000円-10,000円=40,000円(税率約20%)
税制適格かそうでないかで、全然違いますね。
場合によっては、「数千万単位で税額が変わる」こともあります。
適格の要件を満たすかどうかについては、かなり注意深くならなければなりません。
では、その適格要件を簡単にみていきましょう。
税制適格ストックオプションの要件
通常、行使価額はなるべく低いほうがありがたいため「行使価額=時価」となります。
監査役や顧問・外注先は税制適格にならないので注意。
付与決議のあった日において発行済株式の3分の1超の株式を保有する大口株主は対象外なので注意(非上場会社の場合)。
税制適格ストックオプションを付与した日の属する翌年の1月31日までに「法定調書」の税務署への提出が義務づけられています。
退職した役員・従業員のストックオプションはどうなる?
退職した役員・従業員のストックオプションはどうなるか確認しておきたいです。
ストックオプションが役員・従業員に付与される場合、「新株予約権割当契約書」が締結されます。
その中で、通常は権利喪失事由として、自己都合による退職が掲げられています。
そうだったと思う。
退職した役職員のストックオプション(=新株予約権)は会社が取得するのが一般的です。
会社が取得したストックオプションを他の従業員に与えることはできますか?
それ、たまに聞かれるんですよ。
結論としては、「やめたほうがいい」ですね。
会社法上は禁止されているとは読めないのですが、さきほどみたように、税制適格の要件のひとつ「譲渡が禁止されていること」に反します。
また、低い行使価額で発行されたストックオプションを株価が上がった後に入社した従業員にも与えられることにもなり「行使価額が発行時の株価(時価)以上であること」という要件に違反することになります。
たしかにそうかもしれない。
ストックオプションを発行するときの注意点
スタートアップがストックオプションを発行するときに注意すべきことがありますよね。
そうですね。たとえば、いくら役職員のモチベーションアップになるからといって無限に発行していいわけではありません。
はい。無限には発行できないけど。
ストックオプションは将来、株式に変わる潜在株式です。
上場したときに、低い行使価額で購入されたものが市場で売却されるわけですから、株価に悪影響を及ぼすおそれがあります。
一般の投資家からみれば、ありがたいものではありません。
そうですね。
一般的にストックオプションは、上場時点で発行済株式総数の10%以内であることが望ましいとされています。
ストックオプションを付与するときのルールづくりも大切ですね。
はい。働く人たちにとって公平感・納得感のあるルールが必要とされます。株式上場時には「有価証券届出書」という書類が開示されることになりますが、そこにはストックオプションを保有している人の名前が載ることになります。
つまり、上場したら誰がどれだけのストックオプションを持っているかお互いに知るところとなります。
そこで、「なんであいつがあんなにもらって、俺がこれだけなんだよ!」と不満に思われたらやる気を失いますし、社内の人間関係の悪化につながりかねない、というわけですね。
そうです。
とにかくストックオプションは、税制適格の話もそうですけど、注意深く計画的に発行する必要があります。
まとめ
- ストックオプションとは、役員や従業員、場合によっては一定の要件を満たす外部協力者に対して、将来、ある一定の条件で、あらかじめ決められた行使価額で取得することができる権利です
- 現状、ストックオプションを発行する意味のある会社は①上場企業②上場を目指す会社の2つに限られています
- 役員・従業員に対するストックオプションは通常「税制適格ストックオプション」が発行されることになります
- 一般的にストックオプションは、上場時点で発行済株式総数の10%以内であることが望ましいとされています
- ストックオプションを付与するときのルールとして、会社で働く人たちにとって公平感・納得感のあるものが必要とされます
参考書籍
『起業のファイナンス増補改訂版』磯崎哲也(著)|日本実業出版社
『新株予約権ハンドブック〔第5版〕』太田洋・山本憲光・柴田寛子(編集)|商事法務
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