長年、登記実務をやっていると様々なできごとがおこります。
おきてほしくはないですが、嘘みたいなできごとがおこります。
今回は、その嘘みたいなできごとと不動産登記の代理権不消滅についてのお話です。
事例
抵当権の債務者の住所変更登記です。
発生したできごとを順を追って書いていきます。
必要書類がそろい、申請書を書面で作成しました。
その日の夕方、物件と抵当権者の登記情報を取得して、問題がないことを確認。
申請書類を法務局宛に郵送手配。
抵当権者の代表者変更登記が申請され、数時間で登記完了
法「抵当権者の代表者が変更になっていますね」
私「は?」
抵当権者の会社の登記情報を取得しなおしたら、確かにその日に代表者が変更されていましたので、後から上の順番で事件が発生したことを知ったということになります。
そんなことがあるのか・・・と唸りました。
一寸先は闇ですね。
オンライン申請しておけばよかったですが、当時はそうしない事情があったのだとお察しください。
余談ですが、金融機関・不動産会社・司法書士法人など登記の実務上影響が大きいと思われる法人の登記は至急扱いで申請することが一般的だと思いますし、審査もすごいスピードで完了しているようにみえます。
本題に戻りますが、この場合どうなるのでしょうか。
代理権不消滅
この場合、不動産登記法第17条の規定により、代理権は消滅しません。
(代理権の不消滅)
第17条 登記の申請をする者の委任による代理人の権限は、次に掲げる事由によっては、消滅しない。
一 本人の死亡
二 本人である法人の合併による消滅
三 本人である受託者の信託に関する任務の終了
四 法定代理人の死亡又はその代理権の消滅若しくは変更
この第4号の「法定代理人」には法人代表者も含まれるとされています(不動産登記の実務相談事例集 15ページ)。
つまり、変更前の旧代表者が発行した委任状は有効となります。
ただし、申請書には申請時点での代表者を記載する必要がありますので、上の事例の場合、申請書類が法務局に到達した時点での代表者を申請書に記載しなければならないことになります。
さらに、「(旧代表者)〇〇〇〇の代表権は消滅しており、(旧代表者)〇〇〇〇が代理権限を有していた時期は令和〇年〇月〇日から令和〇年〇月〇日である」と記載する習わしのようです(法務局まで書きに行きました・・・)。
この申請書に登記申請の代理人が旧代表者の代表権限が消滅した旨及び旧代表者が代表権限を有していた時期を明らかにする方法は、「平成5年7月30日法務省民三第5320号民事局長通達」を根拠にするものだと考えられます。
今回は抵当権の債務者の住所変更登記の例をご紹介しましたが、よくあるのは、抵当権抹消登記をすぐに手続きせずにしばらく放置していたら抵当権者の代表者が代わっていました、という例だと思います。
その場合も同様の方法で処理することができます。
参考書籍
『不動産登記の実務相談事例集』後藤浩平・竹村啓人・渡邉亘(著)|日本加除出版
— どうぞお気軽にご相談ください。—