不動産売買と登記~不動産決済の場で司法書士は何をしているのか~

そもそもなんで登記するんですか?

まれに依頼者の方から尋ねられるこの質問。

たしかに、登記といわれても学校では習わないし、なんだかよくわからないという人が多いのではないでしょうか。

「登記」には不動産登記や会社法人登記、船舶登記などいろいろありますが、今回は「不動産登記」について取り上げていきます。

この記事は、主にこれからマイホームを買いたいと考えている方、あるいは不動産会社、金融機関の住宅ローン融資担当者の方のために、不動産登記や不動産決済の場での司法書士の役割について、解説しています。

目次

不動産登記とは

不動産登記制度は、不動産登記簿という国が管理する帳簿に、不動産の物理的な現況や権利の内容を記録し、明らかにすることで、不動産取引を円滑にするための制度です。

・・・。

いきなり堅苦しい表現になってしまいましたが、要するに、どこにどれくらいの広さの土地があって誰が所有しているか、どこにどんな形状でどれくらいの大きさの建物が建っていて誰が所有しているか・・・などの情報を法務局に行って登記簿を見れば、誰でもわかるという仕組みになっています。

ある建物にある人が住んでいたとしても、住んでいる人が所有しているとは限りません。

借りて住んでいるだけかもしれないのです。

また、土地に境界線を引いて所有者の名前を書いておくということもできませんので、その土地の所有者を知りたいとなれば、登記簿を見るということになります。

登記簿を見るためには法務局で「登記事項証明書」という証明書を発行してもらいます。

昔でいうところの「登記簿謄本」のことです。 では実際の登記簿はどんなものなのか、見ていきましょう。

登記簿の見方

土地の登記簿のサンプルです。
建物の登記簿のサンプルです。

上の「表題部」と下の「権利部」に分かれているのがわかると思います。

表題部には、土地であれば、その土地が

  • どこにあって(所在・地番)
  • どのような用途で(地目)
  • どれくらいの広さ(地積)なのか

建物であれば、

  • どこに(所在・家屋番号)
  • どのような形状で(種類・構造)
  • どのくらいの大きさ(床面積)なのか

という物理的な情報が記載されています。

権利部はさらに「甲区」と「乙区」に分かれていて、

  • 甲区には「所有権に関する事項」
  • 乙区には「所有権以外の権利に関する事項」

が記載されています。

不動産の名義書換えとよくある誤解

「不動産の名義書換え」という言葉を聞くことがあると思います。

権利部の甲区に所有者として登記されている人が変わることを、一般的には「不動産の名義書換え」と呼ばれています。

例えば、「親が亡くなったときに不動産の名義を書換えする」とは、「相続」を原因として登記上の所有者が変わることを意味しています。

ところで、登記実務をやっておりますと、不動産の名義を自由に変えられると思っている人に出会うことがあります。

しかし、不動産の名義は自由に変えることはできません。

「相続」や「売買」、「贈与」などの現実の所有者が変わる原因となるできごとが起こって、その結果、不動産の名義が変わることになります。

こうして不動産の名義が変わること(登記されること)で、不動産の正しい権利者が誰なのかということが誰にでもわかる状態になるわけです。

登記は自分の権利を守るためのもの

では、所有者が変わったのに登記しなかったらどうなるのでしょうか。

不動産の売買を例にみていきたいと思います。

Aが自分の所有する甲不動産をBが買ったもののB名義の登記をしなかったとします。

甲不動産の名義はAのままです。

そこで、Bが甲不動産を買ったことを知らないCがAから甲不動産を買い受け、C名義の登記をしたとしましょう。

つまり、Aが甲不動産をBとCに二重譲渡したというケースです。

この場合、登記をしなかった第一買主のBは、後から買って登記をしたCに対して、自分の権利を主張することはできません。

売買代金を払ったにもかかわらずです。

二重譲渡だなんて、そんなことあるんですか??と思うかもしれませんが、追い込まれた人というのはなんでもやりますよ。

あるいは、AがCに二重譲渡しないまでも、Aの経済状況が悪く税金を滞納していて、買主Bが登記をする前に「差押」の登記が入るなんてこともおこりえます。

そうなるとBは差押えした者に対して自分の権利を主張することができません。

とにかく不動産を買ったにもかかわらず、登記をしないということは、売買代金を払ったのに完全な権利を取得していないも同然の、かなり危険なことだということがわかっていただけると思います。

不動産の買主は売買代金を払ったのであれば一刻も早く登記をしなければなりません。

不動産決済での司法書士の役割

ここまで読んできて、登記の重要性がわかっていただけたのではないかと思いますが、次に司法書士が不動産売買でどんな役割をしているのか書いていきます。

不動産売買は、売買といっても、コンビニで水を買う売買とはわけが違うということは想像できると思います。

売買代金も決して安いものではありません。

通常は、売買契約を締結して、後日、買主が売買代金を全額払ったときに、所有権が買主に移転して、売主が買主に不動産を引き渡すという取引の流れになります。

この売買代金全額の支払を決済とよんでいます。

決済場所は買主がローンの融資を受ける銀行が多いです。

この決済日に突如現れるのが司法書士です。

売買の当事者が決済前に司法書士と面談することもありますが、決済日にはじめて会うというケースが多いのではないでしょうか。

この司法書士と呼ばれる人、一体なにやってるの・・・?

司法書士の役割を説明するために、司法書士がいない不動産決済を考えてみましょう。

不動産売買の当事者が、ここまで書いてきた登記の重要性や不動産売買の性質を完全にわかっている人たちだとします。

そうすると、売主・買主はそれぞれこう思うはずです。

売主

売買代金が支払われるまで登記書類(特に権利証)を買主に渡したくない

買主

売主から登記書類を受け取るまでは売買代金を払いたくない

売主も買主もお互いのことをよく知らないことが通常です。

つまり、買主にとって売主の信用状態・経済状況を把握するのは容易ではなく、売主がどんな動機をもってその不動産を売ろうとしているか、知ることが困難ということもあるのです。

そして先ほども書いたように、不動産は決して安いものではありません。

特に買主にとって売買代金を払ったのに登記できないとなると完全な権利を取得していないも同然の状態となってしまいます。

ここまで読んでいただければ、売主・買主それぞれの心情がわかっていただけると思います。

しかし、このままお互いが譲らなければ取引は前に進みません。

そこで、中立の第三者である司法書士が現れて、売主・買主双方から登記に必要な書類を預かり、登記できるかどうかジャッジします。

(当事者の本人確認や売買の意思の確認などもしていますがここでは省略します。)

確実に登記できる状態と判断したときに、売買代金を支払いを進めていただいて構わない旨を売買の当事者にお伝えします。

・・・というのが、不動産決済の場での司法書士の役割です。

余談ですが、司法書士が決済に立ち会っていても、売主のなかには、いったん司法書士に権利証は見せるけど、売買代金の着金が確認できるまで権利証を渡すことはできない!というかなり慎重な人もいます。

こちらの立場としては、司法書士を信じて先に書類を預けていただきたいですが、ある意味これが売主の正しい態度かもしれません。

長々と書いてきてしまいましたが、つまり、登記の申請書類が作成できればいいんでしょ?というレベルの話ではないのです。

私が不動産売買の当事者になったときは、自分でできるからといって自分で登記したりはしません。

他の司法書士に報酬を払って登記をお願いします。 取引にとって中立で公正な立場の第三者が必要だからです。

まとめ

  • 不動産の登記は自分の権利を守るための大切なものです。
  • 不動産売買において、司法書士の役割は単に書類を作成することだけでなく、取引が円滑に進むためのお手伝いをしています。

— どうぞお気軽にご相談ください。—

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この記事を書いた人

愛媛県四国中央市出身
早稲田大学政治経済学部卒業

平成28年司法書士試験合格
平成29年から約3年間、東京都内司法書士法人に勤務
不動産登記や会社・法人登記の分野で幅広く実務経験を積む

令和2年から香川県高松市にて開業
地元四国で超高齢社会の到来による社会的課題への取組みや地方経済の発展のために尽力している

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