香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
相続の基本的なルールについて意外と知られていないように感じます。
相続のルールについては民法という法律に定められていますが、確かに日頃から馴染みのあるものではないかもしれません。
今回は相続の典型的な事例をベースに、相続の順位や法定相続分、遺言、遺留分、遺産分割協議などについて簡単にわかりやすく解説していきます。
相続とは

あの……突然なんですが、実は先月母が亡くなってしまって。
家族はもう私と妹のふたりとなったのですが、ふたりとも相続の手続きをどう進めればよいのかまったくわかりません。





それは大変でしたね。
お悔やみ申し上げます。
そして、こうしてご相談に来られたのはとても大切な第一歩です。



ありがとうございます。
何から聞いていいのかもわからないくらいで……。



ではまず、「相続」とは何かという基本的なところから始めましょう。
相続とは、亡くなった方の財産や権利・義務を、法律で定められた人たちが引き継ぐことをいいます。
この亡くなった方のことを「被相続人」といいます。



相続というと財産だけのイメージでしたが、義務も引き継ぐんですか?



はい。財産には現金や不動産だけでなく、借金や保証債務などの負の遺産も含まれます。
そのため、相続するかどうかを慎重に判断する必要があります。



もし借金のほうが多かったらどうなるんですか?



そのような場合には「相続放棄」や「限定承認」という手段があります。
相続放棄は、家庭裁判所に申し立てることで、最初から相続人ではなかったことにできる制度です。
相続が始まったことを知った日から3か月以内に申請しなければならない点には注意が必要です。
法定相続人とその順位



では私と妹が相続人になるんでしょうか?



はい。
お父様がすでに亡くなっているのであれば、あなたと妹さんが相続人となります。
相続人の範囲は法律で順位が定められています。
法定相続人とその順位
相続順位 | 相続人 |
---|---|
常に相続人 | 配偶者 |
第1順位 | 子(代襲相続により孫になることも) |
第2順位 | 親など上の世代 |
第3順位 | 兄弟姉妹(代襲相続により甥姪になることも) |



配偶者は常に相続人になります。
つまり、配偶者と誰が一緒に相続人になるかで、相続人の構成が変わります。



昔習ったかもしれない。



まず、被相続人に子がいれば、子が相続人です。
養子であっても実子と変わらず相続権があります。
その子が先に亡くなっていて、孫がいる場合は孫が代襲相続します。
代襲相続とは被相続人の相続人が先に亡くなっていた場合に、その相続人の子が相続することをいいます。



母よりも先に亡くなった姉がひとりいました。
ずいぶん若い時に亡くなったので子はいませんでした。



そうでしたか。
では、相続人はあなたと妹さんのおふたりということになりそうです。





母には弟がいるのですが、相続に関係ないのでしょうか?
私の叔父にあたる人がひとりいます。
母の葬儀のときに何か言いたそうな顔をしていました。
昔、母の世話をしたとか。



相続の順位は、被相続人に子がいなければ、父母、祖父母など上の世代が相続します。
さらに上の世代もいなければ兄弟姉妹が相続します。
先に亡くなっている兄弟姉妹がいる場合は、甥姪が代襲相続します。



では、今回の私たちのケースでは母の弟は相続に関係しないということですね?



そうなります。
法定相続分とその割合



相続人になることはわかりましたが、実際にはどのくらいの割合で分けるんですか?



民法で定められた「法定相続分」という割合があり、その割合は次のようになっています。
法定相続分とその割合
相続人の組み合わせ | 各相続人の法定相続分 |
---|---|
配偶者と子ども | 配偶者:2分の1、子ども:残りを人数で等分 |
配偶者と父母など上の世代 | 配偶者:3分の2、父母:3分の1(人数で等分) |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者:4分の3、兄弟姉妹:4分の1(人数で等分) |
子どものみ | 子ども全員で全額を人数で等分 |
父母のみ | 父母で全額を等分 |
兄弟姉妹のみ | 兄弟姉妹で全額を等分 |
配偶者のみ(他に相続人なし) | 配偶者が全額を相続 |



あなたと妹さんだけが相続人の場合、法定相続分はそれぞれ2分の1ずつです。



法律で割合が決まっているんですね。でも、それって絶対守らないといけないんですか?



いいえ、法定相続分はあくまで「目安」です。
相続人全員が合意すれば、どのような割合でも構いません。
ただし、合意が得られない場合には、裁判所がこの法定相続分を基準に判断します。



なるほど。
でも妹とどう話し合えばいいか心配です……。



そうですよね。
そうした相続人同士の話し合いを「遺産分割協議」と言います。
協議が円満に進めばよいのですが、意見が対立すると長引いたり、感情的な対立に発展することもあります。
遺言の有効性とその効果



そんなときに、何か防ぐ手段ってあるんですか?



はい。
そうしたトラブルを避けるために有効なのが「遺言」です。
遺言書があると、原則としてその内容に従って遺産を分けることになります。
あらかじめ被相続人が自分の意思を明確にしておけば、遺産分割協議を行う必要がないケースも多いのです。



それなら、母が遺言を残してくれていたら……。



そうですね。



遺言ではどんな財産の分け方をしてもよいのでしょうか?



基本的に財産の分け方は遺言者の自由ですが、法律で保護されている相続人には「遺留分」という最低限の取り分があります。
遺留分とは、配偶者や子ども、父母などの直系尊属に与えられる権利で、兄弟姉妹には認められていません。
相続人 | 遺留分割合 |
---|---|
子 | 法定相続分の2分の1 |
配偶者 | 法定相続分の2分の1 |
父母など上の世代 | 法定相続分の3分の1 |
兄弟姉妹 | 遺留分なし |



遺言によって遺留分が侵害された場合、侵害された相続人は「遺留分侵害額請求」をすることができます。
請求期限は、侵害を知ったときから1年以内、または相続開始から10年以内のいずれか早いほうです。
相続手続の進め方



遺言と遺留分については何となくわかってきました。
でもたぶん母は遺言を遺していないような気がします。
遺産分割協議ということになりそうですが、実際に、妹とどう話を進めていけばいいのかが一番不安です……。



相続手続を進めるには、まず以下のようなステップを踏むことが大切です。
相続手続の流れ
- 相続人全員の確定(戸籍で確認)
- 相続財産の全体像を把握(不動産、預貯金、有価証券、借金など)
- 財産目録の作成(財産の一覧表)
- 相続人全員による話し合い
- 合意内容を記載した「遺産分割協議書」の作成
- 不動産の登記変更、金融機関での名義変更手続き



遺産分割協議書は、金融機関や法務局などで手続きの際に提出を求められます。
形式が整っていないと受理されない場合があるので注意が必要です。
司法書士に作成を依頼する方も多いですね。



なるほど。
口約束じゃだめなんですね。



はい。
特に不動産は「共有」にしてしまうと後々トラブルになりやすいです。
売却やリフォームの際、共有者全員の同意が必要になるので、分け方は慎重に決めましょう。
登記の義務化と今後の注意点



そういえば母の名義で家があります。
これの名義変更が必要ということですよね?



はい。
2024年4月からは、不動産の相続登記が義務になりました。
相続によって不動産を取得した人は、取得を知った日から3年以内に登記を行う必要があります。
これを怠ると、最大10万円以下の過料が科されることもあります。



それは大事なことですね。
知らなかったら損しそう……。



おっしゃる通りです。
相続登記は不動産を売却したり、融資の担保にしたりする際にも必要になります。
早めに手続きを進めましょう。
まとめ:相続人間での話し合いと専門家の活用



今回のように相続人が2人だけという場合でも、意見の食い違いからトラブルに発展することは少なくありません。



確かに、妹と冷静に話せるかちょっと不安で……。



そんなときこそ、専門家が間に入ることでスムーズに進むケースも多いです。
相続は感情が絡みやすいからこそ、第三者の視点が有効です。



わかりました。
まずは財産の内容を調べて、妹ともちゃんと話してみます。



何か困ったことがあれば、いつでもご相談ください。
おふたりが納得して、前向きな形で相続を終えられるよう、しっかりサポートいたします。
参考書籍
『新訂 設問解説 相続法と登記』幸良秋夫(著)|日本加除出版
『三訂版 相続登記の全実務 相続・遺贈と家事・非訟手続』田口真一郎・黒川龍(著)| 清文社
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