香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
旧商法時代は株式会社に取締役会の設置義務がありましたが、会社法施行後の現在では、取締役会を置かないとすることもできます。
取締役会を置かずに会社を設立し、会社の規模が大きくなってくると取締役会を置くというケースが多いように見受けられます。
今回は、取締役の役割、取締役会を置かない場合の取締役の決定、取締役会の招集と決議、取締役会議事録などについて取り上げます。
なお、この記事は会計参与は置かず、監査役の監査の範囲は会計限定ではない前提で書かれてあります。
取締役の役割とは?

株式会社をつくります。
友人Aと友人Bと3人のチームです。
株式上場を目指します。



3人のチーム。
スタートアップにとってチームは大事です。



3人全員出資して、取締役につきます。
私が代表です。



そうですね。
代表は1人がいいと思います。



取締役が3人だと取締役会になるんですよね?
最強のBoard(ボード)になりますよ。



取締役会をBoard(ボード)と呼ぶタイプ。
取締役が3人いれば取締役会になるわけではないですよ。
今の段階で取締役会を置く必要はありませんし、置かないほうがいいでしょう。



そうなんですか。



では、そもそも取締役の役割とは何か?というところからみていきましょう。



そこからですか。



株式会社には事業の目的があります。
その目的を達成するために事業戦略を定め、数値目標を設定し、目標達成のための計画を練ります。



はい。私たちには事業目的があります。
事業計画があります。



経営資源を購入したり従業員を雇って管理し、商品やサービスを販売しなければなりません。



そのとおりです。



それらについての意思決定を難しいことばでいうと「業務の決定」または「業務執行の決定」と呼んだりします。



業務執行の決定。



決定したことを実行することを「業務の執行」といいます。



業務の執行。
なんとなくわかりました。
この業務執行の決定をして業務の執行をするのが取締役の役割ということですか?



そのとおりです。
では次に取締役会がある場合とない場合の違いをみていきましょう。



はい。
取締役会を置かない場合の取締役の決定



取締役会を置かないことのメリットは、機動的な経営を行うことができることです。



機動的な経営。



取締役が2人以上いるときは、会社の業務は取締役の過半数で決定すると定められています。



多数決になるのはわかります。



決定方法について細かい規定はなく、取締役が集まっていつでも決定することができますし、一堂に会することなく電話やメールで決定を行うこともできます。
また、取締役会とは異なり、原則として議事録の作成義務はありません。
もちろん会議の議事録は残しておいたほうがよいでしょうが、法定の形式に則って作成する必要はありません。



そういうことか。



創業初期は出資者である「株主=取締役」である場合がほとんどです。
株主総会の決議が必要という場面でも株主総会の開催が面倒というデメリットはそれほど感じることがないでしょう。



取締役会はなくてもいいような気がしてきました。



では、次に取締役会決議についてみていきましょう。



はい。
取締役会の招集と決議



取締役会を設置するためには取締役3人以上と監査役が必要です。



取締役会を設置するには監査役が必要なんですか。
それを早く言ってください。
さっきまで取締役会を置くの置かないの言っていた時間はなんだったんだ。



取締役会を設置すると株主総会の権限の大部分が取締役会に移り、株主総会は会社法と定款で定めた事項に限り決議することができるようになります。
つまり、株主は経営から少し距離を置くことになります。
その株主に代わって取締役の業務を監査するのが監査役の役割です。
監査とは、取締役の業務に法令違反や定款違反がないかチェックすることです。



たしかに創業当初から監査役は必要ないかもしれない。



投資家から資金調達を受けて、株主の数が増えてくると取締役会を置くことになるでしょう。



そういうことか。



取締役会設置会社になると最低でも3か月に1回は取締役会を開催しなければなりません。



そういうことまで決められているんですね。



取締役のほか、監査役にも出席義務があります。



監査役は株主に代わって取締役の業務を監査する役割でしたね。



取締役会の招集についても規定があります。



そうなんですか。



取締役会は原則として各取締役が招集することができますが、定款または取締役会で定めた取締役がいれば、その取締役が招集します。



なるほど。



取締役会を招集する取締役は取締役会の日の1週間前までに、各取締役と各監査役に対して招集通知を発する必要があります。
この1週間という期間は、定款でこれより短い期間を定めることができます。
招集手続は全ての取締役と監査役の同意があれば省略することもできます。
ただ社外取締役や社外監査役がいる場合もあり、招集手続を省略することができるケースはまれだと思いますが。



けっこう決め事が多いですね。



取締役会の決議は、原則として、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行います。
半数ではありませんので注意が必要です。



たとえば取締役が4人いたとします。
このうち半数の2人が出席しても決議はできません。





取締役が4人の場合は過半数である3人以上の出席が必要です。
出席した3人のうち過半数である2人以上の賛成で可決します。





取締役が3人の場合は過半数である2人以上の出席が必要です。
出席した2人のうち過半数である2人の賛成で可決します。
1人の賛成では可決しません。





取締役会に出席できないときは、代理出席してもらってもいいですか?



取締役会では取締役の代理出席は認められません。
取締役会は個人的な信頼に基づき選ばれた取締役がお互いに協議して意思決定を行う場であるため本人が出席する必要があります。



取締役は個人的な信頼に基づき選ばれている。



なお、物理的に同じ場にいることまで要求されてはいませんので、オンラインによる参加も出席と認められます。



オンライン会議も当たり前になっていますよね。
取締役会議事録



取締役会を置かない会社の取締役の決定と異なり、取締役会の議事については、取締役会議事録を作成する義務があります。
記載すべき事項も法定されています。



取締役会議事録は作成する義務がある。



また、取締役会議事録には出席した取締役と監査役は署名または記名押印しなければなりません。
押印に関する規定のない株主総会議事録とは異なる点ですので、注意が必要です。



取締役が海外にいる場合などはどうすればいいでしょうか?



かつては書類を郵送したり、帰国した時にサインするしかありませんでしたが、今は電子署名することができます。



電子署名ってなんですか?



電子署名とは、PDFのような電子文書が本人によって作成されたことと署名後に改ざんが行われていないか確認することができる仕組みです。
電子署名をするためには、マイナンバーカードを使ったり、民間の電子契約サービスを利用して電子署名をすることが一般的です。



マイナンバーカードで電子署名ができるんですか?



はい。
アナログでいうところの実印相当の署名をすることができます。



まったく知りませんでした。
身分証明書以外の利用方法があったんだ。



今のところ悲しいぐらい知られていないですが。



とにかく電子署名のことは考えてみたほうがよさそうです。
ありがとうございました。
参考書籍
『株式会社法〔第8版〕』江頭憲治郎(著)|有斐閣
『ベンチャー企業の法務AtoZ』後藤勝也・林賢治・雨宮美季・増渕勇一郎・池田宣大・長尾卓(編集)|中央経済社
『会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A 電子署名・クラウドサインの活用法』土井万二(編集代表)|日本加除出版
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