株式上場の登記手続き

香川県高松市の司法書士 川井事務所です。

株式上場といっても登記手続上は、募集株式の発行です。

とはいうものの実際にやるとなると、とてつもないプレッシャーがかかって身体のどこかの調子が悪くなること間違いなしです。

また、募集株式の発行といっても、いくつか特殊な点がありまして、それがわかっていないと大パニックになるかもしれませんので、この記事を読んで心を落ち着かせてください。

目次

株式上場時に何が起きているのか

株式上場というと、会社の株式が株式市場で自由に売買できるようになるんでしょ?みたいな、なんとなくのイメージがあるのではないかと思いますが、

私、株式の取引をやっていまして、有価証券届出書を隅々まで熟読しています

という人でなければ実際にどんなことがおきているのか知っている人は少ないのではないでしょうか。

株式上場時には、次の3つのことが起きています。

  1. 公募による募集株式発行
  2. 引受人の買取引受けによる株式売出し
  3. オーバーアロットメントによる株式売出し

上の3つのうち「全部」または「一部」が行われます。

たとえば②がないとか、ということもあります。

そして、登記と関係があるのは、①と③です。

公募による募集株式発行

募集株式の発行のうち、不特定・多数の人に対して引受けの勧誘を行うのが公募ですが、会社法上の手続き的には第三者割当てと異なるところはありません。

株式上場時には、主幹事証券会社が総数引受けすることになります。

引受人の買取引受けによる株式売出し

大株主等(創業者株主(=経営者)や親会社等)が保有する株式の一部を主幹事証券会社に売り渡します。

ここで創業者株主や親会社等の大株主はキャピタルゲインを得ることができます。

ただし、上場時に十分な持株比率を確保できていたとしても、売却できるのはその5~10%程度です。

たとえば、20%以上もの大量の持ち株を創業者株主が売却しようとすれば、「この経営者は自社の経営から手を引こうと思っている」などと投資家からみなされ、自社の株価に悪影響を及ぼす可能性が高くなります。

オーバーアロットメントによる株式売出し

企業が公募・売出しを実施する際において、公募・売出しの数量を超える需要があった場合、主幹事証券会社が対象企業の大株主等から一時的に株券を借りて、公募・売出しと同一条件で追加的に投資家に販売することをいいます。

本来の公募・売出しの追加として行われるもので、本来の公募・売出しの数量に需要が満たない場合は行われることはありません。
(以上、日本取引所グループウェブサイトから引用)

その後、主幹事証券会社は、借りた株式を大株主等に返還しなければなりませんが、発行会社から第三者割当てにより引受価額と同一の条件で株式を発行してもらって、その株式を大株主等に返します。

この主幹事証券会社が引受価額と同一の条件で株式を発行してもらえる権利のことをグリーンシューオプションといいます。

つまりグリーンシューオプションが行使されるともう一度登記が発生することになります。

では、ここでざっくりとした上場承認後のスケジュールと簡単な用語解説をしておきます。

上場承認後のスケジュール

STEP

想定発行価格の決定

STEP

上場に関して1回目の取締役会(株式の各価格以外の募集事項等を決議、有価証券届出書の提出の承認)
有価証券届出書を財務局に提出

STEP

プレ・マーケティング期間(ロードショー・機関投資家からのフィードバック)

STEP

仮条件価格帯の決定

STEP

2回目の取締役会(仮条件価格帯を承認。この段階で募集株式の払込金額は決定する。しかし、発行価格と引受価額の決定については代表取締役に一任されるにとどまる(会社法201条2項))
訂正届出書(1)を財務局に提出(仮条件価格帯・払込金額を公示)

STEP

ブックビルディング

STEP

発行価格・引受価額の決定
訂正届出書(2)を財務局に提出(発行価格・引受価額を公示)

STEP

申込期間

STEP

払込期日(上場日前日)

STEP

上場日(受渡期日)

STEP

払込期日から2週間以内に登記申請

ここまでが上場時の新株発行の流れです。

アーバーアロットメントによる売り出しがある場合は以下の流れです。

STEP

オーバーアロットメントによる売出しに関するグリーンシューオプション行使期限
(上場日から約2~3週間後)
グリーンシューオプションが行使された場合は、主幹事証券会社を割当先とする第三者割当増資を実施

STEP

払込期日(第三者割当増資による募集株式の発行の効力発生日)

STEP

払込期日から2週間以内に登記申請

用語解説

  • 有価証券届出書
    株式などの発行会社が有価証券の募集または売出しをする際に、金融商品取引法に基づき内閣総理大臣へ提出することが義務づけられている書類。
  • 想定発行価格
    主幹事証券会社が、会社内容・類似会社との比較等を検討して決定する見込価格。有価証券届出書に記載される資金調達等の金額の見込額の基礎となる株価。
  • プレ・マーケティング
    ブックビルディングに備えて、発行会社が機関投資家に対してロードショー(会社説明会のこと。)を行い、主幹事証券会社が価格の妥当性や申込予定数についてヒアリングを行う。
    ロードショーがどんなものか詳しく知りたい人はこちらの記事でご紹介している『』をご参照ください。
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  • 仮条件価格帯
    ブックビルディングを行うに際して投資家に提示される新株発行または売出しにかかる株価の範囲(○○○円から○○○円という形で開示される)。プレ・マーケティングの結果を判断材料として決定される価格帯。
  • 払込金額
    会社法上の払込金額。とされている。しかし、登記には使わわない(下記引受価額を参照)。
    仮条件価格帯下限の85%となるのが通例で、引受価額が払込金額を下回る場合は、募集株式発行を中止する。という条件がつく。
  • 発行価格
    投資家(申込者)が引受証券会社に対して支払う金額。
  • 引受価額
    引受証券会社が発行会社に対して支払う金額。これが登記手続きに必要な金額。つまり、引受価額に発行する株式数を乗じた金額が資本金等増加限度額となる。この金額が決定しなければ登録免許税額が確定しない。
  • スプレッド
    発行価格と引受価額の差。発行価格の8%前後となる。発行価格と引受価額の差額の総額は、引受証券会社の手取金(証券会社の手数料に相当する金額)で、引受証券会社の役割に応じて各社に分配される。
  • ブックビルディング(ブックビルディング方式)
    引受証券会社が、機関投資家等に調査をして、新規公開予定の会社の発行価格を決定する方式のこと。

登記手続き

上場時の新株発行

パニックポイント1

上の用語解説にあるように、「想定発行価格」「払込金額」「発行価格」「引受価額」と紛らわしい用語が出てくるのですが、「引受価額」が登記で使う金額です。

「引受価額」は取締役会議事録には出てきません。

委任状に引受価額は●円に決定した旨を記載したほうがいいかもしれません。

ちなみに、会社法上の公開会社の募集株式の発行ですから、会社法第201条の特則が適用されますので念のためご注意ください。

パニックポイント2

上にも少し書きましたが、新株発行は主幹事証券会社による総数引受けによるのが一般的です。

取締役会議事録に「各引受人の引受株式数」として主幹事と主幹事以外の証券会社の引受株式数が書いてあったり、新株式引受契約書をみても総数引受契約に見えなかったりして、大パニックになるのですが、総数引受契約です。

発行会社から渡される「新株式引受契約書」を総数引受契約書として添付すれば登記することができます。

オーバーアロットメント

通常の第三者割当てとほとんど変わりません。

特段、悩むことなく手続きできると思います。

参考書籍

『商業・法人登記360問』神﨑満治郎・金子登志雄・鈴木龍介(編著)|テイハン

『募集株式と種類株式の実務【第2版】』金子登志雄・富田太郎 (著)|中央経済社

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この記事を書いた人

愛媛県四国中央市出身
早稲田大学政治経済学部卒業

平成28年司法書士試験合格
平成29年から約3年間、東京都内司法書士法人に勤務
不動産登記や会社・法人登記の分野で幅広く実務経験を積む

令和2年から香川県高松市にて開業
地元四国で超高齢社会の到来による社会的課題への取組みや地方経済の発展のために尽力している

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