一般社団法人の定款作成の注意点

香川県高松市の司法書士 川井事務所です。

一般社団法人の定款についての理解を深めることは、非営利組織の運営において極めて重要です。

一般社団法人は、一般的な分類では非営利法人とされていますが、さらに税務上の非営利型法人か否かの分類があるので紛らわしいところです。

この記事では、一般社団法人の定款について注意すべき記載事項を中心に、記載例をご紹介しながらその内容や作成方法について取り上げます。

受験勉強で法人法はやったけど、まだ実務に慣れていない司法書士の方にも参考になると思います。

なお、この記事では、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律を「法人法」と表記します。

目次

一般社団法人とは

一般社団法人は、非営利活動を行うための組織です。

会員の共通の利益を追求することがその目的であり、その活動範囲は広く、文化、芸術、スポーツ、学術、福祉など多岐にわたります。

特に、社会貢献性の高い活動を行う組織にとって、一般社団法人の形態は適しているといえるでしょう。

なお、営利法人と非営利法人の違いについては、以下のようになります。

法人内容具体例
営利法人利益や残余財産を株主や投資家に分配することができる法人株式会社・合同会社
非営利法人利益や残余財産を社員など構成員に分配することが認められない法人一般社団法人・一般財団法人・NPO法人

利益を法人の構成員に分配することができるかどうかで営利か非営利かに分類され、一般社団法人は非営利法人のひとつということになります。

法人税法上の非営利型法人

一般社団法人は非営利法人ですが、さらに法人税法上、非営利型法人か否かで分類されることになります。

非営利型法人の要件を満たす一般社団法人は、収益事業から生じた所得が課税対象となり、寄付など収益事業以外の収益について課税されません。

一方で、非営利型法人の要件を満たさない普通法人の場合は、全ての所得が課税対象となります。

以下の①非営利性が徹底された法人または②共益的活動を目的とする法人に該当するもの(それぞれの要件のすべてに該当する必要があります)は、特段の手続きを踏むことなく非営利型法人になります(法人税法2九の二、法人税法施行令3)。

反対に、非営利型法人が下記要件のうち、一つでも該当しなくなった場合は、特段の手続きを踏むことなく普通法人となりますのでご注意ください。

類型要件
①非営利性が徹底された法人1 剰余金の分配を行わないことを定款に定めていること。
2 解散したときは、残余財産を国・地方公共団体や一定の公益的な団体に贈与することを定款に定めていること。
3 上記1及び2の定款の定めに違反する行為(上記1、2及び下記4の要件に該当していた期間において、特定の個人又は団体に特別の利益を与えることを含みます。)を行うことを決定し、又は行ったことがないこと。
4 各理事について、理事とその理事の親族等である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下であること。
②共益的活動を目的とする法人1 会員に共通する利益を図る活動を行うことを目的としていること。
2 定款等に会費の定めがあること。
3 主たる事業として収益事業を行っていないこと。
4 定款に特定の個人又は団体に剰余金の分配を行うことを定めていないこと。
5 解散したときにその残余財産を特定の個人又は団体に帰属させることを定款に定めていないこと。
6 上記1から5まで及び下記7の要件に該当していた期間において、特定の個人又は団体に特別の利益を与えることを決定し、又は与えたことがないこと。
7 各理事について、理事とその理事の親族等である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下であること。
国税庁サイトより引用

上の表のとおり、定款の定めによって非営利型法人の要件に影響するところがありますので、上の表を覚えておく必要があります(詳細は後ほど取り上げます)。

また、類型①と②の両方に「各理事について、理事とその理事の親族等である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下であること」という要件が定められていますが、このことから、非営利型法人となるには、理事が3人以上必要ということになります。

たとえば、理事3人で法人設立するのであれば、そのうち2人が夫婦だと要件を満たさないということです。

税務上の非営利型法人についての詳細は税理士にご相談ください。

定款の作成

法人法第10条第1項の規定により、設立時社員は2人以上必要です。

設立時社員が共同して定款を作成しなければなりません。

法人法
(定款の作成)
第10条 一般社団法人を設立するには、その社員になろうとする者(以下「設立時社員」という。)が、共同して定款を作成し、その全員がこれに署名し、又は記名押印しなければならない。
2(省略)

定款の内容

定款の絶対的記載事項

定款の絶対的記載事項は次のとおりです(法人法第11条第1項)。

  1. 目的
  2. 名称
  3. 主たる事務所の所在地
  4. 設立時社員の氏名又は名称及び住所
  5. 社員の資格の得喪に関する規定
  6. 公告方法
  7. 事業年度

絶対的記載事項のうち、一般社団法人で注意すべきものとしては、①目的⑤社員の資格の得喪に関する規定⑥公告方法が挙げられます。

目的

定款には次のように目的と事業の条文を分けて記載することが一般的です。

(目的)
第●条 この法人は、●●の発展を通じて、●●の振興を図り、●●に寄与することを目的とする。

(事業)
第●条 この法人は、前条の目的を達成するため、次の事業を行う。
1…
2…
3…

しかし、登記申請時には目的と事業を併せて記載することになります。

(申請書記載例)
「目的」
この法人は、…に寄与することを目的とする。
この法人は、上記の目的を達成するため、次の事業を行う。
1…
2…
3…

社員の資格の得喪に関する規定

社員となるための資格についての定め、退社事由の定め、入退社の手続きなどの定めが必要です。

公告方法

公告方法としては、次のいずれかを定めることができます(法人法第331条、法人法施行規則第88条第1項)。

  1. 官報に掲載する方法
  2. 日刊新聞に掲載する方法
  3. 電子公告
  4. 主たる事務所の公衆の見やすい場所に掲示する方法

④が株式会社とは異なるところで、選択する人が多いようです。

①から③については、こちらの記事をご参照ください。
株式会社について書いたものですが、一般社団法人についても同様です。

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法人税法上、非営利型法人の適用を受けるために必要な定款の記載事項

上にも書いたように非営利型法人に該当するためには、次に要件をすべて満たす必要があります(法人税法第2条第9号の2イ・ロ)。

定款で定めることが要件となっている事項については定款に記載しなければなりません。

非営利性が徹底された法人

法人税法施行令
(非営利型法人の範囲)
第3条 法第2条第9号の2イ(定義)に規定する政令で定める法人は、次の各号に掲げる要件の全てに該当する一般社団法人又は一般財団法人(清算中に当該各号に掲げる要件の全てに該当することとなつたものを除く。)とする。
一 その定款に剰余金の分配を行わない旨の定めがあること。
二 その定款に解散したときはその残余財産が国若しくは地方公共団体又は次に掲げる法人に帰属する旨の定めがあること。
イ 公益社団法人又は公益財団法人
ロ 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年法律第49号)第5条第17号イからトまで(公益認定の基準)に掲げる法人
三 前2号の定款の定めに反する行為(前2号及び次号に掲げる要件の全てに該当していた期間において、剰余金の分配又は残余財産の分配若しくは引渡し以外の方法(合併による資産の移転を含む。)により特定の個人又は団体に特別の利益を与えることを含む。)を行うことを決定し、又は行つたことがないこと。
四 各理事(清算人を含む。以下この号及び次項第7号において同じ。)について、当該理事及び当該理事の配偶者又は三親等以内の親族その他の当該理事と財務省令で定める特殊の関係のある者である理事の合計数の理事の総数のうちに占める割合が、3分の1以下であること。
2 (省略)

上記要件に関する定款記載例は次のとおりです。

1号の要件に関する定款記載例
(剰余金の分配の制限)
第●条 この法人は、剰余金の分配を行うことができない。

2号の要件に関する定款記載例
(残余財産の帰属)
第●条 この法人が清算する場合において有する残余財産は、社員総会の決議を経て、国若しくは地方公共団体、公益社団法人又は公益財団法人若しくは公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第5条第17号イからトまでに掲げる法人に贈与するものとする。

4号の要件については、定款に定めることは求められていませんが、次のような定めを置くことも考えられます。

4号の要件に関する定款記載例
第●条 理事のうち、理事のいずれか1名とその配偶者又は三親等内の親族その他法令で定める特殊の関係にある者の合計数は、理事総数の3分の1を超えてはならない。

共益的活動を目的とする法人

法人税法施行令
(非営利型法人の範囲)
第3条 (省略)
2 法第2条第9号の2ロに規定する政令で定める法人は、次の各号に掲げる要件の全てに該当する一般社団法人又は一般財団法人(清算中に当該各号に掲げる要件の全てに該当することとなつたものを除く。)とする。
一 その会員の相互の支援、交流、連絡その他の当該会員に共通する利益を図る活動を行うことをその主たる目的としていること。
二 その定款(定款に基づく約款その他これに準ずるものを含む。)に、その会員が会費として負担すべき金銭の額の定め又は当該金銭の額を社員総会若しくは評議員会の決議により定める旨の定めがあること。
三 その主たる事業として収益事業を行つていないこと。
四 その定款に特定の個人又は団体に剰余金の分配を受ける権利を与える旨の定めがないこと。
五 その定款に解散したときはその残余財産が特定の個人又は団体(国若しくは地方公共団体、前項第2号イ若しくはロに掲げる法人又はその目的と類似の目的を有する他の一般社団法人若しくは一般財団法人を除く。)に帰属する旨の定めがないこと。
六 前各号及び次号に掲げる要件の全てに該当していた期間において、特定の個人又は団体に剰余金の分配その他の方法(合併による資産の移転を含む。)により特別の利益を与えることを決定し、又は与えたことがないこと。
七 各理事について、当該理事及び当該理事の配偶者又は三親等以内の親族その他の当該理事と財務省令で定める特殊の関係のある者である理事の合計数の理事の総数のうちに占める割合が、三分の一以下であること。

上記要件に関する定款記載例は次のとおりです。

1号の要件に関する定款記載例
(目的)
第●条 この法人は、会員の相互の支援、交流、連絡その他会員に共通する利益の向上を図ることを目的とする。

(事業)
第●条 この法人は、前条の目的を達するため、次の事業を行う。
1…
2…
3…

2号の要件に関する定款記載例
(経費の負担)
第●条 この法人の事業活動に経常的に生じる費用に充てるため、会員になった時及び毎年、会員は、社員総会において別に定める額を支払う義務を負う。

以下の要件については、定款に定めることは求められていませんが、次のような定めを置くことも考えられます。

4号の要件に関する定款記載例
(剰余金の分配の制限)
第●条 この法人は、特定の個人又は団体に剰余金の分配を行うことができない。

5号の要件に関する定款記載例
(残余財産の帰属)
第●条 この法人が清算する場合において有する残余財産は、社員総会の決議を経て、国若しくは地方公共団体、公益社団法人又は公益財団法人若しくは公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第5条第17号イからトまでに掲げる法人又はその目的と類似の目的を有する他の一般社団法人若しくは一般財団法人に帰属させる。

7号の要件に関する定款記載例は、1項4号の記載例と同じです。

施行令1項と2項で剰余金や残余財産の規定が同じようで異なりますのでご注意ください。

その他の一般社団法人で注意すべき記載事項

代表理事及び業務執行理事の理事会に対する職務の執行の状況の報告時期・回数に関する定め

法人法
(理事会設置一般社団法人の理事の権限)
第91条 次に掲げる理事は、理事会設置一般社団法人の業務を執行する。
一 代表理事
二 代表理事以外の理事であって、理事会の決議によって理事会設置一般社団法人の業務を執行する理事として選定されたもの
2 前項各号に掲げる理事は、3箇月に1回以上、自己の職務の執行の状況を理事会に報告しなければならない。ただし、定款で毎事業年度に四箇月を超える間隔で2回以上その報告をしなければならない旨を定めた場合は、この限りでない。

会社法第363条とよく似た規定ですが、第2項のただし書の部分が会社法とは異なる点です。

このただし書の定款の定めを置いている法人は、それなりに見かけます。

記載例は次のとおりです。

(理事の職務及び権限)
第●条 理事は、理事会を構成し、法令及びこの定款で定めるところにより職務を執行する。
2 代表理事は、法令及びこの定款で定めるところにより、当法人を代表し、当法人の業務を執行する。
3 代表理事は、毎事業年度に4か月を超える間隔で2回以上、自己の職務の執行の状況を理事会に報告しなければならない。

理事会の議事録に署名等する者を理事会に出席した代表理事とする定め

法人法
(理事会の決議)
第95条 (省略)
2 (省略)
3 理事会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した理事(定款で議事録に署名し、又は記名押印しなければならない者を当該理事会に出席した代表理事とする旨の定めがある場合にあっては、当該代表理事)及び監事は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。

理事会議事録には、原則として出席した理事及び監事が署名又は記名押印しなければなりませんが、法人法第95条第3項かっこ書きのとおり、定款で定めれば議事録署名人を「代表理事及び監事」とすることができます。

この定款の定めは見かけることが多いです。

記載例は次のとおりです。

(議事録)
第●条 理事会の議事については、法令で定めるところにより、議事録を作成する。
2 出席した代表理事及び監事は、前項の議事録に記名押印する。

なお、この規定を置いた場合で、代表理事と監事が押印した理事会議事録を添付して代表理事の変更の登記を申請する際には、定款の添付も必要です。
定款に当該定めがある旨の記載がある理事会議事録を添付することで定款の添付を省略することはできませんのでご注意ください。

基金を引き受ける者の募集等に関する定め

一般社団法人における「基金」とは、その法人が特定の目的や事業を継続的に支援するために設けられる財源のことを指します。

一般社団法人は、基金拠出者に対して、法人法及び当該一般社団法人と当該拠出者との間の合意の定めるところに従い基金の返還義務を負っています(法人法第131条)。

不動産証券化などで利用されるGK-TKスキームでは、ヴィークルである合同会社の社員として一般社団法人を利用することが多いのですが、基金の拠出により、合同会社や一般社団法人の設立コスト・維持コストを負担します。

基金を引き受ける者の募集をするにはその旨を定款に定めておく必要があります(法人法第131条)。

この場合、次に掲げる事項を定款で定めなければなりません。

  1. 基金の拠出者の権利に関する規定
  2. 基金の返還の手続

基金の返還については、定時社員総会の決議を経る必要があります(法人法第141条第1項)。
また、法人の解散時においては、基金の返還に係る債務の弁済は、その余の清算一般社団法人の債務の弁済がされた後でなければ、することができません(法人法第236条)。

つまり、基金拠出者は一般の債権者よりも劣後する関係にあります。

なお、基金の総額及び代替基金(法人法第144条第1項の規定により計上された金額)は、貸借対照表の純資産の部に計上しなければなりません(法人法施行規則第31条)。

したがって、基金は返還義務があるものでありながら、貸借対照表の負債の部ではなく、純資産の部に計上されるというかなり独特な性質をもったものといえます。

基金について定款の具体的な記載例は次のとおりです。

(基金)
第●条 この法人は、基金を引き受ける者を募集することができる。
2 拠出された基金は、基金の拠出者と合意した期日まで返還しない。
3 基金の返還手続については、返還する基金の総額について定時社員総会の決議を経るものとするほか、基金の返還を行う場所及び方法その他の必要な事項を理事会において別に定めるものとする。

法人法の名称とは異なる通称名や略称を定款に使用する場合

法人法の名称とは異なる通称名や略称を定款に使用する場合とは、たとえば、社員を「会員」と称するような場合です。

具体的には、正会員、賛助会員、名誉会員、特別会員など法人の実情に応じて置くことができます。

会員を集めて会員の共通の利益を追求することがその目的である一般社団法人の性質上、会員と称するケースが多いように見えます。

定款の記載例は次のとおりです。

(法人の構成員)
第●条 この法人に次の会員を置く。
(1)正会員 この法人の事業に賛同して入会した個人又は団体
(2)賛助会員 ・・・
(3)名誉会員 ・・・
2 前項の会員のうち正会員をもって一般社団法人及び一般財団法人に関する法律上の社員とする。

第2項のように法律上の名称と定款で使用する名称がどのような関係にあるのかを定款上、明確にする必要があります。

なお、このような定め方をした場合、定款全体の社員という名称を会員、正会員に置き換える必要があります。

一例をあげると次のようなものです。

第●章 社員総会
(構成)
第●条 社員総会は、すべての正会員をもって構成する。

参考書籍

『【新訂版】公益法人・一般法人の登記』伊藤文秀(著)|全国公益法人協会

『最新 社団法人・財団法人のガバナンスと実務』梅本寛人(著)|中央経済社

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この記事を書いた人

愛媛県四国中央市出身
早稲田大学政治経済学部卒業

平成28年司法書士試験合格
平成29年から約3年間、東京都内司法書士法人に勤務
不動産登記や会社・法人登記の分野で幅広く実務経験を積む

令和2年から香川県高松市にて開業
地元四国で超高齢社会の到来による社会的課題への取組みや地方経済の発展のために尽力している

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