J-KISS型新株予約権とは(シード期の資金調達と登記手続き)

香川県高松市の司法書士 川井事務所です。

J-KISSは、Coral Capitalがメンテナンスを行い、オープンソースとして無償公開しているシード投資のための投資契約書です。

正式には「J-KISS型新株予約権」であり、契約書のひな形を使うとしても、株主総会決議や登記などの会社法上の手続きは必要となります。

2022年4月には、バリュエーションキャップをプレベースからポストベースに変更した「J-KISS 2.0」が公開されています。

今回は、J-KISS 2.0の主な変更点を確認したうえで、取締役会を置いていない株式会社がJ-KISS 2.0を発行する場合の会社法上の手続きと、新株予約権の発行による変更登記について取り上げます。

なお、この記事では、J-KISS型新株予約権投資契約書を「投資契約書」、その別紙1「発行要項」を「発行要項」と表記します。

目次

J-KISS 2.0とは?

何が変わったのか

J-KISS 2.0の最も大きな修正点は、バリュエーションキャップをプレベースからポストベースに変えたことです。

これは、Y Combinatorが2018年9月にSAFEのバリュエーションキャップをポストベースに変更したことにヒントを得たものとされています。

2016年4月の公開から6年が経ち、J-KISSが広く、また複数回のラウンドで使われるようになったことを受けた変更と説明されています。

条文上も、旧版で「評価上限額」とされていた語が、2.0では「ポストキャップ」に置き換えられています(Coral Capital公開の旧版との比較版による)。

希薄化率が読みやすくなる

ポストキャップになると、「投資金額÷ポストキャップ=転換後の持分比率」という単純な計算ができるようになります。

公開記事の例では、ポストキャップ3億円で3,000万円を調達した場合、シリーズA直前の時点で投資家は10%の株式を得ることになります。

シードでポストキャップ3億円・3,000万円、プレシリーズAでポストキャップ5億円・7,500万円を調達した場合は、シードの投資家に10%、プレシリーズAの投資家に15%を渡すことになります。

これを発行要項の側でみると、「完全希釈化後株式数」を次の算式で求める構造に改められています。

                      除外完全希釈化後株式数
完全希釈化後株式数 = ──────────────────────────────
──
  1-(本新株予約権転換後下限比率 + 同種新株予約権転換後下限比率)

「本新株予約権転換後下限比率」は、発行価額に本新株予約権の総数を乗じた金額をポストキャップで除した数とされています。

つまり、投資金額÷ポストキャップの比率を、あらかじめ分母から差し引いておく仕組みということになります。

「ひな形から変更していない」旨の一文

投資契約書の冒頭には、ひな形から変更していないことを示す一文が置かれています。

2.0では「空白又は括弧書き以外の箇所を除き」という文言でしたが、Coral Capitalが公開しているコメント付きのv2.01では「空白又は括弧書きの箇所を除き」と修正されています。

v2.0の文言のままだと意味が通りにくいため、これから使う場合はv2.01の文言を確認しておくのがよいと考えられます。

この一文があれば、ひな形からの変更点の確認やリーガルレビューを省略できる、というのがCoral Capitalの説明です。

なお、J-KISS 1.x系と2.0を混ぜて使うことは、転換時の計算が複雑になるため推奨されていません。

ひな形の主要な数値

投資契約書と発行要項のひな形には、次のような数値が括弧書きで置かれています。

  • 新株予約権1個あたりの払込金額:100万円
  • 次回株式資金調達(転換トリガー):総調達額1億円以上
  • ディスカウント:次回株式資金調達の1株あたり発行価額に0.8を乗じた額
  • 転換期限:割当日の18ヶ月後の応当日
  • 主要投資家:払込金額500万円以上
  • 参加上限額(優先引受枠):払込金額の2倍
  • 支配権移転取引等の場合の取得対価:発行価額の2倍に相当する金銭

コメント付きのv2.01では、500万円のしきい値について、少額のエンジェル投資家を含めた全投資家に情報請求権などを与えるのは実務的に煩雑だから、と説明されています。

J-KISS 2.0の発行手続き(取締役会非設置会社)

Coral Capitalが公開している「J-KISSパッケージ」は、取締役会非設置会社を前提としています。

取締役会設置会社の場合は発行手順が異なるため、専門家に相談するよう注意書きがあります。

以下では、非公開会社で取締役会を置いていない株式会社を前提に、会社法の条文に沿って流れを整理します。

STEP1 募集事項の決定(株主総会の特別決議)

新株予約権を引き受ける者の募集をするときは、その都度、募集新株予約権の内容及び数、払込金額、割当日などの募集事項を定めなければなりません(会社法第238条第1項)。

募集事項の決定は、株主総会の決議によらなければなりません(会社法第238条第2項)。

この株主総会決議は、いわゆる特別決議となります(会社法第309条第2項第6号)。

J-KISSでは、発行要項の「払込金額」「割当日・払込期日」「新株予約権の内容」が、この募集事項に対応します。

また、払込金額が特に有利な金額であるときは、取締役が株主総会で理由を説明しなければなりません(会社法第238条第3項第2号)。

この点、Coral CapitalはKPMG税理士法人への確認を経て、基本的には有償時価発行新株予約権として取り扱われうると考えている旨を表明しています。

ただし、個別の契約内容に基づいて顧問税理士等に確認するよう注意書きがあり、有利発行に当たるかどうかの判断材料について、【資料に記載なし】評価・算定に関する資料が必要です。

STEP2 割当ての決定・総数引受契約の承認

J-KISSは、発行要項で譲渡による取得に株主総会の承認を要すると定めているため(発行要項5(8))、譲渡制限新株予約権に当たります。

そのため、申込み・割当ての方式をとる場合は、割当ての決定を株主総会の決議で行う必要があります(会社法第243条第2項第2号)。

総数引受契約の方式をとる場合も、その契約について株主総会の承認を受けなければなりません(会社法第244条第3項第2号)。

いずれも、定款に別段の定めがある場合は除かれます(会社法第243条第2項ただし書、第244条第3項ただし書)。

そして、これらの株主総会決議も特別決議です(会社法第309条第2項第6号)。

ここで問題になるのが、投資家が複数いる場合です。

投資契約書は会社と各投資家との個別の契約であり(投資契約書第5.13条第1項)、各投資家は「本新株予約権のうち[●]個」を引き受ける形になっています(投資契約書第2.1条)。

一方、発行要項の「新株予約権の数」には、コメントによれば「本ラウンド全体で発行するJ-KISSの数の合計」を記入することとされています。

会社法第244条第1項は「その総数の引受けを行う契約」について申込み・割当ての規定を適用しないとしているため、投資家ごとの投資契約書が複数ある場合にこれを総数引受契約として扱えるかは、慎重に検討すべきと考えられます。

STEP3 払込み

新株予約権者は、払込期日までに、会社が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所で、払込金額の全額を払い込まなければなりません(会社法第246条第1項)。

投資契約書では、会社が指定する金融機関口座に振込送金する方法で払い込むこととされています(投資契約書第2.2条第1項)。

払込期日までに全額を払い込まないときは、その新株予約権を行使することができません(会社法第246条第3項)。

STEP4 割当日(新株予約権者となる日)

申込者又は総数引受契約により引き受けた者は、割当日に新株予約権者となります(会社法第245条第1項)。

J-KISSのひな形では、「割当日」と「払込期日」が同じ日に設定されています(発行要項4)。

この点は、後述する登記の添付書面に関係してきます。

STEP5 新株予約権原簿の作成

会社は、新株予約権を発行した日以後遅滞なく、新株予約権原簿を作成しなければなりません(会社法第249条)。

投資契約書でも、払込み後速やかに新株予約権原簿に記録し、投資家に新株予約権原簿記載事項証明書を交付することとされています(投資契約書第2.2条第2項、会社法第250条第1項)。

STEP6 変更登記の申請

新株予約権の発行によって登記事項に変更が生じたときは、2週間以内に、本店の所在地で変更の登記をしなければなりません(会社法第915条第1項、第911条第3項第12号)。

投資契約書では、払込期日から30営業日以内に、発行が反映された現在事項全部証明書を投資家に交付することとされています(投資契約書第2.3条)。

登記期間は会社法上の義務であり、契約上の30営業日とは別に管理する必要があると考えられます。

新株予約権の発行による変更登記

申請書の概要

法務局の申請書様式によると、概要は次のとおりです。

  • 登記の事由:募集新株予約権の発行
  • 登記すべき事項:別紙のとおり
  • 登録免許税:金9万円(登録免許税法別表第一第24号(一)ヌ)
  • 提出先:本店所在地を管轄する法務局

添付書面

J-KISSの発行による変更登記の添付書面は、次のとおりとなります。

  1. 株主総会議事録(商業登記法第46条第2項)
  2. 株主リスト(商業登記規則第61条第3項)
  3. 募集新株予約権の引受けの申込み又は総数引受契約を証する書面(商業登記法第65条第1号)
  4. 委任状(代理人によって申請する場合)

払込みがあったことを証する書面は不要

法務局の様式では、添付書類の一つとして「払込みがあったことを証する書面」が挙げられています。

しかし、商業登記法第65条第2号が払込みを証する書面の添付を求めているのは、払込期日を定めた場合で、その期日が割当日より前の日であるときに限られます(商業登記法第65条第2号)。

J-KISSのひな形では、割当日と払込期日を同じ日としています(発行要項4)。

したがって、払込期日は割当日より前の日ではなく、条文どおり、払込みがあったことを証する書面は不要となります。

実務上も、この場合には払込みがあったことを証する書面を添付せずに申請しています。

様式の添付書類欄をそのまま埋めようとして、通帳の写しなどを用意する必要はない、ということです。

なお、ひな形の割当日・払込期日を修正し、払込期日を割当日より前の日とした場合には、同号の書面が必要となる点に注意が必要です。

登記すべき事項と発行要項の対応

新株予約権を発行したときの登記事項は、会社法第911条第3項第12号に定められています。

発行要項の各項目と対応させると、次のようになります。

登記事項(会社法第911条第3項第12号)発行要項の該当箇所
イ 新株予約権の数2「新株予約権の数」
ロ 目的である株式の数又はその算定方法(第236条第1項第1号)5(1)「目的である株式の種類及び数」、5(2)「転換価額」
ロ 行使に際して出資される財産の価額(同第2号)5(3) 1円
ロ 行使することができる期間(同第4号)5(4) 割当日の翌日以降、いつでも
ニ 行使の条件5(5)「本新株予約権の行使の条件」
ホ 取得条項(第236条第1項第7号)5(6)「株式を対価とする取得条項」、5(7)「金銭を対価とする取得条項」
ヘ 払込金額3「払込金額」 1個あたり100万円

一方、資本金及び資本準備金に関する事項(発行要項5(9))や譲渡制限(発行要項5(8))は、会社法第236条第1項第5号・第6号の事項であり、第911条第3項第12号ロが掲げる「第1号から第4号まで」には含まれていません。

したがって、これらは登記すべき事項には当たらないと考えられます。

まとめ

  • J-KISS 2.0は、ポストキャップへの変更によって持分比率の計算がわかりやすくなった一方、発行要項の算式はより精緻になっています。
  • ひな形を使うことで契約交渉のコストは下がりますが、株主総会の特別決議、新株予約権原簿の作成、2週間以内の変更登記といった会社法上の手続きはそのまま残ります。
  • また、ひな形どおり割当日と払込期日を同じ日とする限り、登記申請に払込みがあったことを証する書面は不要です。
  • 複数の投資家がいる場合の引受けの方式については、事前に確認しておくべき点と考えられます。

参考書籍

『増補改訂版 起業のエクイティ・ファイナンス』磯崎哲也(著)|ダイヤモンド社

『非上場株式取引の法務・税務〔スタートアップの資金調達編〕』小山浩・間所光洋・立石光宏・髙橋悠(著)|税務経理協会

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この記事を書いた人

愛媛県四国中央市出身
早稲田大学政治経済学部卒業

平成28年司法書士試験合格
平成29年から約3年間、東京都内司法書士法人に勤務
不動産登記や会社・法人登記の分野で幅広く実務経験を積む

令和2年から香川県高松市にて開業
地元四国で超高齢社会の到来による社会的課題への取組みや地方経済の発展のために尽力している

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