コーポレートガバナンス・コードやらスチュワードシップ・コードが言われ始めて数年、いまだに何ですかそれ?という状態の人もいるかもしれません。
コーポレートガバナンス・コードは、上場企業に対して、投資家などのステークホルダーと対話しながら中長期的な企業価値の向上を促すことを目的とし、スチュワードシップ・コードは、機関投資家に対して、企業との対話を通して投資先企業の持続的な成長を促すことを目的としている、とされています。
なぜそんなことが言われ始めたのか??
今回はその背景を知るために役立つ本を、いや、そんなこと知りたくなくても普通に読み物として面白い本を、ご紹介したいと思います。
生涯投資家
まずは、ニッポン放送事件や、もの言う株主、「お金儲けして何が悪いんですか?」発言などでおなじみ、村上世彰著『生涯投資家 (文春文庫)』。
とにかくこの本の1行目がすごい。
子どもの頃、預金通帳に印字された数字が増えていくのを見るのが好きだった。
これほど著者のキャラがわかりやすく伝わってくる文章があったでしょうか。
夏目漱石の名作『坊ちゃん』の冒頭を思い出させます。
イメージどおりやっぱりお金好きだったんだな・・・という感想をもつ一方で、著者が村上ファンドで世間を騒がせていた当時、彼が何をやろうとしていたのか、ということはこの本を読むまでまったく知りませんでしたし、ほとんどの人が知らないのではないかと思います。
日本の株式市場にコーポレートガバナンスという考え方を浸透させる。
これが、著者のやりたかったことなんです。
村上氏は、大学卒業後は通産省(現・経産省)の官僚となり、その頃にアメリカで浸透してきたコーポレートガバナンスという考え方を研究していました。
コーポレートガバナンスとは、投資先の企業で健全な経営が行われているか、企業価値を上げる=株主価値の最大化を目指す経営がなされているか、株主が企業を監視・監督するための精度です。
日本でも官僚の立場から株式市場にコーポレートガバナンスを浸透させようとしたようですが、限界を感じ、官僚を辞めて、投資家として自らプレーヤーとなって株式市場を変えようとした、というわけです。
ということは当時の上場企業は株主の利益を軽視していた、ということがいえそうです。
本書では、ニッポン放送事件や、阪神鉄道再建計画など有名な事件が著者目線で語られていますが、一貫してコーポレートガバナンスの重要性を説いていますし、日本のコーポレートガバナンスの歴史がわかります。
2015年にコーポレートガバナンス・コードが制定されましたが、日本の株式市場でもコーポレートガバナンスが意識されるようになりました。
時代がようやく彼が目指したところに追いついてきたということでしょうか。
楽天IR戦記
続いて『楽天IR戦記 「株を買ってもらえる会社」のつくり方』です。
本書は、著者個人の物語としても読めますし、楽天という会社の歴史の一部としても面白く読むことができます。
今度は上場企業のIR担当者目線からのコーポレートガバナンスです。
『生涯投資家』の村上ファンドの活動時期は1999年から2006年頃までの話で、伝統のある会社が投資家からの目線で描かれていましたが、本書は2005年から物語はスタートして、楽天という新しい会社の内部目線から投資家が描かれており、非常に対照的です。
『生涯投資家』では企業と投資家の会話がほとんど成り立っていなかったですが、本書では、企業と投資家との対話が積極的にされていて、こんなにも違うかという驚きがありました。
でも、これが企業と投資家との関係の本来の形ですよね。
この企業と投資家との対話が積極的にされることを促し、短期での利益ではなく、中長期的な企業の成長を目指していきましょうということを形にしたものが、冒頭に出てきたコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードというわけです。
あと、職業柄、上場企業の内部からみたストックオプションや役員報酬の考え方のくだりは非常に興味深かったです。
『生涯投資家』と『楽天IR戦記』どちらもおすすめです!
『生涯投資家』村上世彰(著)|文春文庫
『楽天IR戦記「株を買ってもらえる会社」のつくり方』市川祐子(著)|日経BP
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