2021年に買って読んだ認知症関連のおすすめ本

仕事柄、認知症の人と接する機会が多いこともあり、2021年は認知症関連の書籍をいくつか読みました。

認知症といえば、認知症高齢者の数は2012年の段階で約462万人になり、65歳以上の高齢者の約7人に1人が認知症で、2025年にはその数が約700万人、高齢者の約5人に1人がなる、という話を聞いたことがあるかもしれません。

今回は、超高齢化社会の身近な課題のひとつと思われる認知症について知っておきたい人のために、おすすめ本をご紹介したいと思います。

目次

認知症世界の歩き方

まずは

認知症に関心があるなしにかかわらず、あらゆる人におすすめしたい『

認知症について学びたいという動機がなくても一般の読みものとしてふつうに興味深く読める内容となっています。

「認知症のある方が生きている世界」を実際に見られるように、というコンセプトのもと、認知症のご本人の視点に立って、認知症のある方が経験する出来事を「旅のスケッチ」と「旅行記」の形式にまとめ、だれもがわかりやすく身近に感じ、楽しめながら学べるストーリーとなっています。

著者はデザイナーの筧裕介さん(issue+design)。

なぜデザイナーが認知症の本を?という疑問に思うかもしれませんが、それについては、著者のあとがきに簡潔にわかりやすくまとめられていたので引用させていただきます。

「認知症の課題解決は、デザイナーの仕事だ」。
2018年に「認知症未来共創ハブ」の活動に参加し、多くの認知症のある方との交流を通じて、わたしが確信したことです。
デザインとは、人間とモノ・サービス・環境・情報との幸せな関係を創る行為です。
複雑化する現代社会には、使いにくい商品やサービス、混乱を呼ぶサインや空間があふれています。
そう、認知症のある方が生活に困難を抱えている原因の大半がデザインにあるのです。
「認知症のある方が暮らしやすい社会を実現するために、デザインはなにが可能か」、そんな問いへの答えを模索し、たどり着いた1つの結論が、この『認知症世界の歩き方』です。(246ページより)

ここで、そもそも認知症とは何?というところを確認しておきましょう。

認知症とは、「認知機能が働きにくくなったために、生活上の問題が生じ、暮らしづらくなっている状態」のことをいいます。 (9ページより)

認知機能とは、「ある対象を目・耳・鼻・舌・肌などの感覚器官でとらえ、それが何であるかを解釈したり、思考・判断したり、計算や言語化したり、記憶に留めたりする働き」のことです。(9ページより)

よく誤解されているのですが、認知症は病名ではありません。

様々な原因があって、症状も様々です。

本書ではその様々な症状の認知症世界を旅するという形式で、イラストや図解も交えてわかりやすく伝えてくれます。

文字の大きさやフォントもこだわりが感じられ、読みやすいです。

そんな認知症世界を旅するなかでわかってくるのは、認知症のある方の行動にはきちんと理由があるということです。

この認知症のある方の行動や理由を知っているということは大事なことで、例えば、私は、真夏の酷暑日に厚着して歩いている高齢者を見かけたときに「認知症のある方かもしれない」と思ってちょっと注意してみるようになりました。

超高齢化社会で、より認知症が身近なものになる上で、まずは認知症について正しい知識を持つということが大事です。

さらに言うと、認知症の様々な症状に対して、くらしのデザインについてまで考えさせられるところが、本書の特徴といえると思います。

なお、オフィシャルサイトがありますので、まずはそこから本書の世界観をのぞいてみてはいかがでしょうか。

認知症に備える

』、タイトルどおり認知症に備えるということで、

「まだ認知症になりそうにないけれど、高齢者といわれる年になっている」というご本人やそのご家族向けに、認知症対策について書かれています。

ノンフィクションライターの中澤まゆみさんと司法書士の村山澄江さんの共著です。

中澤さんが主に前半パートでそもそも認知症とは?というところから

  • 早期発見・早期治療・早期対応の大切さ
  • 早期発見のめやす
  • 診断の受け方
  • 中核症状とBPSO(認知症に伴う行動・心理における症状)
  • 認知症の薬
  • 介護保険サービスの利用の申請
  • 一緒にケアプランをつくることになるケアマネージャー選びについて
  • 介護保険で使える介護サービス
  • 自治体独自のサービスについて
  • 認知症の人でもどこまで在宅が可能か?
  • 「認知症カフェ」など地域の相談場所の利用について
  • 介護・医療費を軽減する制度について
  • 認知症の人が使える障害者のための制度
  • 認知症の人の入院で気をつけること
  • 在宅医療の利用について
  • 介護施設の選び方

など認知症についてみなさんが気になるテーマをとりあげています。

村山さんが後半パートで、

  • 認知症になる前に知っておきたいお金と法律の話
  • 成年後見制度
  • 家族信託について

など、一見難しそうなテーマをわかりやすく解説してくれています。

とにかくわかっておいていただきたいのは、

お金と法律面においては、元気なうちと判断能力が低下してしまった後では、できることに大きな差がある

ということです。

認知症になったら困難になる法律上の手続きの代表例は、

  1. 住んでいる家の売却
  2. 定期預金の解約
  3. 相続手続き

の3つです。(27ページより)

認知症のことが気になって対策をしておきたいけど、何をすればいいんだろう?という方は、まずは本書を読んでいただければと思います。

ボクはやっと認知症のことがわかった 自らも認知症になった専門医が、日本人に伝えたい遺言

』タイトルのとおり、著者の長谷川和夫先生は認知症の専門医で、認知症の検査として最初に使われる「長谷川式スケール」を開発されました。

認知症はかつて「痴呆」と呼ばれていましたが、「痴呆」から「認知症」への呼称変更に関する国の検討委員も務められました。

つまり日本の認知症研究の第一人者といっていい方です。

本書の巻末に長谷川先生の人生と認知症の歴史の年表が並べられているとおり、長谷川先生個人の人生がまさに日本での認知症の歴史のようなもの。

メディアでも取り上げられて話題になっていましたし、どんなことが書いてるのか前から気になっていて、上でご紹介した『』を買ったときに、同時に買いました。

長谷川先生が90歳を過ぎて出版された本でタイトルに「遺言」とあるように、自分の死が近いことを悟っている人の文章、純粋に伝えたいことが書かれてあると感じます。

印象的だったところは、

実際に自分が認知症になってみて実感したことは、認知症は、いったんなったら固定したもののように思われがちですが、そうではないということです。
たとえばボクの場合、朝起きたときは調子がよいのだけれど、だんだん疲れてきて、夕方になると混乱がひどくなる。
でも一晩眠るとすっきりして、またフレッシュな新しい自分が甦ります。
つまり、そのときどきの身体や心の具合によって、認知症はよくも悪くもなる。
だから、「一度なってしまったらおしまい」とか「何もわからない人になった」などと思わないでほしい、特別扱いしないでいただきたいと思います。
また、認知症は恐ろしい病気だと思われがちですが、その本質は「暮らしの障害」です。それまで当たり前のようにできていた「普通の暮らし」ができなくなっていくのが特徴です。
これは不便だし、困ります。
家族も困惑します。
でも、周囲の接し方次第で、この障害の程度はずいぶん軽減できます。
そうしたこともぜひ、知っていただきたいと思います。(5~6ページ)

この本を読み終わってしばらく後に長谷川先生の訃報を知りました。

謹んでご冥福をお祈りします。

認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本

認知症になったことを公表した有名人のひとり、蛭子さん。

漫画家であり、テレビタレントであり、役者もやるし、ギャンブラーでもあります。

テレビで見る限り、良くも悪くもピュアな人だなという印象でしたが、どんなことが書いてあるのか・・・

表紙をめくって最初に目に入ってくる言葉が

これからも「ボケてるオレ」を笑ってください。

これ、自分には一生言えないすごい言葉。

本書の内容としては、蛭子さん本人がというより、蛭子さんの奥様、マネージャー、担当記者などまわり人からの視点で認知症になった蛭子さんのことが書かれています。

また、週刊誌『女性自身』で連載されている「蛭子能収のゆるゆる人生相談」の抜粋が掲載されています。

認知症になった後の人生相談とはいえ、認知症とは直接関係ない内容ですが、なんか読んじゃいますね。

20歳の東京都・大学生の相談「起業家を目指している大学生です。ベンチャービジネスには、先見の明や流行を先取りする能力が必要と教わっています。人気者の蛭子さん、時流にうまく乗るコツを教えてください。」

・・・東京の起業家目指す大学生が女性自身の連載をみつけて、蛭子さんに時流に乗るコツを相談するってどういうZ世代なんだ・・・

つい読んでしまいます。

それはさておき、本書で印象にのこったところは

たとえば、診断された後に、親しい記者に「認知症って言われたけど、そうじゃないと思うんだよね」と話したら、その人は、すこし表情をこわばらせて「大丈夫ですよ、大丈夫!」と言って目をそらしました。
オレは街を歩いていても、「おっ、蛭子さん、認知症になったんだってね」と気軽に声をかけられるかなと思っていました。
よく競艇場で「おっ、蛭子さん、今日も負けたんだってね」と知らない人に声をかけられます。
それと同じようなものだと思っていました。
ボケていると診断される前は、空気を読まないオレの言動が「おもしろい」と言われていました。
それでテレビに出るようになりました。
オレ自身は計算した発言や行動ではなくて、感情のおもむくままの姿。
それを人が喜んでくれることが好きでした。
でもオレ自身は変わっていないけど、認知症になってからは、あまり笑ってくれなくなった気がします。
ちょっと寂しいですね。
なんだか、認知症と診断された日を境に、オレとオレ以外にちょっとした隙間が空いてしまったような気がします。(4~5ページより)

「認知症になったんだってね」と気軽に声をかけられるのが健全な社会なんじゃないでしょうか。

おすすめ書籍まとめ

『認知症世界の歩き方』筧裕介(著)、樋口直美(監修)、認知症未来共創ハブほか(監修)|ライツ社

『認知症に備える』中澤まゆみ(著)、村山澄江(著)|自由国民社

『ボクはやっと認知症のことがわかった 自らも認知症になった専門医が、日本人に伝えたい遺言』長谷川和夫(著)、猪熊律子(著)|KADOKAWA

『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』蛭子能収(著)|光文社

— どうぞお気軽にご相談ください。—

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この記事を書いた人

愛媛県四国中央市出身
早稲田大学政治経済学部卒業

平成28年司法書士試験合格
平成29年から約3年間、東京都内司法書士法人に勤務
不動産登記や会社・法人登記の分野で幅広く実務経験を積む

令和2年から香川県高松市にて開業
地元四国で超高齢社会の到来による社会的課題への取組みや地方経済の発展のために尽力している

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