香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
民法第34条は「法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。」と定めています。
つまり、会社を含むすべての法人の権利能力が定款所定の目的によって制限されるものと考えられ、法人の目的は非常に重要なものであるということがわかります。
今回は、会社設立時の注意点として、事業の目的、発起人が法人の場合の事業目的、事業目的と許認可や融資との関係について取り上げます。
会社の事業目的とは
冒頭にも書いたように、民法第34条は「法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。」と定めています。
また、株式会社の定款の絶対的記載事項(その規定がないと定款が無効になる)を規定した会社法第27条に列挙されている記載事項のうち第1号に規定されているのが「目的」です。
持分会社(合名・合資・合同会社)についても同様です(会社法第576条)。
目的は商号よりも先に挙げられています。
事業を始めるときにまずはビジネスモデルを考えることが先なのであって、会社名を先に考えるということはないでしょう。
とにかくまずは事業目的があって、それに権利義務が、法人格が与えられるのが会社という存在なのだと考えられます。
目的は定款に記載しなければならないのと同時に登記事項でもあります。
事業目的を明らかにすることにより会社の債権者や株主のリスクを限定する役割にもなっていると考えられます。
たとえば、将来やるかやらないかわからないものを含めて事業目的を100個ぐらい定めて会社を設立した場合、金融機関など第三者からみて、結局何をする会社なのかわからないとみられるおそれがあります。
最悪の場合、実体がある会社なのかどうか疑われ、会社名義の口座開設ができないかもしれません。
会社設立時には本当に手掛ける可能性のある事業目的だけを定款に記載することをおすすめします。
話は逸れますが、主にWeb3に関する事業を目的とする会社を設立したところ、ほとんどの金融機関で会社名義の口座開設を断られたという例がありました。
マネーロンダリングを疑われたのかもしれません。
(※Web3=口座開設できないというわけではありません。Web3でも真っ当な事業であると説明できれば、当然、口座開設できます。)
ところで、会社の目的をどの程度具体的に定めるかは会社が自ら判断すべき事項であり、登記官による審査の対象とはならないとされています(平18・3・31民商782号通達)。
たとえば、「商業」といった抽象的・包括的な目的で登記することも可能だとされています。
しかし、上記のとおり、会社の目的は会社の債権者や株主のリスクを限定する役割があります。
また、定款所定の目的外の行為は、取締役等の善管注意義務違反に基づく損害賠償請求や取締役等の行為の差止請求などに影響を与えますが、目的が曖昧だとそれらが困難になるおそれがあります。
このような理由から、目的が抽象的・包括的なものだと取引を敬遠されるかもしれません。
加えて、会社の事業目的には「明確性」、「適法性」、「営利性」が必要であるとされています。
個人的な話をすれば、司法書士試験の口述試験でこれを聞かれたことがいまだに思い出されます。
筆記試験の勉強で、事業目的の明確性やら適法性のことなど1ミリも考えたことがなかったので、かなり焦りました。
試験官は大変優しく、ヒントをいっぱいくれましたが、その場で全部は答えられませんでした。
まあそんなことはどうでもいいですが。
明確性
一般人において理解可能な程度の日本語で表現されているかどうかということです。
業界・専門用語や外来語などのいわゆる新語を使用する場合に問題となります。
登記実務上は、一般向けの国語辞典や現代用語辞典などに、事業目的に使用する語句についての解説があるかどうかが判断基準とされています。
適法性
公序良俗違反または、法令により事業をすることができないものかどうかということです。
たとえば「違法薬物の販売」。
ダメに決まっています。
また、弁護士、司法書士、税理士等の資格を有する者のみができる事業については、資格がない者が目的とすることはできません。
営利性
営利・非営利ということばがありますが、事業活動を通じてあげた利益を法人構成員に分配できる法人を営利法人といいます。
会社はもちろん営利法人です。
分配できない法人を非営利法人といいます。
公益性が認められるかどうかはあまり関係がなく、当該事業目的によって利益を得る可能性があれば、公益性の認められる事業であっても登記することは可能とされています。
利益を生む可能性が全くない事業を会社の目的とすることはできません。
発起人が法人の場合の事業目的(親会社・子会社の関係)
平成9年の独占禁止法の一部改正による持株会社の解禁以前は、完全親会社の目的の記載について子会社の営む事業をそのまま具体的に列挙していたようです。
現在では、親会社の持株事業については柔軟な記載方法が認められており、かつてのように形式的に子会社の目的を親会社の目的に記載する必要はありません。
子会社を保有することが親会社の目的の範囲内にあることが確認できれば足りるとされています。
許認可と事業目的
許認可を必要とする事業をする場合には、事業目的はその取得のために必要な記載をしなければなりません。
たとえば、次のような業種です。
- 飲食業
- 運送業
- 介護事業
- 建設業
- 古物商
- 産業廃棄物処理
- 酒類販売
- 職業紹介事業
- 宅地建物取引業
- 美容業
- 旅行業
- 労働者派遣事業
各業種によって許認可の要件がありますので、事前に管轄する役所に確認する必要があります。
また、業種によっては資本金要件がありますので、資本金については以下の記事をご参照ください。
融資と事業目的
すでに書いたように、事業目的は会社の債権者や株主のリスクを限定する役割にもなっていると考えられます。
金融機関から融資を受ける場合は、金融機関・保証会社に事業目的を見られます。
このことから、主に農業以外の事業をやっている会社の事業目的に農業の記載がある場合は、目的から農業を削除する変更を求められることがあります。
そうすると目的変更のコストがかかってしまうことになります。
融資を受ける予定がある場合は、会社設立前から金融機関に相談した方がよいでしょう。
参考書籍
『株式会社法〔第9版〕』江頭憲治郎(著)|有斐閣
『商業登記ハンドブック〔第4版〕』松井信憲(著)|商事法務
『会社法コンメンタール(1)』江頭憲治郎(編集)|商事法務
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