香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
一般社団法人は公益的な活動や会員の共通の利益のための事業を行うことを目的とする非営利法人のひとつです。
一般社団法人における基金とは、その法人が特定の目的や事業を継続的に支援するために設けられる財源のことを指します。
一般社団法人は、基金拠出者に対して、基金の返還義務を負っていますが会計処理上は、貸借対照表の負債の部ではなく純資産の部に計上されるというルールとなっています。
今回は、基金とは何か、基金を引き受ける者の募集手続き、基金の返還について取り上げます。
一般社団法人の基金とは
一般社団法人における「基金」とは、その法人が特定の目的や事業を継続的に支援するために設けられる財源のことを指します。
一般社団法人は、基金拠出者に対して、法人法及び当該一般社団法人と当該拠出者との間の合意の定めるところに従い基金の返還義務を負っています(法人法第131条)。
基金拠出者は、社員でなくてもかまいません。
基金拠出者に対しては、もちろん剰余金の分配をすることはできず、基金の返還にかかる債権には利息を付することができません(法人法第143条)。
基金の総額及び代替基金(法人法第144条第1項の規定により計上された金額)は、貸借対照表の純資産の部に計上しなければなりません(法人法施行規則第31条)。
したがって、基金は返還義務があるものでありながら、貸借対照表の負債の部ではなく、純資産の部に計上されるというかなり独特な性質をもったものといえます。
そのような性質からか、一度基金制度を採用すると廃止することはできないとされています。
基金に関する事項は、登記事項とはされておらず、基金を募集することができる旨の定めの設定・廃止、または基金の募集を行っても登記手続きをする必要はありません。
ただし、一般社団法人は、貸借対照表等の公告義務がありますので(法人法第128条第1項)、貸借対照表上に計上された基金の総額が第三者に開示されることになります。
基金を引き受ける者の募集手続
基金を募集することができる旨の定款の定め
この場合、次に掲げる事項を定款で定めなければなりません。
- 基金の拠出者の権利に関する規定
- 基金の返還の手続
一般社団法人の定款についての詳細はこちらの記事をご参照ください。
なお、基金を募集することができる旨の定款の定めをおけば、すぐに基金を募集しなければならないわけではありません。
基金の募集手続
基金の募集の手続きの流れは次のようになります。
株式会社の募集株式の発行の手続きとほぼ同じといってよいでしょう。
※総額引受契約の場合は適用なし(法人法第135条)
※総額引受契約の場合は適用なし(法人法第135条)
※総額引受契約の場合は適用なし(法人法第135条)
※払込期日(または払込期間の初日)の前日までに
※総額引受契約の場合は適用なし(法人法第135条)
募集事項の決定
基金の募集をするときは、その都度次に掲げる募集事項を定めなければなりません(法人法第132条)
- 募集に係る基金の総額
- 基金の拠出に係る金銭の払込期日又は払込期間
法人設立時に基金を募集するときは、設立時社員全員の同意によって定めなければならない(法人法第132条第2項)という条文の規定があります。
ところが、設立後についての募集事項決定機関については、条文上の規定がなく、通常の業務執行の一つと解することができます。
理事会非設置法人においては、社員総会の決議又は理事の過半数の一致による決定、理事会設置法人においては、理事会の決議によって決定することになります。
募集事項等の通知
一般社団法人は、募集に応じて基金の引受けの申込みをしようとする者に対し、次に掲げる事項を通知しなければなりません。
法人成立後の基金募集の際の通知事項
- 一般社団法人の名称
- 募集事項
- 金銭の払込みをすべきときは、払込取扱場所
- 基金の拠出者の権利に関する規定
- 基金の返還の手続
- 定款に定められた事項(①から⑤までに掲げる事項を除く)であって、当該一般社団法人に対して基金の引受けの申込みをしようとする者が当該者に対して通知することを請求した事項
法人設立時の基金募集の際の通知事項
- 一般社団法人の名称
- 募集事項
- 金銭の払込みをすべきときは、払込取扱場所
- 定款の認証の年月日及びその認証をした公証人の氏名
- 目的
- 主たる事務所の所在地
- 設立時社員の氏名又は名称及び住所
- 社員の資格に関する得喪に関する規定
- 公告方法
- 事業年度
- 基金の拠出者の権利に関する規定
- 基金の返還の手続
- 定款に定められた事項(①から⑫までに掲げる事項を除く)であって、当該一般社団法人に対して基金の引受けの申込みをしようとする者が当該者に対して通知することを請求した事項
基金の引受けの申込み
基金の引受けの申込みをする者は、次に掲げる事項を記載した書面を一般社団法人に交付しなければなりません(法人法第133条第2項)。
- 申込みをする者の氏名又は名称及び住所
- 引き受けようとする基金の額
基金の割当て
一般社団法人は、申込者の中から基金の割当てを受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる基金の額を定めなければなりません。この場合において、一般社団法人は、当該申込者に割り当てる基金の額を、基金の引受けの申込みの額よりも減額することができます(法人法第134条第1項)。
募集事項の決定の際に、申込みがあることを停止条件として、基金の割当てを行うことも可能であると解されています。
基金の割当ての通知
一般社団法人は、基金の払込期日(払込期間を定めた場合にあっては、その期間の初日)の前日までに、申込者に対し、当該申込者に割り当てる基金の額を通知しなければなりません(法人法第134条第2項)。
つまり、募集事項の決定から割当ての通知までの手続きは、基金の払込期日の前日までにしなければならず、1日で基金募集の手続きをすることはできません。
総額引受契約の場合の特則
総数引受契約ではなく、総額引受契約です。
つまり、総額引受契約を締結する場合は、基金募集の手続きを1日で完了することができます。
基金の拠出の履行
基金の引受人は、払込期日または払込期間内に、払込取扱場所において、それぞれの基金の払込金額の全額を払い込まなければなりません(法人法第138条第1項)。
法人成立後の基金の引受人は、払込期日(払込期間を定めた場合は拠出の履行をした日)に基金の拠出者となります(法人法第139条第1項)。
法人成立前の場合は、一般社団法人の成立の時に基金の拠出者となります(同条第2項)。
基金の返還
基金の返還の手続きは、次のとおりです。
基金の返還の決議(法人法第141条第1項)
定時社員総会の普通決議
基金の返還限度額(同法同条第2項)
返還限度額=貸借対照表上の純資産額―基金の総額+法務省令(法人法施行規則第23条)で定めるところにより資産につき時価を基準として評価を行っている場合において、その時価の総額がその取得価額の総額を超えるときは、時価を基準として評価を行ったことにより増加した貸借対照表上の純資産額
基金の返還時期
次の事業年度に関する定時社員総会の日の前日までの間
基金利息の禁止(同法第143条)
上にも書いたとおり、基金の返還に係る債権には、利息を付することができません。
代替基金(同法第144条)
基金の返還をする場合には、返還をする基金に相当する金額を代替基金として計上しなければなりません。
この代替基金は取り崩すことができません。
参考書籍
『社団法人・財団法人の登記と書式〔第3版〕』大貫正男・久我祐司(編集)|民事法研究会
『【新訂版】公益法人・一般法人の登記』伊藤文秀(著)|全国公益法人協会
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