香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
2006(平成18)年の会社法の施行と同時に有限会社の制度は廃止され、有限会社は設立できなくなりました。
会社法施行時に存在していた有限会社は、法律上は、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下、「整備法」)の適用を受ける株式会社として整理され、特例有限会社と呼ばれます。
今回は、特例有限会社が株式会社へ移行する理由、移行手続き、有限会社の取締役の住所が移転していた場合、会社実印の改印と役員重任登記などについて取り上げます。
特例有限会社が株式会社へ移行する理由
2006(平成18)年の会社法の施行と同時に有限会社の制度は廃止され、有限会社は設立できなくなりました。
会社法施行時に存在していた有限会社は、法律上は整備法の適用を受ける株式会社として整理され、特例有限会社と呼ばれます。
特例有限会社の特徴としては、取締役や監査役の任期がない、計算書類の公告義務がないなどがあげられます。
合同会社とも異なるもので、よくよく考えてみると、中小企業にとっては、理想的な会社形態のような気もします。
ところが、特例有限会社は、合併や会社分割などの組織再編の当事者になることができないため、その前提として株式会社へ移行するという例が多いように見受けられます。
特例有限会社から株式会社へ移行する手続き
効力発生日
特例有限会社の通常の株式会社への移行は、商号中に株式会社という文字を用いる定款の変更にかかる株主総会の特別決議を行い、本店所在地において移行の登記をすることにより、効力が生じます(整備法第45条)。
商号
変更後の商号は、有限会社のときと同じものでなくてもかまいません。
たとえば、「有限会社高松商事」→「香川商事株式会社」でもいいということです。
事業の目的、発行可能株式総数、監査役設置会社である旨などその他の事項
株式会社への移行と同時に変更することができます。
別途登録免許税はかかりません。
本店移転
株式会社への移行の登記は、①株式会社の設立の登記と②特例有限会社の解散の登記を申請することになります。
株式会社の登記記録に移転後の本店が直接記録されると、当該登記記録から商号変更前の特例有限会社の登記記録を探すことができなくなるためです。
なお、本店を移転する定款変更の効力自体を否定するものではないため、連件(1/4:設立の登記、2/4:解散の登記、3/4:本店移転の登記(旧本店所在地)、4/4:本店移転の登記(新本店所在地))で申請することができます。
役員
有限会社に役員の任期という概念はありませんでしたが、株式会社に移行すると任期を定めなければなりません。
このような場合は、移行を決議する株主総会において、移行後の取締役または監査役を予選することになります。
会社法人等番号
特例有限会社と同一の番号が株式会社に引き継がれることになります(商業登記規則第1条の2第2項)。
特例有限会社の取締役が住所移転していたときの取扱いはどうなる?
特例有限会社は株式会社と異なり取締役の「住所」・氏名が登記事項です。
代表取締役は氏名のみ登記事項です。
たとえば、
(住所)東京都A区B町~ 取締役A |
(住所)東京都C区D町~ 取締役B |
代表取締役A |
と、登記されていたところ、株式会社への移行前に取締役Bの住所が登記簿上の住所から移転していたとします。
株式会社移行後もA・Bが取締役、Aが代表取締役として再任される場合、どういう手続きになるでしょうか。
原則としては、株式会社への移行の登記前にBの住所移転登記をすべきでしょう。
ところが、ここで思い出されるのは、重任登記と同時にする住所の変更の取扱いについてです。
代表取締役が重任する場合には、その住所が登記簿の記載と相違していても、変更を証する書面の添付なくして、重任の登記申請を受理して差し支えないというものです(登記研究329号67ページ、375号82ページ)。
この緩いルールが、株式会社への移行でも適用されるでしょうか。
特例有限会社の登記簿は解散により閉鎖になりますし、株式会社設立の申請書には役員の就任日は記載せず、登記簿上には登記官の職権で取締役、代表取締役及び監査役の就任年月日を記録することになります(平18・3・31民商782号通達)。
正直、株式会社への移行時も緩いルールが適用されるかどうかわかりません。
取締役Bの住所移転登記をしないのであれば、再任であってもBの本人確認証明書を添付するというのが無難なような気がします。
会社実印の改印と役員重任登記
特例有限会社から通常の株式会社へ移行する際には、法務局届出印(会社実印)を改印するケースが多いと思います。
移行と同時に役員の任期が満了し、代表取締役が再任する場合についてですが、代表取締役選定にかかる書面に従前の代表取締役が届出印を押印した場合には、印鑑証明書の添付を要しないという規定があります。
おなじみ商業登記規則第61条第6項ただし書です。
されていますが、登記官によっては、独特の反応を示されることがあるようです。
ときには、新保さゆり先生のこちらのブログのように長期戦にもなりかねません。https://blog.goo.ne.jp/chararineko/e/f0902b80b56e2b4992f9868186c17d2e
株式会社への移行の場合、その後に組織再編のスケジュールが組まれていることも多く、時間をかけていられません。
参考書籍
『商業登記ハンドブック〔第4版〕』松井 信憲(著)|商事法務
『論点解説 商業登記法コンメンタール』神﨑満治郎・金子登志雄・鈴木龍介(著・編集)|きんざい
『会社法務書式集【第2版】』神﨑満治郎・金子登志雄・鈴木龍介・株式会社リーガル(著)|中央経済社