香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
特定目的会社(TMK)の設立手続きは株式会社の設立手続きと近いものがあります。
ただし、特定目的会社は特定の資産を保有するためのビークル(器)に過ぎないため、設立しただけでは、まだ何の役にも立ちません。
財務局への業務開始の届出をしたうえで、TMKに資金を入れて、特定資産を取得したところから本格稼働することになります。
今回は、特定目的会社の設立から業務開始届出、優先出資の発行による登記などを取り上げます。
特定目的会社(TMK)の設立
この記事は、特定目的会社の基本的な知識、専門用語がわかっているという前提で書かれてあります。
先に特定目的会社の基本的なことなどを知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。
特定目的会社の社員総会、取締役などの機関について知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。
特定目的会社の設立手続きの流れ
資産流動化法上の設立の手続きは次のような流れになります。
金銭出資という前提です(資産流動化法にも現物出資等いわゆる変態設立事項の規定はありますが、実務でみたことはないです)。
定款は発起人が作成し、その全員がこれに署名し、または記名押印しなければなりません(資産流動化法第16条第1項)。
発起人は会社成立後、特定社員になります(資産流動化法第25条第1項で準用する会社法第50条)。
株式会社と同様、設立する会社の特定資本金の額によって認証手数料が変わります(公証人手数料令第35条)(下に掲げる表のとおり)。
なお、書面による定款であっても印紙税の課税の対象にはなりません。
発起人全員の同意により次のことを定めます。
なお、株式会社同様、定款に定めてあれば省略することができます。
- 発起人が割当てを受ける設立時発行特定出資の口数
- ①の設立時発行特定出資と引換えに払い込む金銭の額
各発起人は、特定目的会社の設立に際し、設立時発行特定出資を一口以上引き受けなければなりません。
後述のとおり払込金保管証明書が設立登記の添付書面になるため注意が必要です。
設立時役員の選任は、発起人が出資の履行が完了した後、発起人の議決権の過半数をもって決定しますが、定款に定めてあれば省略することができます。
設立の登記は、その本店の所在地において、①設立時取締役の調査が終了した日②発起人が定めた日のいずれか遅い日から2週間以内にしなければなりません(資産流動化法第22条第1項)。
設立の登記を申請することにより、会社が成立します(同法第23条)。
定款認証手数料
成立後の特定目的会社の特定資本金の額 | 手数料 |
---|---|
100万円未満 | 3万円 |
100万円以上300万円未満 | 4万円 |
300万円以上 | 5万円 |
定款の記載事項
絶対的記載事項は次のとおりです(資産流動化法第16条第2項)。
- 目的
- 商号
- 本店の所在地
- 特定資本金の額
- 発起人の氏名又は名称及び住所
- 存続期間又は解散の事由
特定資本金の額とは、特定出資の発行に際して特定社員となる者が特定目的会社に対して払込みをした財産の額のことです。
存続期間又は解散の事由を記載しないといけないところが、株式会社とは異なる点です。
会社設立時の登記事項
「会社設立時の」登記事項は次のとおりです(資産流動化法第22条第2項)。
(優先出資に関する登記事項は後述。)
- 目的
- 商号
- 本店及び支店の所在場所
- 特定目的会社の存続期間又は解散の事由
- 特定資本金の額
- 発行した特定出資の総口数
- 特定社員名簿管理人を置いたときは、その氏名又は名称及び住所並びに営業所
- 取締役及び監査役の氏名及び住所
- 取締役のうち特定目的会社を代表しない者があるときは、代表取締役の氏名
- 特定目的会社が会計参与設置会社であるときは、その旨並びに会計参与の氏名又は名称及び計算書類等の備置き場所
- 特定目的会社が会計監査人設置会社であるときは、その旨及び会計監査人の氏名又は名称
- 第76条第4項の規定により選任された一時会計監査人の職務を行うべき者を置いたときは、その氏名又は名称
- 貸借対照表等の電磁的方法による開示の措置をとることとするときには、当該措置のためのためのウェブサイトURL
- 公告方法
- ⑭の定款の定めが電子公告を公告方法とする旨のものであるときは、次に掲げる事項
イ 電子公告により公告すべき内容を掲載するウェブサイトURL
ロ 事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合の公告方法の定めがあるときは、その定め
役員の登記について
株式会社とも特例有限会社とも異なるため注意が必要です。
取締役の登記について、代表権のない取締役がいない場合の比較
株式会社(指名委員会等設置会社除く) | 特定目的会社 | 特例有限会社 | |
---|---|---|---|
取締役が1名の場合の当該取締役の登記 | 代表取締役 | 取締役 | 取締役 |
清算人が1名の場合の当該清算人の登記 | 代表清算人 | 代表清算人 | 清算人 |
また、監査役の住所も登記事項です。
設立登記の添付書面
設立登記の主な添付書面は次のとおりです(資産流動化法第184条、特定目的会社登記規則第3条で準用する商業登記規則第64条)。
払込取扱機関の払込金保管証明書は必須となること以外は、株式会社の発起設立とほぼ同様の手続きです。
- 定款
- 払込取扱機関の払込金保管証明書
- 設立時取締役などの就任承諾書
- 設立時会計監査人を選任したときは、その就任承諾書や資格を証する書面など
- 設立時取締役の印鑑証明書
- 本人確認証明書
- 登記すべき事項につき発起人全員の同意又はある発起人の一致を要するときは、発起人同意書
設立の登録免許税
3万円です(登録免許税法別表第1、25(1)イ)。
業務開始届出と資産流動化計画
こちらの記事にも書きましたが、特定目的会社は、資産の流動化に係る業務を行うときは、あらかじめ内閣総理大臣に届け出なければなりません(資産流動化法第4条第1項)。
条文上は内閣総理大臣に届け出ることになっていますが、実務上は、財務局に届出をします。
ここで重要なのは、届出のときに、「資産流動化計画」を添付するということです。
(なお、業界の人は資産流動化計画のことをALP(Asset Liquidation Planの略)と呼ぶことが一般的です。)
この資産流動化計画に特定目的会社が発行する優先出資や特定社債について内容を定めておく必要があります。
業務を開始したら、もちろんその計画に従って会社を運営していかなければなりません。
このあたりの手続きは弁護士事務所が担当することになると思いますが、この後の優先出資の発行の手続きで、資産流動化計画は登記の添付書面になりますので、資産流動化計画がどういうものが知っておく必要はあります。
優先出資に限っていうと、資産流動化計画に記載する事項は、およそ次のとおりです(資産流動化法第5条第1項第2号イ、資産の流動化に関する法律施行規則第13条)。
- 優先出資の発行を予定する場合は、その旨
- 総口数の最高限度
- 優先出資の内容
- 種類ごとの総口数の最高限度
- 各発行ごとの発行時期
- 各発行ごとの種類別の発行口数、払込金額又はその算定方法及び募集等の方法
- 各発行により調達される資金の使途
- 募集優先出資を引き受ける者に対する特に有利な発行に関する事項その他の各発行ごとの発行条件に関する事項
- 優先出資の消却又は併合に関する事項(利益消却・簡易減資消却・仮清算消却・併合)
- 優先資本金の額の減少に関する事項
- ⑤から⑧までに掲げる事項の内容が確定していない場合又はその改定があり得る場合は、その内容を確定し、又は改定するための要件及び手続
- ①から④まで及び⑨に掲げる事項について変更があり得る場合は、その旨及び変更を行うための条件
- ①から⑫に掲げる事項の変更を禁止する場合は、その旨
また、資産流動化法第206条、資産の流動化に関する法律施行規則第92条第1号により次の事項を定めます。
- 種類等を異にする優先出資を発行する場合は、発行時期、利益の配当、消却、残余財産分配その他の事由について種類の異なる優先出資を発行する旨
優先出資のおいては、現物出資や払込期日に関する制度は存在しません。
優先出資の発行の手続き
財務局に業務開始の届出の次は、特定資産を取得するための原資を会社に入れる必要があります。
資産流動化計画に従い、特定社債や優先出資を発行したり、特定借入れをしたりすることになりますが、ここでは、登記がかかわる優先出資のみ取り上げます。
優先出資の発行の手続きの流れ
募集優先出資の発行の大まかな手続きは次のとおりです。
株式会社とは異なり、優先出資が社員総会決議などにより発行されるということはありません。
前段の資産流動化計画の優先出資に関する記載事項をみていただければわかるとおり、すでに優先出資の内容は決められています。
総数引受契約の場合は適用されません(同法第41条第2項)
総数引受契約の場合は適用されません(同法第41条第2項)
総数引受契約の場合は適用されません(同法第41条第2項)
後述のとおり払込金保管証明書が優先出資の発行の登記の添付書面になります。
※※当該登記が優先出資の発行の効力要件となります(同法第42条第2項)。
優先出資の登記事項
優先出資の全額の払込みが完了した日から2週間以内に次に掲げる事項を登記しなければなりません(資産流動化法第42条第1項)。
(※前述のとおり、払込期日に関する制度は存在しません。払込金額の全額を優先資本金の額とします。)
- 優先資本金の額
- 内容の異なる2以上の種類の優先出資を発行するときは、優先出資の総口数並びに当該優先出資の種類ごとの口数並びに利益の配当又は残余財産の分配についての優先的内容及び消却に関する規定
- 優先出資社員名簿管理人を置いたときは、その氏名又は名称及び住所並びに営業所
②は株式会社でいうところの種類株式にあたるものです。
優先出資の発行の登記の添付書面
優先出資の発行の登記の添付書面は次のとおりです(平18.4.28民商1140号通達)。
- 資産流動化計画書
- 取締役の過半数の一致があったことを証する書面
- 募集優先出資の引受けの申込みまたは総口数の引受けを行う契約書を証する書面
- 優先出資社員名簿管理人を置いたときには、定款およびその者との契約書
- 金融機関が発行する払込金保管証明書
特定資産の取得(現物不動産取得の場合)
TMKが現物不動産を取得する場合には、不動産流通税(登録免許税・不動産取得税)の軽減措置が認められています(令和5年8月現在、令和7年3月31日までの期限)(租税特別措置法第83条の2の3第1項)。
租税特別措置法第83条の2の3第1項の要件を満たせば、所有権移転登記の登録免許税が1000分の13となります(本則は1000分の20)。
ご参考までに租税特別措置法の条文をあげておきます。
租税特別措置法
(特定目的会社が資産流動化計画に基づき特定不動産を取得した場合等の所有権の移転登記の税率の軽減)
第83条の2の3 特定目的会社(資産の流動化に関する法律第二条第三項に規定する特定目的会社をいう。以下この項において同じ。)で第1号に掲げる要件を満たすものが、特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律等の一部を改正する法律(平成12年法律第97号)の施行の日から令和7年3月31日までの間に、同条第4項に規定する資産流動化計画(以下この項において「資産流動化計画」という。)に基づき特定資産(同条第1項に規定する特定資産をいう。以下この項において同じ。)のうち不動産(宅地建物取引業法の宅地又は建物をいう。以下この条において同じ。)の所有権の取得をした場合(当該特定目的会社において運用されている特定資産が第2号に掲げる要件を満たす場合に限る。)には、当該不動産の所有権の移転の登記に係る登録免許税の税率は、財務省令で定めるところにより当該取得後一年以内に登記を受けるものに限り、登録免許税法第九条の規定にかかわらず、1,000分の13とする。
一 次に掲げる全ての要件を満たすものであること。
イ 資産の流動化に関する法律第四条第一項の規定による届出を行つていること。
ロ 資産流動化計画に資産の流動化に関する法律第2条第11項に規定する資産対応証券を発行する旨の定めがあること。
ハ 資産流動化計画に特定不動産(特定目的会社が取得する特定資産のうち不動産、不動産の賃借権若しくは地上権又は不動産の所有権、土地の賃借権若しくは地上権を信託する信託の受益権をいう。)の価額(資産の流動化に関する法律第4条第3項第3号に規定する契約書に記載されている価額をいう。以下この号において同じ。)の合計額の当該特定目的会社が有する特定資産の価額の合計額に占める割合(次号において「特定不動産の割合」という。)を100分の75以上とする旨の定めがあること。
ニ 資産流動化計画に資産の流動化に関する法律第2条第12項に規定する特定借入れについての定めがあるときは、特定借入れが当該特定目的会社に対して同条第6項に規定する特定出資をした者からのものでないこと。
二 次に掲げる要件のいずれかを満たすものであること。
イ 特定不動産の割合が100分の75以上であること。
ロ 特定目的会社がこの項の規定の適用を受けようとする不動産を取得することにより、特定不動産の割合が100分の75以上となること。
資産の運用開始から解散清算まで(おまけ)
特定目的会社に資金を投入して資産を取得してから本格的な業務の開始ということになります。
取締役と監査役に任期という概念はないため登記は発生しませんが、会計監査人の任期は1年のため、毎年登記は発生するはずです。
また、ビークル(器)である特定目的会社は、法令を守らないという選択肢はないため、厳格に決算公告を行います。
解散清算も法令の規定に従って進められます。
こちらの記事がご参考になると思います。
債務弁済許可申立てなどすることになろうかと思います。
参考書籍
『TMKの理論と実務【改訂版】―特定目的会社による資産の流動化』高木秀文・木村勇人 (著、編集)、渥美博夫・衞本豊樹(監修)|きんざい
『不動産ファイナンスの法務と契約実務』植松貴史(著)|中央経済社
『商業・法人登記360問』神﨑満治郎・金子登志雄・鈴木龍介(著)|テイハン
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