香川県高松市の司法書士 川井事務所です。

特定目的会社(TMK)に置かれる機関は社員総会、取締役、監査役、会計監査人及び会計参与です。

このうち会計参与は実務上見たことがないため、取り上げません。

今回は特定目的会社(TMK)の機関について株式会社と比較しながらまとめてみたいと思います。

目次

特定目的会社(TMK)の機関

特定目的会社に置かれる機関は次のとおりです。

  • 社員総会
  • 取締役
  • 監査役
  • 会計監査人

原則として置かなければならないのが上の4つです。

定款の定めによって、会計参与を置くことができますが、今回は取り上げません。

以下、特定社債や特定目的借入れという用語が出てきますが、ご存じない方は、まずはこちらの記事をご参照ください。

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上に掲げた4つの機関のうち、会計監査人については、次の要件を満たす特定目的会社は、例外的に置かないことも認められます。

  • 資産対応証券として特定社債のみを発行する特定目的会社
  • 資産流動化計画に定められた特定社債の発行総額と特定目的借入れの総額との合計額が200億円に満たない特定目的会社

会社法と似ているようで、建付けが異なりますので注意が必要です。

株式会社の場合、大会社(資本金5億円以上、貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上)あるいは委員会設置会社であれば、会計監査人を置きなさいという規定になっています。

それに対して、特定目的会社の場合、原則として会計監査人を置かなければならないが、一定の要件を満たすものであれば、置かなくてもいいという規定になっています。

以下条文を掲げておきます。

資産流動化法
第2款 社員総会以外の機関の設置
第67条 特定目的会社には、次に掲げる機関を置かなければならない。ただし、第三号に掲げる機関については、資産対応証券として特定社債のみを発行する特定目的会社であって、資産流動化計画に定められた特定社債の発行総額と特定借入れの総額との合計額が政令で定める額に満たないものにあっては、この限りでない。
一 1人又は2人以上の取締役
二 1人又は2人以上の監査役
三 会計監査人
2 特定目的会社は、定款の定めによって、会計参与を置くことができる。
3 第1項ただし書の規定は、定款をもって、同項ただし書に規定する特定目的会社が会計監査人を置くことを妨げるものと解してはならない。

資産の流動化に関する法律施行令
(会計監査人を置くことを要しない特定社債の発行総額と特定借入れの総額との合計額)
第24条 法第67条第1項に規定する政令で定める額は、200億円とする。

会社法
(取締役会等の設置義務等)
第327条
1~4(省略)
5 監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は、会計監査人を置かなければならない。
6(省略)

会社法
(大会社における監査役会等の設置義務)
第328条 大会社(公開会社でないもの、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役会及び会計監査人を置かなければならない。
2 公開会社でない大会社は、会計監査人を置かなければならない。

会社法
(定義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一~五(省略)
六 大会社 次に掲げる要件のいずれかに該当する株式会社をいう。
イ 最終事業年度に係る貸借対照表(第439条前段に規定する場合にあっては、同条の規定により定時株主総会に報告された貸借対照表をいい、株式会社の成立後最初の定時株主総会までの間においては、第435条第1項の貸借対照表をいう。ロにおいて同じ。)に資本金として計上した額が5億円以上であること。
ロ 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上であること。
七以下(省略)

社員総会

社員総会は、資産流動化法に規定する事項及び特定目的会社の組織、運営、管理その他特定目的会社に関する一切の事項について決議をすることができます(資産流動化法第51条第2項)。

無議決権事項と有議決権事項

無議決権事項とは、次の事項のことをいいます(同法第51条第1項第3号)。

  • 第一種特定目的会社(優先出資社員が存在しない特定目的会社)の社員総会が会議の目的とすべき事項
  • 第二種特定目的会社(優先出資社員が存在する特定目的会社)の社員総会が会議の目的とすべき事項のうち、優先出資社員が資産流動化法または定款の定めにより議決権を有する事項「以外」の事項

有議決権事項とは、第二種特定目的会社の社員総会が会議の目的とすべき事項のうち、優先出資社員が資産流動化法または定款の定めにより議決権を有する事項のことです(同法同条同項第4号)。

優先出資社員は基本的に議決権が制限されている話はこちらの記事に書きました。

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有議決権事項は、募集優先出資を引き受ける者に対して有利発行する場合、優先資本金の額の減少、資産流動化計画の変更決議、解散決議など、優先出資社員に重要な利害をおよぼすおそれがあるものが対象になっています。

社員総会の招集

社員総会には、定時社員総会と臨時社員総会があります。

社員総会は基本的に取締役が招集することになります。

(社員総会の招集)
第52条 定時社員総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。
2 社員総会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができる。
3 社員総会は、次条第5項において準用する会社法第297条第4項の規定により招集する場合を除き、取締役が招集する。

社員総会の議決権の数

社員総会において、会議の目的である事項のうち無議決権事項については、定款で別段の定めをした場合を除き、特定社員はその有する特定出資1口につき1個の議決権を有することになります(資産流動化法第59条第1項)。

ここでいう「特定社員」とは、特定社員のうち、特定目的会社がその総株主の議決権の4分の1以上を有することその他の事由を通じて特定目的会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして特定目的会社の社員総会に関する規則第6条第1項で定める特定社員は除かれます(同法同条同項)。

有議決権事項については、社員(特定社員+優先出資社員)はその有する特定出資または優先出資1口につき1個の議決権を有することになります(同法同条同項)。

ここでいう「社員」とは、社員のうち、特定目的会社がその総株主の議決権の4分の1以上を有することその他の事由を通じて特定目的会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして特定目的会社の社員総会に関する規則第6条第5項で定める社員は除かれます(同法同条同項)。

社員総会の決議(定足数や必要な議決権)

まず株式会社でいう、いわゆる普通決議に近いものが2つあります。

社員総会の決議のうち、無議決権事項にかかるものは、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる特定社員の議決権の過半数を有する特定社員が出席し、出席した当該特定社員の議決権の過半数をもって行います(資産流動化法第60条第1項)。

社員総会の決議のうち、有議決権事項にかかるものは、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる社員(特定社員+優先出資社員)の議決権の過半数を有する社員が出席し、出席した当該社員の議決権の過半数をもって行います(同法同条第2項)。

続いて、特別決議です。

一定の社員総会の決議(以下「3項特別決議」といいます)は、当該社員総会において議決権を行使することができる社員の議決権の過半数を有する社員が出席し、出席した当該社員の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行います(同法同条第3項)。

3項特別決議の対象

  • 特定出資の指定買取人の指定
  • 募集優先出資を引き受ける者に対する特に有利な優先出資の発行(法定有議決権事項)
  • 監査役または累積投票により選任された取締役の解任
  • 優先資本金の額の減少(定時社員総会で決議+欠損填補の場合除く)(法定有議決権事項)
  • 優先出資社員以外の者に対する転換特定社債の有利な発行(法定有議決権事項)
  • 優先出資社員以外の者に対する新優先出資引受権付特定社債の有利な発行(法定有議決権事項)
  • 資産流動化計画の変更(法定有議決権事項)
  • 第二種特定目的会社における解散決議(法定有議決権事項)

一定の社員総会の決議(以下「4項特別決議」といいます)は、総特定社員の半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上であって、総特定社員の議決権の4分の3(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行います(同法同条第4項)。

4項特別決議の対象

  • 自己特定出資の買受け
  • 募集特定出資の募集事項及び割当て
  • 特定出資・優先出資の併合
  • 定款の変更
  • 第一種特定目的会社における解散決議

会計監査人

資格と任期

会計監査人の資格や任期は、株式会社とほぼ同じと思ってもらっていいと思います。

会計監査人は、公認会計士または監査法人でなければなりません(同法第73条第1項)。

任期は、「選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時まで」で、自動再任の規定も株式会社と同じです(同法同条第4項、会社法第338条)。

特定目的会社は、単なる器に過ぎず、取締役や監査役は置かなければならないとされているものの飾りのような存在です。

法人としての意思決定は、事実上、アセットマネージャーがしています。

法人の機関としては、会計監査人だけが自らの意思をもった機関といっていいかもしれません。

そういう理由からなのか、特定目的会社の取締役と監査役には任期という考え方がありません。

定款に会計監査人を設置する旨の定めは必要か

上でも書きましたが、特定目的会社では、会計監査人は原則として設置が必要という建付けになっています。

では、定款に会計監査人を設置する旨の定めがなくてもよいかというとそうではなく、定款に定めておくほうが無難です。

法務局によっては、会計監査人設置の登記の際に、定款に定めがないと受理されない場合があるようです。

取締役と監査役

上でも書いたように、取締役と監査役には任期の規定がありません。

株式会社よりも欠格事由が多いので、そこは気をつけたほうがいいかもしれません(資産流動化法第70条、第72条)。

参考書籍

『TMKの理論と実務【改訂版】―特定目的会社による資産の流動化』高木秀文・木村勇人 (著, 編集)、渥美博夫・衞本豊樹 (監修)|きんざい

『特定目的会社の実務ハンドブック(第2版)』杉本茂(監修)、さくら綜合事務所(編集)|中央経済社

『商業・法人登記360問』神﨑満治郎・金子登志雄・鈴木龍介(著)|テイハン

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この記事を書いた人

愛媛県四国中央市出身
早稲田大学政治経済学部卒業

平成28年司法書士試験合格
平成29年から約3年間、東京都内司法書士法人に勤務
不動産登記や会社・法人登記の分野で幅広く実務経験を積む

令和2年から香川県高松市にて開業
地元四国で超高齢社会の到来による社会的課題への取組みや地方経済の発展のために尽力している

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