商業登記ハンドブック(第5版)を読む風景(2-3②編)

香川県高松市の司法書士 川井事務所です。

第2章株式会社の変更の登記の各論、株式に関する登記の続きです。

これは商業登記ハンドブック第5版を読みながら自分なり思ったこと、疑問点、恐れながら補足などを自分用にメモしたものでありながら公開してみるという試みです。

なので、繰り返し読むたびに加筆修正されていくかもしれません。

今回は「2-3②編」です。

目次

2-3株式に関する登記

引き続き商業登記ハンドブック(以下「ハンドブック」)を丁寧に読んでいく。

第2章株式会社の変更の登記の各論、株式に関する登記の種類株式まで終わり、募集株式の発行まできた。

P.265 募集株式の発行(1)株主に株式の割当てを受ける権利を与えてする募集株式の発行(いわゆる株主割当て)

今のところいわゆる株主割当てで募集株式の発行の手続きをやったことがない。

既存株主による増資の場合でも、株主に株式の割当てを受ける権利を与えなければ、第三者割当てとなる。

ただ、定款に募集事項等の決定機関を取締役会の決議(取締役の過半数の一致)としておくことが重要となることがあるかもしれない。

P.265 (a)(ⅱ)募集株式の払込金額又はその算定方法

募集株式の払込金額とは、募集株式1株と引換えに払い込む金銭又は給付する金銭以外の財産の額をいう(会社法第199条第1項第2号)。

議事録にも「1株につき●円」という書き方をしていると思う。

P.265 (a)(ⅳ)払込(給付)期日又は払込(給付)期間

払込期日と払込期間のどちらを選ぶかについては、以下の記事に詳しく書いたのでご参照ください。

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上記記事にも触れたが、エンジェル税制の適用を受けたい場合は、払込期日とするのが無難ではないかと考えられる。

P.279 (2)株主割当て以外の募集株式の発行(いわゆる第三者割当て)

株主割当ては持分比率に応じて平等に扱うものであるため、1株当たりの払込金額はいくらでもよく、有利発行という問題も発生しない。

それに対して、株主割当て以外では、払込金額をいくらにするかということが問題となり得る。

具体的にいうと税務上問題ないかなど、払込金額を税理士に確認する必要がある。

P.280(a)募集事項

株式上場時に新株を発行する場合は、ブックビルディング方式で価格を決定する。

詳細については、以下リンクの記事に書いたのでご参照ください。

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P.283(ⅴ)株式の申込み

申込みをしようとする者に対する通知

株式会社は、第199条(募集事項の決定)第1項の募集に応じて募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない(会社法第203条第1項)。

  1. 株式会社の商号
  2. 募集事項
  3. 金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所
  4. 前3号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項

上記④の法務省令とは、会社法施行規則第41条のことで、本条に掲げられている事項は通常は定款に記載されているものであるため、定款を添付すればよいと考えられる。

申込みをしようとする者について

ハンドブック記載のとおり「従業員持株会のような民法上の組合がこの申込みをして株式の割当てを受けることも、可能である」し、投資事業有限責任組合(LPS)が申込みをすることも可能である。

そして株主名簿には組合名を書くことができる。

しかし不動産登記では法人格のない組合は組合名で登記ができず、「組合員」名義で登記しなければならない。

P.291(b)添付書面(ⅲ)募集株式の引受けの申込み又は総数引受契約を証する書面(商登56条1号)

平14・8・28民商2037号通知の新株予約権の登記の添付書面についての先例が、募集株式の引受けの申込みを証する書面についても、同様に解することができるとされている(ハンドブックP274)。

すなわち、発行会社の代表者が作成した新株予約権の申込み又は引受けがあったことを証する書面に、新株予約権申込証又は新株予約権付与契約書のひな形及び申込者又は付与対象者の一覧表を合綴したものは、「新株予約権の申込みを証する書面に該当する」というものである(以下「代表者証明方式」という)。

この先例は申込みを証する書面だけに適用されるもので総数引受契約の場合には利用できないものとされてきた。

しかし、令4・3・28民商122号通知により、総数引受契約でも同様の取扱いが認められることになった。

これも平成14年通知と同様に新株予約権に関する通知だが、上記のハンドブックP274の記載のとおり募集株式の総数引受契約についても同様に解することができるものと考えられる。

ところが、今年(令和8年)、この代表者証明方式(総数引受契約)で申請したところ、ある地方の法務局から「令4・3・28民商122号通知が新株予約権についてのものだということは承知しているが、募集株式の発行でも適用される根拠を教えてほしい」という連絡を受けた。

それまで、当然に募集株式の発行でも総数引受契約の代表者証明方式で申請したことが何度もあり、何の問題もなく登記が完了してきたので、その法務局からの連絡に驚いた。

たしかに通知を一見すると新株予約権のことにしか触れていないため、募集株式の発行にも適用される根拠とは?と問われると、新鮮な驚きがある。

これについては、本先例を解説した登記研究895のP123に以下の記述がある。

(2)登記官による審査
登記官は、(1)の書面の記載(※代表者証明方式の書面のこと)と申請書及び募集事項の決定(会社法第199条等)に係る株主総会の議事録等の添付書面の記載とでその内容に齟齬がないことを確認するとともに、(1)の書面に記載された契約書の枚数により複数の契約書で構成された総数引受契約が締結されていることを確認することとなると考えられる。

以上のとおり会社法第199条とは募集株式の発行等の募集事項の決定について定めた条文であり、本先例が募集株式の発行にも及ぶものと解してよいと思われる。

ところで本先例の趣旨としては、複数の総数引受契約を添付するのが(審査するのも?)大変だろうから簡便な方法でもよいということなのだろうと考えられるが、個人的には、総数引受契約書1通でも、それが紙の書面で契約が締結されていたり、登記で利用することができない電子署名で署名されている場合には、代表者証明方式で作成して、代表者に登記で利用可能な電子署名をしてもらうということをしている。

もちろん、もとの契約が締結されたことを確認した上でのことである。

これにより完全オンライン申請が可能となる。

P.294(1)取得請求権付株式の取得と引換えにする株式の発行

取得請求権付株式の定めの設定のときにも書いたとおり、スタートアップが資金調達する際に利用される優先株式の内容として取得請求権付株式が設定されることが多い。

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株式市場で流通する株式は通常は普通株式であるため、スタートアップが発行する優先株式は株式上場前に普通株式に転換しておく必要がある。

もっとも、株式上場前は、転換請求権よりも下記で述べる取得条項による強制転換により普通株式に転換されることが通常である。

P.296(2)取得条項付株式の取得と引換えにする株式の発行

取得請求権のところで書いたように、株式上場前に優先株式を普通株式に転換しておく必要があるため、この条項を設定する。

また、スタートアップではないが、譲渡制限株式を他人に譲渡したとき、もしくは会社に対して譲渡承認請求したときは、会社が株式を取得するという内容の取得条項付株式の発行の依頼を受けたことがある。

P.306 9株式の併合

いわゆるキャッシュアウトの手段として、全部取得条項付種類株式の取得や株式の併合が利用されることがある。

上場廃止のときなどは株式併合が利用されているようである。

非公開会社だと親族間で株式を保有していることも多いことから、少数株主排除の手段として株式の併合を利用するのは、禍根を残す可能性が高く、実務上なかなかお目にかかることはない。

note株式会社が株式上場前に株式の併合を行ったことは、けっこう驚きがあって記憶に新しいような気もしていたが、あれはもう2022年の出来事。

それなりに時間が経っていた。

P.309 10株式の分割

定款で分割に係る基準日を定めることにより、通常の株式分割で必要となる2週間の公告期間をなくし、1日で株式の分割を行うことについて、いわゆるアムスク株主総会決議取消請求事件以降、保守的な人は1日で株式分割を行う方法を避けていたかもしれない。

しかし、本事件の裁判例の趣旨は上場会社では妥当と考えられるものの、非公開会社では必ずしも当てはまらないのではという見解も出てきている。

個人的には、非公開会社であれば、定款で分割に係る基準日を定めることで、1日で株式の分割手続をしてもかまわないだろうと考えている。

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参考書籍

『商業登記ハンドブック〔第5版〕』松井信憲(著)|商事法務

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この記事を書いた人

愛媛県四国中央市出身
早稲田大学政治経済学部卒業

平成28年司法書士試験合格
平成29年から約3年間、東京都内司法書士法人に勤務
不動産登記や会社・法人登記の分野で幅広く実務経験を積む

令和2年から香川県高松市にて開業
地元四国で超高齢社会の到来による社会的課題への取組みや地方経済の発展のために尽力している

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