香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
会社を設立するときには、当然、商号(会社名)を決める必要があります。
商号は基本的に自由に決めてよいのですが、いくつかの制限やおすすめしないものがあります。
今回は、商号を決めるときの注意点について、商標・ドメイン名・サービス名などとの関係をふまえて取り上げます。
商号(会社名)とは
商号とは会社や個人事業主が営業活動を行う際に使用する名称のことをいいます。
会社とは、実体のないもの、人の脳内にしか存在しないものです。
もっといえば、会社という存在・概念というものが「ある」と信じている人どうしでなければ存在していないことになります。
つまり、けっこう曖昧な存在です。
国が管理する登記簿という帳簿に設立の登記をすれば、法律上は会社が誕生します。
ただし、それだけでは単なるペーパーカンパニーに過ぎません。
世間から会社として認められるためには、当然ですが実際の事業活動が必要ですし、世間から自分の会社が他の無数にある会社とは異なるものとして認識してもらうためにはブランディングが必要ということになります。
ブランディングを考えるうえで、商号が重要であることは間違いありません。
なんだか堅苦しいことを書きましたが、「ドコモ」「au」「ソフトバンク」という言葉を並べてみたら、どれも通信事業をやっているのは共通しているけど、なんとなくそれぞれのイメージとかロゴマークが頭に思い浮かぶよね、というような話です。
なお株式会社のルーツといわれるオランダ東インド会社にもロゴマークはありました。
話は逸れますが、司法書士川井事務所のロゴを作るときにデザイナーさんにはアデ●ダスのロゴを意識してほしいと伝えました。
川井の川→三本川→三本線→アデ●ダス?
まあこの話はどうでもいいですが。
商標とは
商号に似た言葉で「商標」というものがあります。
商標とは、事業者が、自社の取り扱う商品・サービスを他社のものと区別するために使用するネーミングやマーク(識別標識)のことをいいます。
商標法第2条によると、商標とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音などのことをいいます。
具体例をみるとわかりやすいと思うので、少し見ていきましょう。
会社名
- ファーストリテイリング(ユニクロ)
- 任天堂
- トヨタ自動車
商品名・サービス名
- LEXUS
- じゃがりこ
- 虫コナーズ
- ガスピタン
商品・サービスのロゴ
キャッチコピー
キャッチコピーも商標になり得ます。
上で書いたように、商標法第2条によると音も含まれますので、TVCMでおなじみのメロディーも登録されていたります。
- お、ねだん以上。ニトリ
- あなたと、コンビに、ファミリーマート
キャラクター
キャラクターも商標になり得るようです。
すしざんまいの社長が登録されているのがすごい。
商標登録の必要性
商標は、たとえば本を書いたときの著作権のように自然と発生するものではく、特許庁へ出願して登録する必要があります。
必ずしも商標登録しなくても事業を行うことはできますが、商標制度は先に登録した者勝ちとなっておりますので、他社に先に自社のサービス名などを登録されてしまうとかなり不利になるどころか、最悪廃業ということもあり得ます。
つまり商標出願のタイミングとしては、社名やサービス名が決まったらなるべく早く商標出願した方がよいということになります。
商標は、弁理士の専門分野となりますので、詳細は弁理士にお問い合わせください。
ドメインとは
ドメインとは「インターネット上の住所」のことです。
ウェブサイトのURLやメールアドレスとして使われます。
司法書士川井事務所のウェブサイトであれば
https://llliii.jp
この黄色下線部分がドメインです。
これは独自ドメインというものを自分で取得しています。
ドメイン名に会社名やサービス名を入れることで認知度や信頼感を高めることができます。
商号(会社名)を決めるときのルール
商号は基本的に自由に決めてよいのですが、いくつかの制限があります。
使用可能な文字・符号
商号の登記に使用することができるのは、日本文字は当然として、ローマ字その他の符号で法務大臣の指定するものを用いることができます。
ローマ字その他の符号としては、次のものが該当します。
- ローマ字(AからZまでの大文字及び小文字)ローマ字を用いて複数の単語を表記する場合に限り、当該単語の間を空白(スペース)によって区切ることができる
- アラビヤ数字(0123456789)
- 次の符号
「&」(アンパサンド)
「´」(アポストロフィー)
「,」(コンマ)
「‐」(ハイフン)
「.」(ピリオド)
「・」(中点)
上記の③の各符号は、字句(日本文字を含む)を区切る際の符号として使用する場合に限り使用することができ、会社の種類を表す部分を除いた商号の先頭または末尾に使用することができません。
ただし、ピリオドについては、省略を表すものとして商号の末尾にも使用することができます。
ローマ数字(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅴ・・・)は使用することができませんのでご注意ください。
なお、上記①で「ローマ字を用いて複数の単語を表記する場合に限り、当該単語の間を空白(スペース)によって区切ることができる」とありますが、では、たとえば「株式会社MC 2PAC」のように 「ローマ字と数字」あるいは「数字とローマ字」の間にスペースはどうなのか、というと不可のようです。
詳しくはこちらの記事をご参照ください。
『商業登記失敗事例~商号編~』話 盛太郎先生
https://note.com/moritaro_hanashi/n/n2fcd8fc69a79
以上のルールを踏まえて、商号の登記が認められる例と認められない例は、次のようになります。
認められる例
- アウトキャスト・Andre・3000株式会社
- 株式会社D.I.O.
- 東京Joseph Joestar株式会社
- 株式会社C&A
- 株式会社RUN-D.C.M
認められない例
- ´90s株式会社(商号の先頭に符号)
- 株式会社&ASKA(商号の先頭に符号)
- 株式会社・(符号が字句を区切るものではない)
- 株式会社KAWAI,.(コンマが字句を区切るものではない)
- 株式会社宇宙 日本 世田谷(日本文字の間にスペース)
そういえば、以前名刺交換した人の名刺に会社名が「株式会社●~●●」となっていたことがあり、「~」が使えるはずがないと思い、わざわざその会社の登記情報をとってみたら登記上の会社名は「株式会社●ー●●」となっていました。
登記情報の取得費用がもったいなかった。
それはともかく、ひらがなで表記した商号に長音記号「ー」は使用することができます。
会社の種類
会社は、株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社の種類に従い、それぞれその商号中に株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社という文字を用いなければなりません(会社法第6条第2項)。
当たり前じゃないか。
法令による名称使用制限
銀行業、保険業、信託業等の公益性の高い事業については、法令の規定により、当該事業を営む者は商号中に「銀行」「生命保険」「信託」等の文字を使用しなければなりません。
それ以外の者は、銀行等であると誤認されるおそれのある文字を使用してはならないことになっています。
「支店」「支社」「出張所」
会社本店の商号中に「支店」「支社」「出張所」という文字を使用して登記することはできません。
同一商号・同一本店の禁止
商号の登記は、その商号が他の会社の既に登記した商号と同一であり、かつ、その会社の本店の所在場所が当該他の会社の本店の所在場所と同一であるときは、することができません(商業登記法第27条)。
たとえば、株式会社A(本店:東京都千代田区A町一丁目2番3号)という会社が登記済だとすると、同じ社名・同じ本店所在地の会社を登記することはできないということです。
不正の目的による商号等の使用の禁止
何人も、不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない(会社法第8条第1項)とされています。
この規定に違反する名称又は商号の使用によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある会社は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができます(同条第2項)。
また、100万円以下の過料の制裁もあります(同法第978条第3号)。
たとえば、「パナソニック2」とか、まずそうな気がする。
「パナソニックシーズン2」「続・パナソニック」「帰ってきたパナソニック」「シン・パナソニック」たぶんどれもよくないと思う。
いいわけないじゃないか。
そんなことする人いるわけないと思うけど自分の想像を軽く超えてくるのが世の中だ。
ところで世の中の「シン・●●」というネーミング、別にいいけど、庵野秀明先生に何か言わなくていいのだろうか。
商号(会社名)を決めるときの注意点
さて、商号を決めるときは上記のルールを守っていれば、自由に決めていいものの、商標やサービス名・ドメインのことを考えて決めた方がよさそうです。
商標は問題ないか
商号は商標登録することができますが、あらかじめ商標検索をして、問題ないかどうか確認しておいた方がよいでしょう。
どなたでも検索することができます。
J-Plat Pat特許情報プラットフォーム
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/t0100
余談ですが、商標が有名だけど会社名がほとんど知られていないケースとして、「金鳥」があります。
蚊取り線香でおなじみ「金鳥」は商標で、商号は「大日本除虫菊株式会社」です。
大日本除虫菊株式会社って…。
商号とサービス名を一致させるかどうか
商号とサービス名は必ずしも一致していなくてよいと思いますが、サービス名が有名になって商号もそれに合わせるというパターンがけっこう多いようにみえます。
たとえば、フリマアプリでおなじみのメルカリは元々「株式会社コウゾウ」という社名でしたが、後に「株式会社メルカリ」に変更しました。
他に「株式会社スタートトゥデイ」→「株式会社ZOZO」などが例としてあげられます。
会社設立後に商号を変えるとなると銀行口座名義などを変更しなければならず、影響は大きいです。
しかし、逆に「Facebook→Meta」のように、設立当初に「商号=サービス名」だったが、事業を多角化するために商号を変えるというパターンもあります。
ドメインは取得できそうか
会社のウェブサイトを持つ予定であれば、ドメイン名もあらかじめ検索して、希望のものを取得できるかどうか確認しておいたほうがよいでしょう。
ドメイン名も商号やサービス名と一致している方が望ましいといえます。
Flickrという写真の共有ができるコミュニティサイトがありますが、もともと「flicker.com」というドメインが取得できなかったため「e」をはずして「Flickr」というサービス名になったそうです。
Flickrの運営会社はサービス名とは異なる社名だったので、社名に影響はなかったと考えられますが、これから会社を設立する人は同様のことがないように気をつけたほうがよいかもしれません。
参考書籍
『商業登記ハンドブック〔第4版〕』松井信憲(著)|商事法務
『会社法コンメンタール(1)』江頭憲治郎(編集)|商事法務
『スタートアップの法律相談 (第46巻)』山本飛翔・菅原稔・尾下大介(編集)青木孝頼・青野雅朗(著)|青林書院
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