香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
株式会社の代表取締役の住所は登記すべき事項のひとつです。
つまり、誰でも手数料さえ払えば、代表取締役の住所を知ることができます。
プライバシー・個人情報に厳しい昨今、そんなことがあっていいのかと思うかもしれませんが、それほど代表取締役の責任は重いといっていいのかもしれません。
今回は、株式会社の代表取締役の住所について、住所と方書、マンションなどの部屋番号についてどこまで省略して登記できるかについて取り上げます。
株式会社の代表取締役の住所
株式会社の代表取締役の住所は登記すべき事項のひとつです。
つまり、登記事項証明書として公にされ、手数料を支払えば誰でも閲覧することができます。
しかし、ここにはプライバシーの問題が潜んでいます。
代表取締役の住所は、その人の個人的な居住地を示すものであり、これが公開されることは、プライバシーの侵害につながる可能性があります。
では、なぜこのような情報が必要なのでしょうか?
これには次のような理由があります。
- 透明性の確保;法人の運営において透明性は非常に重要です。代表取締役の住所を登記することにより、会社の主要な責任者が一般に明らかにされ、その会社の信頼性や透明性が高まります。これは、投資家、取引先、消費者などのステークホルダーに対して、会社の運営が適切に行われていることを示す重要な情報となります。
- 法的責任の明確化:代表取締役は会社の法的な代表者であり、会社の行為に対して責任を負います。そのため、彼らの住所は法的な通知や連絡を送るための重要な情報となります。例えば、訴訟や法的な通知を会社に対して行う場合、代表取締役に直接連絡を取る必要があることが多いため、その住所が明確になっていることが重要です。
現に急に連絡が取れなくなり、行方がわからなくなる代表者がいたりします。
そんなときに代表取締役の住所を知ることができると追跡の手がかりになります。
また、過料決定書も代表者の住所宛に届きます。
住所と方書
住民基本台帳法上の住民の住所は、地方自治法第10条の住民としての住所と同一であり、各人の生活の本拠をいいます(住民基本台帳法第4条)。
具体的にいうと、たとえば、
M県S市杜王町一丁目1番1号
のように表示されます。
都道府県、郡、市、区及び町村の名称並びに市町村の町又は字の区域の名称のほか、住居表示に関する法律(昭和37年法律第119号)に基づく住居表示が実施された区域においては、街区符号及び住居番号を、その他の区域においては地番を記載することになります。
なお、街区符号とは上の具体例でいうと「1番」の部分、住居番号は上の具体例でいうと「1号」の部分をいいます。
方書(かたがき)とは、マンションやアパート、団地など集合住宅の建物名、居室番号などのことです。
方書がないとマンションなどの集合住宅の場合、同じ住所に複数の世帯が存在することになり、住所の表示だけでは郵便物が正確に届けられないなどの問題が生じます。
具体例でいうと、下線部分が方書です。
M県S市杜王町一丁目1番1号 スタンドマンション101号
この場合、登記するのは「M県S市杜王町一丁目1番1号」の部分であって、「スタンドマンション101号」の部分については登記してもしなくてもかまいません。
ところで、やっかいなのは自治体によっては次のように住所が記載されることがあります。
M県S市杜王町一丁目1番1-101号 スタンドマンション
この場合、1-101号までが住所、スタンドマンションが方書となります。
つまり住民票や印鑑証明書の住所の記載が「M県S市杜王町一丁目1番1-101号 スタンドマンション」だった場合、登記するのは、1-101号までは必須。
という認識だったのですが…
代表取締役の住所の登記はどこまで省略可能か?
すでに書いたように、代表取締役の住所は登記すべき事項ですが、プライバシーの問題が潜んでいます。
マンションの部屋番号は登記したくないという依頼者からのご要望というのはよく聞くところです。
しかし、「住所」が登記すべき事項なのだから、印鑑証明書の住所の記載が「M県S市杜王町一丁目1番1-101号 スタンドマンション」なのであれば、方書を除く「M県S市杜王町一丁目1番1-101号」と登記しなければならないように考えられます。
ところが、『商業・法人登記500問 』Q312をみると、必ずしもそうではないようです。
つまり印鑑証明書の住所の記載が「M県S市杜王町一丁目1番1-101号 スタンドマンション」であっても「M県S市杜王町一丁目1番1号」で登記できるということです。
おおまかな理由としては、代表取締役就任登記の際に代表取締役の住所の実在性を証する書面の添付は要求されておらず、実際は、取締役会設置会社の代表取締役に就任する際には印鑑証明書の添付が必要となりますが、印鑑証明書を添付する根拠は、代表取締役の実在性と就任承諾の意思確認のためであり、住所を証明するためではない、などということが挙げられます。
たしかに、代表取締役の住所移転による住所変更登記の場合なども、住所を証する書面の添付は不要です。
ただ、同業者の話を聞くと、部屋番号の省略が法務局に認められる場合と認められない場合があると聞いたりします。
結論としては、原則として住所の全部(~号まで)を登記すべきだと考えますが、依頼者がどうしても部屋番号を登記したくないという場合は、法務局管轄によりますが、部屋番号を省略できることもある、ということです。
ただ、この問題も2024年(令和6年)10月1日施行される代表取締役等住所非表示措置により解消されそうです。
法務省:代表取締役等住所非表示措置について
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00210.html
参考書籍
『商業登記ハンドブック〔第4版〕』松井 信憲(著)|商事法務
『商業・法人登記500問』神﨑満治郎・金子登志雄・鈴木龍介(編著)|テイハン
商業・法人登記500問 [ 神崎満治郎 ]
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