ストックオプションとしての新株予約権の行使の登記

香川県高松市の司法書士 川井事務所です。

会社が株式上場することによりストックオプションとしての新株予約権の行使条件を満たすこととなり、新株予約権を保有する役職員はそれを行使することができるようになります。

新株予約権を行使すると会社の株式を市場価格よりも低い価格で取得することができ、その株式を市場で売却することにより株式売却益を得ることができます。

今回は新株予約権の行使の登記について、必要書類、登記事項、登記の期限などについて取り上げます。

目次

新株予約権の行使

まずは会社法の条文からみていきましょう。

(新株予約権の行使)
第280条 新株予約権の行使は、次に掲げる事項を明らかにしてしなければならない。
一 その行使に係る新株予約権の内容及び数
二 新株予約権を行使する日
(2~6項省略)

(新株予約権の行使に際しての払込み)
第281条 金銭を新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、新株予約権者は、前条第1項第2号の日に、株式会社が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所において、その行使に係る新株予約権についての第236条第1項第2号の価額の全額を払い込まなければならない。
(2~3項省略)

(株主となる時期等)
第282条 新株予約権を行使した新株予約権者は、当該新株予約権を行使した日に、当該新株予約権の目的である株式の株主となる。
(2~3項省略)

このように条文上は、新株予約権者は行使日に払込取扱機関に行使価額の全額を払込みをすることにより、行使日に株主になるということになっています。

新株予約権の行使の登記の必要書類

新株予約権の行使の登記に必要な書類は次のとおりです。

前提として月ごとに月末締めで登記する場合を想定して書かれてあります。

新株予約権の行使があったことを証する書面(商業登記法第57条第1号)

新株予約権行使請求書や株主名簿管理人が作成した証明書がこれに当たります。

新株予約権行使請求書は新株予約権者が各自請求するためのものですので、該当月に行使した人全員分必要となり、たいていの場合、複数枚になります。

株主名簿管理人が作成した証明書であれば1枚にまとまっているため簡便でしょう。

株主名簿管理人が作成した証明書には、行使期間(通常1か月間)、新株予約権の種類(株式会社●●第1回新株予約権)、期間内に行使された個数、交付した株式の種類・数などが記載されていると思います。

払込みがあったことを証する書面(商業登記法第57条第2号)

会社設立時や募集株式の発行のときと同様です。

会社代表者作成の証明書に行使価額の全額の払込みがあった事実が記録された通帳写しを合綴したものが一般的です。

複数の種類の新株予約権が行使された場合であっても代表者作成の証明書は分ける必要はありません。

たとえば、該当月に「第1回新株予約権」「第2回新株予約権」の2種類の新株予約権の行使があったような場合です。

新株予約権の種類ごとに「払込みがあった金額」「払込みがあった新株予約権の数」を記載しておけばよいと思います。

ところで、条文上は「行使日に払い込まなければならない」となっていますが、実務上は行使請求書の日付と払込日が一致していないことがあります。

新株予約権の行使があったことを証する書面として株主名簿管理人が作成した証明書を添付するのであれば行使日と払込日がずれていることはわからないのですが、払込日が行使のあった月の前月という月ずれしている場合もあります。

たとえば、12月行使分の登記を申請する際に、11月に払込みがあったものがあるというような場合です。

それでも登記は通っているようです。

資本金計上証明書(商業登記規則第61条第9項)

自己株式の交付のみがされたという事情がなければ、資本金の額が増加することになりますので添付が必要です。

記載内容が募集株式の発行とは異なるので注意が必要です(会社計算規則第17条)。

算定式は次のようになります。

  1. 行使時の新株予約権の帳簿価額
  2. 払込金額
  3. 自己株式処分差損

(①+②)×株式発行割合-③=資本金等増加限度額

一見面倒なように見えますが、

税制適格ストックオプションの行使であれば①=0
自己株式の発行がなければ③=0、株式発行割合100%

ということになり、結果として、払込金額=資本金等増加限度額となることがほとんどでしょう。

増加する資本金の額などを決定した議事録(商業登記法第46条)

払込金額の2分の1を資本金の額に計上することを定めていることがほとんどだと思いますので、新株予約権の「発行」の決議をした際の株主総会(取締役会)議事録が必要になります。

なお、この株主総会議事録についての株主リストの添付は不要です。

発行時にすでに審査済みの議事録だからです。

新株予約権の行使・全部行使の登記事項

新株予約権の行使により新株を発行した場合の登記すべき事項は次のとおりです。

普通株式という前提です。

  • 発行済株式総数
  • 資本金の額
  • 新株予約権の数
  • 新株予約権の目的たる株式の種類及び数
  • 変更年月日

新株予約権の行使が続くと新株予約権の登記簿の内容がかなり見づらくなってきます。

単純な計算間違いなどしないようにしましょう。

新株予約権の全部行使の場合は、「発行済株式総数」「資本金の額」に加えて「年月日第●回新株予約権の新株予約権全部行使」と登記し、当該新株予約権に抹消の記録が入ります。

新株予約権の行使の登記の期限

新株予約権の行使をした場合には、行使日から2週間以内に変更の登記をするのが原則です(会社法第915条第1項)。

例外として毎月末日現在までの変更分を一括して申請することが認められており、その場合の登記期間は当該末日から2週間以内とされています(同条第3項第1号)。

行使があったごとに変更登記を要するとなるとあまりにも煩雑すぎるためです。

実務上は月ごとに一括申請するのがほとんどでしょう。

ただし、全部行使した場合などは、行使日を原因年月日としてもそれほど手間ではなく、原則どおり申請することもあります。

参考書籍

『商業登記ハンドブック〔第4版〕』松井 信憲(著)|商事法務

『論点解説商業登記法コンメンタール』神﨑満治郎・金子登志雄・鈴木龍介(著・編集)|きんざい

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この記事を書いた人

愛媛県四国中央市出身
早稲田大学政治経済学部卒業

平成28年司法書士試験合格
平成29年から約3年間、東京都内司法書士法人に勤務
不動産登記や会社・法人登記の分野で幅広く実務経験を積む

令和2年から香川県高松市にて開業
地元四国で超高齢社会の到来による社会的課題への取組みや地方経済の発展のために尽力している

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