合同会社の法人社員が複数の職務執行者を選ぶ場合の問題点

香川県高松市の司法書士 川井事務所です。

合同会社の業務執行社員が法人の場合は、その法人社員は自然人である「職務執行者」を選ぶ必要があります(厳密にいうと合名会社・合資会社もそうです)。

そのうち、代表社員が法人の場合は、その法人社員の職務執行者を登記しなければなりません。

職務執行者の人数は、法律上制限されていませんので、何人選んでもよいことにはなります。

今回は、合同会社の業務執行社員が法人の場合のルール、職務執行者の選任方法、職務執行者が複数の場合問題点などについて取り上げます。

目次

合同会社の業務執行社員が法人の場合

合同会社の業務執行社員が法人の場合は、その法人社員は自然人である「職務執行者」を選ぶ必要があります(会社法第598条第1項)。

職務執行者は、業務執行社員同様の責任を負います。

すなわち、「善管注意義務・忠実義務」「競業禁止」「利益相反取引の制限」「会社に対する損害賠償責任」「第三者に対する損害賠償責任」などの責任を負うことになります(同法同条第2項)。

(会社法)
第598条 法人が業務を執行する社員である場合には、当該法人は、当該業務を執行する社員の職務を行うべき者を選任し、その者の氏名及び住所を他の社員に通知しなければならない。
2 第593条から前条までの規定は、前項の規定により選任された社員の職務を行うべき者について準用する。

法人が合同会社の(業務執行)社員になることができるわけですが、法人とは法律上の人格であり実体のない存在ですので、実際にその法人のために動く生身の人間を置きなさいよということでしょう。

典型例は、不動産証券化などのスキームで利用される、いわゆる「GK-TKスキーム」が挙げられます。

合同会社(GK)と商法上の匿名組合(TK)を組み合わせた手法なので、業界ではそのように呼ばれています。

不動産証券化の仕組みに登場する資産を保有する主体としての特別目的事業体=Special Purpose Vehicle =SPVとして合同会社が利用されるというものです。

詳細はこちらの記事をご参照ください。

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合同会社の社員として一般社団法人が利用されることが多いのですが、なぜ一般社団法人が利用されるかについては別の機会に書きたいと思います。

その他、合同会社を子会社として設立する場合や、合弁会社を設立する場合なども社員が法人となる例となります。

職務執行者の選任方法

職務執行者の選任方法

職務執行者の選任は、その法人社員の業務執行の決定機関で決定する必要があります(平18・3・31民商782号)。

  • 取締役会を置く株式会社が業務執行社員になる場合は、取締役会決議
  • 取締役会を置かない株式会社が業務執行社員になる場合は、取締役の決定
  • 合同会社(合資会社・合名会社)が業務執行社員になる場合は、原則として、社員の過半数の一致(定款に別段の定めがあれば、それに従うと解されます)

職務執行者になれる人

職務執行者は、業務執行社員となる法人の役員や従業員の中から選任してもかまいませんし、社外の第三者でも差し支えないとされています。

ただし、法人の代表者以外の人が職務執行者になる場合の法人の意思決定については考えるべきことがあります(次のタイトル「職務執行者が複数の場合の問題点」をご参照ください」。

職務執行者の人数

職務執行者の人数の制限はありません。

複数でもよいとされています、が、次のようなことを考える必要がありそうです。

職務執行者が複数の場合の問題点

「職務執行者は、2人以上でもよい」と書かれてある書籍、ブログ・サイトは多いのですが、じゃあ簡単に2人以上選んでよいかというとそうではなく、そのことに言及している記事はほとんどありません。

職務執行者を複数置くとなると、職務執行者会議にようなものを設けて、その招集方法や議事手続き、決議要件などを定める必要が生じ、規定が複雑化するおそれがあります。

複雑化しても規定があればまだよいですが、「規定なく職務執行者が2人いる」となるとその法人の意思決定ルールどうなる?ということになります。

法人が社員である場合の意思表示の主体

ここで、法人社員の意思表示をするのは誰なのか、整理しておきたいと思います。

つまり、定款変更や業務執行社員の過半数の決定などの各社員の意思表示の主体が、当該法人の代表者なのか、それとも職務執行者なのか、という問題です。

結論としては、

  • 業務執行と関係なく社員の一致を要する事項については、法人の代表者が意思表示をする
  • 業務執行社員の一致を要する事項については、法人業務執行社員の職務執行者が意思表示をする

と解されているようです。

たとえば、合同会社Xの社員(=業務執行社員=代表社員)が株式会社Yのみで、株式会社Yの代表者がA、職務執行者がBの場合において、管轄外の本店移転をするには、新所在地の最小行政区画を定める定款変更のために、株式会社Yの代表者Aが意思表示をして、具体的な本店所在場所の決定のために、職務執行者Bが意思表示をするということになります。

職務執行者が2人の場合

では、さきほどの合同会社Xの例で、社員である株式会社Yの職務執行者がA・Bの2名だった場合どうなるでしょうか。

合同会社Xが管轄外本店移転をする場合、新所在地の最小行政区画を定める定款変更のために、株式会社Yの代表者Aが意思表示をします。

具体的な本店所在場所の決定のためには、職務執行者が意思表示をすることになりますが、定款に別段の定めがないのであれば、職務執行者の過半数をもって決定するということになりそうです。

つまり職務執行者AとB両方の同意が必要ということになると考えられます。

明文の規定がないため、非常に悩むところですが、そう考えるしかなさそうです。

実はこのケースは、不動産証券化案件のSPVとしての合同会社で、社員は外国会社、職務執行者は海外在住の外国人というものでした。

職務執行者を2人選んでいることについて一応理由はあったのですが、2人でなければならない理由ではありませんでした。

2人以上でなければならない強い理由がないのであれば、職務執行者は1人とすることをおすすめします。

参考書籍

『合同会社のモデル定款―利用目的別8類型―』江頭憲治郎(著)|商事法務

『商業登記ハンドブック〔第4版〕』松井信憲(著)|商事法務

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この記事を書いた人

愛媛県四国中央市出身
早稲田大学政治経済学部卒業

平成28年司法書士試験合格
平成29年から約3年間、東京都内司法書士法人に勤務
不動産登記や会社・法人登記の分野で幅広く実務経験を積む

令和2年から香川県高松市にて開業
地元四国で超高齢社会の到来による社会的課題への取組みや地方経済の発展のために尽力している

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