香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
実務上、不動産登記か商業登記のどちらかに偏りがちな人が多いのではないでしょうか。
しかし、どちらにも詳しくないと苦戦する問題もありまして・・・
この記事では、不動産登記・商業登記の両分野の知識が求められる問題をとりあげます。
具体的には、代表者個人の不動産を資産管理会社に所有権を移転する場合の利益相反取引と合同会社の定款についての論点です。
また、資産管理会社を使ったスキームの組成に携わる税理士さんにとっても有益な内容になっているかと思います。
不動産売買事例(利益相反取引)
まずは、不動産売買の事例からみていきましょう。
個人Aが自分が代表をつとめる合同会社甲に不動産の所有権を移転するという取引です。
典型的な利益相反取引です。
甲社の社員は、代表社員である業務執行社員A、業務執行社員B・C・Dで構成されており、CとDは15歳未満の未成年です(非業務執行社員はいません)。
A・B・C・Dは家族で、甲社は要するに資産管理会社です。
不動産登記に詳しい人であれば、このままでは登記できないと思うはずです。
それはなぜか?みていきましょう。
会社法上、合同会社の業務執行社員が、利益相反取引をしようとするときは、原則として、当該取引について当該社員以外の社員の過半数の承認を受けなければなりません(会社法第595条第1項)。
不動産登記手続上は、甲社のAを除く社員の過半数の一致があったことを証する書面に社員が実印で押印し、印鑑証明書を添付する必要があります。
ところが、C・Dは15歳未満で印鑑登録ができないため、印鑑証明書を添付することができません。
なんでそんな未成年者を社員にしているんですか?
そう思う人がいるかもしれません。
理由は税理士さんにきいてみてください。
税理士さんというのがヒントですが、ここでは詳しくとりあげません。
さて、とにかく、このままでは登記できないのですが、どうすればよいでしょうか?
まずは、甲社の定款を確認してみてください。
合同会社は定款で利益相反取引の制限を排除することが可能です(会社法第595条第1項ただし書き)。
定款を確認して、利益相反取引の制限が排除されていれば、Aを除く社員の過半数の一致があったことを証する書面の代わりに定款を添付して登記することができます(〔補訂版〕利益相反行為の登記実務 245ページ)。
定款には代表者が原本証明をして会社実印で押印します。
ちょっとしたことではありますが、不動産登記の実務で会社の定款を確認しようという発想に至らないのではないでしょうか。
商業登記の側面からみた場合(定款の利益相反取引制限の規定について)
ここまで読めばわかると思いますが、家族の資産管理会社をつくる目的で合同会社設立の依頼がきた場合は、個人から会社へ不動産の所有権を移転させる予定があるかどうかの確認が必要、といいますか、たぶん移転させます。
設立時の定款の利益相反取引制限の規定を排除することを依頼者に提案できるとよいかもしれません。
特に、社員になる者の中に15歳未満の未成年が含まれている場合は、制限を排除した方がよいでしょう。
これも不動産登記の実務をよく理解していないと、この発想に至らないと思います。
定款の具体的な記載例
(利益相反取引の制限)
第●条 業務を執行する社員は、次に掲げる場合には、当該取引について、当該社員以外の社員の承認を受けることを要しない。
一 業務を執行する社員が自己又は第三者のために当会社と取引をしようとするとき。
二 当会社が業務を執行する社員の債務を保証することその他社員でない者との間において当会社と当該社員との利益が相反する取引をしようとするとき。
この定款記載例だと業務執行社員全員の利益相反取引の制限を排除する形となるため制限が緩すぎるということでしたら、あらかじめ不動産取引が予定されている者のみ利益相反取引の制限を排除し、その他の業務執行社員は原則どおり制限するという規定のしかたでもよいと思います。
合同会社の定款については、『5つの定款モデルで自由自在 「合同会社」設立・運営のすべて(第2版)』や『合同会社のモデル定款―利用目的別8類型―』が参考になると思います。
合同会社の実務には必携です。
参考書籍
『〔補訂版〕利益相反行為の登記実務』青山 修(著)|新日本法規出版
『5つの定款モデルで自由自在「合同会社」設立・運営のすべて(第2版)』神﨑 満治郎(著)|中央経済社
『合同会社のモデル定款―利用目的別8類型―』江頭憲治郎(著)|商事法務
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