免責の登記の適用範囲

香川県高松市の司法書士 川井事務所です。

いわゆる免責の登記、正しくは商業譲渡人の債務に関する免責の登記。

一応受験では登場しますが、個人的には実務で遭遇すると何やら違和感のある手続きのひとつです。

今回は、商号続用・屋号続用・会社分割と免責の登記、免責の登記の添付書面と登記記録例について取り上げます。

目次

商号続用と免責の登記

そもそも免責の登記とは何なのか確認しておきたいと思います。

事業譲渡があった際に、事業を譲り受けた会社(譲受会社)が、事業を譲渡した会社(譲渡会社)の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うとされています(会社法第22条第1項)。

ただし、事業を譲り受けた後、遅滞なく譲受会社がその本店の所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、譲受会社は上記第1項の責任を負いません(同条第2項)。

たとえば、株式会社Aが株式会社Bに事業を譲渡し、株式会社Bが定款変更によりその商号を株式会社Aにしました、というような場合です。

この場合、当該事業譲渡により旧株式会社Aの債務を新株式会社A(旧株式会社B)が承継していなかったとしても、取引をする第三者からは同じ外観が生じているため、新株式会社Aも旧株式会社Aの事業によって生じた債務について責任を負いなさい、ただし、譲受会社である新株式会社Aが免責の登記をしていれば取引の安全が害されないであろうからその場合は責任を負わなくてよいということでしょう。

なお、商号の続用とは譲渡会社の商号と完全に同一の商号に限らず、その同一性を失わない限度で使用することをいい、主要部分が共通するなどの類似の商号を使用する場合も含まれるとされています。

商号の続用の有無に関する裁判例をいくつか挙げてみます。

裁判所等譲渡会社の商号譲受会社の商号商号続用の有無
東京地判昭28・9・7株式会社日進堂有限会社カメラの日進堂
大阪地判昭40・1・25株式会社日本電気産業社株式会社日本電気産業
東京地判昭42・7・12第一化成株式会社第一化成工業株式会社
名古屋地判昭60・7・19株式会社太一商店株式会社中部太一×
東京地判昭60・11・26株式会社肉の宝屋協同組合肉の宝屋チェーン×
商号の続用の有無に関する裁判例

※商法第17条にも会社法第22条と同趣旨の規定がありますが、本記事では省略します。

屋号続用と免責の登記

商号続用というのはレアケースのように感じますが、免責の登記の適用範囲が広く取られているため、実務では意外と免責の登記に遭遇することになりますし、個人的には違和感のあるところでもあります。

つまり、商号の続用がなくても、屋号の続用がある場合には、外観を信頼した債権者を保護するため趣旨から会社法22条1項が類推適用されるというものです。

よく出てくる判例としては、ゴルフ場の営業譲渡がされ、譲渡会社が用いていたゴルフクラブの名称を譲受会社継続使用しているときは、外観に対する会員の信頼を保護すべきとして、会社法22条1項(旧商法26条1項)の類推適用される、というものがあります。

登記実務上は、判例をふまえて、事業譲渡の譲受会社が屋号のみを続用する場合であっても免責の登記をすることができます(登研674号97頁)。

また、その場合の免責の登記の申請書には、当該屋号を記載する必要もないとされています。

たとえば次のような登記も認められるということです。

免責の登記の登記記録例

しかし、これでは一体何を公示しているのだろうという疑問があります。

何の事業を譲り受けたのかわかった方がよい気がします(記載例は下記)。

それ以前に「商号譲渡人の債務に関する免責」という登記事項の欄に、屋号続用の内容が記載されるというのはどうなんでしょうか。

一般の人がみて理解できるでしょうか。

疑問に思うところです。

このように免責の登記の適用範囲を広げるニーズがあるのであれば、事業譲渡自体についても登記すべき事項に加え、公示すべきという意見もあります。

会社分割と免責の登記

事業譲渡については、会社法22条2項を根拠に免責の登記をすることができますが、事業譲渡と似た性質の会社分割についても免責の登記をすることができます。

判例では、会社分割に際して新設分割設立会社が新設分割会社の商号を続用する場合、当該新設分割設立会社について会社法22条1項の規定が類推適用される余地がある(最判平20・6・10)とされています。

吸収分割についても同様です。

また、会社分割においても、商号続用がなくても、屋号の続用がある場合には、免責の登記をすることができます(質疑応答【7792】登研675号247頁)。

事業譲渡であれ、会社分割であれ、事業の名称(屋号)をそのままにその運営を承継するということはよくあるため、結果、実務では割とよく見かけることになります。

免責の登記の添付書面と登記記録例

添付書面

免責の登記の添付書面は次のとおりです。

  • 譲渡人の承諾書(商業登記法第31条第2項)
  • (譲渡会社と譲受会社の登記所管轄が異なる場合)譲渡人の印鑑証明書(同法第24条第7号)

登録免許税

会社の場合は、3万円(登録免許税法第9条別表第一第24号(1)ツ)。

登記記録例

登記記録例は次のとおりです。

事業譲渡・商号続用の場合
事業譲渡・屋号続用の場合(屋号記載なし)
事業譲渡・屋号続用の場合(屋号記載あり)
新設分割・商号続用の場合
吸収分割・屋号続用の場合

参考書籍

『事業譲渡の理論・実務と書式―労働問題、会計・税務、登記・担保実務まで(事業再編シリーズ)』今中利昭・赫高規・竹内陽一・山形康郎・内藤卓・丸尾拓養(編集)|民事法研究会

『事業譲渡の実務―法務・労務・会計・税務のすべて』関口智弘・竹平征吾・細野真史・谷内元・山口拓郎・浦田悠一・髙田真司・山本龍太朗(著)|商事法務

『会社分割の理論・実務と書式―労働契約承継、会計・税務、登記・担保実務まで(事業再編シリーズ)』今中利昭・小田修司・内藤卓・高井伸夫(編集)|民事法研究会

『論点解説商業登記法コンメンタール』神﨑満治郎・金子登志雄・鈴木龍介(著・編集)|きんざい

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この記事を書いた人

愛媛県四国中央市出身
早稲田大学政治経済学部卒業

平成28年司法書士試験合格
平成29年から約3年間、東京都内司法書士法人に勤務
不動産登記や会社・法人登記の分野で幅広く実務経験を積む

令和2年から香川県高松市にて開業
地元四国で超高齢社会の到来による社会的課題への取組みや地方経済の発展のために尽力している

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