香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
商業登記ハンドブックの著者である松井信憲氏が2025年に法務省民事局長に昇進されました。
というわけでハンドブックの第6版はしばらく出ないのではないかという心配はありますが、このハンドブックを読んでいくシリーズは第6版が出るまでのんびり続けていけばよいことになったと勝手に思っています。
これは商業登記ハンドブック第5版を読みながら自分なり思ったこと、疑問点、恐れながら補足などを自分用にメモしたものでありながら公開してみるという試みです。
なので、繰り返し読むたびに加筆修正されていくかもしれません。
今回は「2-1編」です。
2-1総論
引き続き商業登記ハンドブック(以下「ハンドブック」)を丁寧に読んでいく。
前回で第1章株式会社の設立の登記のパートが終わり、今回から第2章株式会社の変更の登記に入るが、はっきり言って本書のほとんどが第2章である。
総論はもしかしたら多くの人がスルーしがちかもしれないが、大事なので読んでおいた方がよいだろう。
P.137(1)株主総会と種類株主総会①無議決権株式
種類株式についての誤解は多い。
旧商法の影響からか未だに種類株式といえば無議決権優先株のことだと思っている人に遭遇することがある。
それは時に他士業の人だったりする。
P.137②拒否権付株式
スタートアップが優先株式による資金調達をする場合に、拒否権を種類株式の内容として定めるか、株主間契約で定めるかという論点がある。
拒否権を種類株式の内容とした場合、拒否権を設定した事項が発生するたびに種類株主総会が必要となり、経営の機動性を害するため、実務上は株主間契約において事前承諾事項として定めるケースが多い。
2026年1月時点での個人的な感覚では、ここのところ拒否権付株式を発行する会社を見かけないが・・・。
P.138③取締役・監査役選解任権付株式
取締役・監査役選解任権付株式についても誤解が多いかもしれない。
この種類株式についてはこちらの記事をご参照ください。

拒否権同様、取締役の選解任についても、実務上は種類株式の内容とせず株主間契約でのみ定める事例が多い。
P.141(3)決議要件
書籍の定款の文例では、たとえば普通決議の定足数要件を排除している例を見かけるが、個人的には、何か事情がない限り会社法の原則どおりの決議要件を定めることが多い。
ハンドブックには、基準日について、基準日後に発行された新株の株主の議決権については、当該基準日にかかる株主総会で行使することはできないが、会社は、基準日後に株式を取得した者を議決権を行使することができる者と定めることもできる旨が書かれている(会社法第124条第4項)。
基準日後に新株を発行した場合は、会社法第124条第4項ただし書の「当該株式の基準日株主の権利を害することができない」に該当しないため、上記の取扱いが認められる。
この場合、当該譲渡人の同意がなければ、基準日後の株主は当該基準日にかかる株主総会で議決権を行使することができない。
基準日から株主総会開催日までの間にM&Aによる株式譲渡が行われるときは定款の基準日の規定に注意する必要がある。
あるいは非上場会社の場合、会社設立時から定款に定時株主総会の基準日の定めを置かないということを検討してもよいかもしれない。
その場合、定時株主総会において議決権を行使することができる株主は、その開催時点の株主となる(『会社法定款事例集第4版』P.151コラム参照)。
なお、定時株主総会で議決権を行使することができる者は決算期現在の株主でなければならないものではない(『ハンドブック』P.145~146)。
P.149(注)電子提供措置の導入
実は電子提供措置をとる旨の登記を申請したことがある。
詳細を書くと依頼者が特定されてしまいそうで書けないのだが。
電子提供措置についての詳細はこちらの記事をご参照ください。

P.151~152②株主総会の開催場所(a)開催場所
「株主総会の場所が過去に開催した株主総会のいずれの場所とも著しく離れた場所であるときは、招集決定の際にその場所を決定した理由を明らかにしなければならない(施63条2号)。かつて大阪市内において株主総会を開催してきた会社が東京都内で開催する場合も、これに該当すると解されている(相澤・論点解説471頁)。」→このケースに遭遇したことはないが、あまり意識したことがなかったかもしれない。
P.152~153(b)複数の場所における開催(テレビ会議システム等)(c)場所の定めのない株主総会の開催(バーチャルオンリー型株主総会)
パンデミック以降、オンライン会議が急速に普及した。
オンライン出席者がいる場合の株主総会議事録には、情報伝達の即時性と双方向性の確認の事実を記載する必要がある。
その時の注意点についてこちらの記事をご参照ください。

P.155~156⑤議事録への押印
アナログで押印不要の書類でも、オンライン申請の場合は電子署名が必要となる取扱いを止めてくれと思う今日この頃。
ところで、私は開業時から会計記帳はマネーフォワードを利用しているが、つい最近、追加料金もなくマネーフォワードクラウド契約を使って署名できることに気づいた。
登記で使える署名である。
他の電子契約サービスの契約をしなくてよかった。
P.157~159(6)株主総会の決議の省略
いわゆる書面決議、みなし決議はよく使うと思う。
株主1人の会社が実際に株主総会を開催するというのは現実的ではないと考えられるからである。
もちろん株主の同意書面を作成して記名押印または電子署名してもらうべきだと考える。
議事録への押印について、代表取締役の変更の際に書面決議をした場合の取扱いが書かれてあるが、初めて知った時は驚いたものだった。
P.159~161(7)株主リスト
私は長年、特段意識することなく株主名簿や株主リストに組合名を入れてきた。
株主名簿には株主の氏名又は名称及び住所を記載し、又は記録しなければならない(会社法第121条)。
しかし、組合とは契約のことであり(民法第667条)、一部例外を除き組合に法人格はなく、財産は総組合員の共有である(民法第668条、投資事業有限責任組合契約に関する法律や有限責任事業組合契約に関する法律にも準用あり)。
不動産登記では法人格のない組合名義で登記することはできない。
有限責任事業組合契約に関する法律74条には組合財産の分割禁止の登記の規定も定められている。
改めて組合は株主なのかと考えてみると何だかよくわからない。
会社計算規則第2条第3項第36号には以下のように規定されている。
共通支配下関係 二以上の者(人格のないものを含む。以下この号において同じ。)が同一の者に支配(一時的な支配を除く。以下この号において同じ。)をされている場合又は二以上の者のうちの一の者が他の全ての者を支配している場合における当該二以上の者に係る関係をいう。
この「人格のないもの」とは組合のことを指すとされている。
共通支配下関係のピラミッドの頂点が組合でもかまわないのである(『親子兄弟会社の組織再編の実務第3版』P.29参照)。
お上がそう言うのであれば、組合は株主になれると言っていいのかもしれない。
なにしろ株主名簿や株主リストに組合員全員の氏名又は名称を書きたくないのである。
株主名簿は公示する必要のない文書で、株主リストは法務局に提出するためだけの文書であると考えられるのに対して不動産登記簿は公示されるものという違いがある。
しかし、株式と不動産の流通を考えると、株主名簿の書換えが株式譲渡の対抗要件であり、不動産登記が所有権移転の対抗要件である。
そんなわけで組合と株式と不動産のことを考えると何だかよくわからないのである。
誰か説明できる人がいたら教えてください。
P.162 2 種類株主総会の決議(1)種類株式
市販の定款の書式例などをみると、譲渡制限のみ付された株式を「普通株式●株」という名称で記載されていることが多い。
しかし、種類株式発行でないにもかかわらず「普通株式」と呼ぶのは違うとはいえば違うかもしれない。
つまり単なる「株式」という記載でよいのではないかということである。
公証人によっては、定款案の確認の際に、そのように指摘してくることもある。
なお、種類株式発行会社の普通株式の種類株主総会を忘れがちという罠がある。
P.165~166(3)種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合の種類株主総会①種類株主総会を開催すべき場合
会社法第322条第1項各号に、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがある行為が挙げられている。
P.166②種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定め
会社法第322条第2項では、同条第1項の規定による種類株主総会決議を要しない旨を定款で定めることができるが、同条第1項各号の行為の一部についてのみ種類株主総会決議を要しない旨を定めることができるかどうかで説が分かれている。
立案担当者の立場は、本条1項各号に掲げられている行為の一部につき種類株主総会の決議を要しない旨を定めることはできないという立場である。
その理由として、「会社法322条1項2号から13号までに掲げる行為が限定列挙ではなく、例示であるという有力な見解をも考慮に入れたものである。仮に、このように取り扱うこととしても、同項に掲げる行為の一部につき種類株主総会の決議を要求しようとする場合には、別途、拒否権に関する定めを設けることによって対応することができるため、実務上、問題となることはないものと考えられる」こと、「会社法322条1項各号に掲げる行為が例示列挙であるとして、同条2項で同条1項各号に掲げる行為の一部につき種類株主総会の決議を要しない旨を定めることができることとすると、解釈上適用される可能性のある同条1項各号に掲げる行為以外の行為を行う場合の取扱いに難しい問題が生ずることとなる」ことが挙げられている(相澤哲・細川充『商事法務№1743』P.31(2005.9.25))。
ところが同じ立案担当者の編著『論点解説新・会社法』P.104には「この種類株主総会決議を不要とする定めは(322条2項)、同条1項各号に掲げられている事項ごとに定めることができる。」と書かれている。
今のところ322条1項各号の行為のうち一部だけ種類株主総会決議を不要としたいという相談・要望を受けたことはないが…。
P.176(e)取締役に対して募集新株予約権を割り当てる場合における当該取締役
新株予約権の割当先の決定につき取締役会における特別利害関係が生ずるかどうかについて以下補足する。
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下「報酬等」という。)については、定款に定めがある場合を除き、株主総会の決議によって定めなければならない(361条1項)。
この会社法361条1項の「職務執行の対価」とは、職務執行の機関と経済的利益との関係が明確なものに限らず、インセンティブや福利厚生目的で付与される利益等、およそ取締役としての地位に着目して付与される利益を広く含むものであると解されている(論点解説・新会社法P.312~313)。
P.186(3)目的上事業者の合併等の取扱い
建設・不動産・運送関係などは許認可を確認する必要がある。
特に一般貨物自動車運送事業など運送関係の許認可は注意が必要である。
関連記事



参考書籍
『商業登記ハンドブック〔第5版〕』松井信憲(著)|商事法務
『非上場株式取引の法務・税務 スタートアップの資金調達編』小山浩・間所光洋・立石光宏・髙橋悠(著)
『会社法定款事例集第4版』田村洋三(監修)土井万二・内藤卓尾方宏行(編集)|日本加除出版
『親子兄弟会社の組織再編の実務〈第3版〉』金子登志雄(著)|中央経済社
『会社法コンメンタール(7)』岩原紳作(編集)|商事法務
『会社法コンメンタール(8)』落合誠一(編集)|商事法務
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