代表取締役住所非表示+代表取締役住所移転+管轄外本店移転

香川県高松市の司法書士 川井事務所です。

会社の本店が代表取締役の自宅住所だったところ、自宅の引越しと同時に会社のオフィスを借りてそこに本店を移したい、というご依頼を受けることがあると思います。

そのタイミングで代表取締役の住所を非表示にしたいというご要望を受けるということもありえます。

今回は代表取締役の住所非表示措置の申出と代表取締役の住所移転、管轄外本店移転を同時に申請する場合の論点について取り上げます。

なお、代表取締役の住所移転を代表取締役の変更などに読み替えても同じ内容になると考えられます。

代表取締役の住所非表示措置の制度自体についての基本的な情報は以下のリンクの記事をご参照ください。

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目次

事例

  • 会社の本店が代表取締役の自宅住所
  • 代表取締役が引越しをすることになった
  • 新たに会社のオフィスを借りて本店をそこに移す
  • 代表取締役の移転先の住所を非表示にしたい

上記のような依頼があったとします。

この場合、次の2つの登記を申請し、その際に代表取締役の住所非表示措置の申出をすることになります。

  • 代表取締役の住所変更
  • 本店移転(旧管轄・新管轄)

登記原因の発生順は、①代表取締役の住所変更、その数日後に②本店移転の順番です。

引越しにより自宅(=旧本店)を貸主に引き渡すため、旧本店の実在性を確認することは困難。というケースです。

検証

登記の組み合わせはいくつか考えられます。

  1. (旧管轄)代表取締役の住所変更・非表示の申出・本店移転→(新管轄)本店移転
  2. (旧管轄)代表取締役の住所変更・本店移転→(新管轄)本店移転・非表示の申出
  3. (旧管轄)本店移転→(新管轄)本店移転・住所移転・非表示の申出

②の場合、旧管轄の登記簿に代表取締役の移転後の住所が一度表示されてしまうことになるため、依頼者の要望を考えると避けるべきでしょう。

登記原因の発生順に登記しなければならないというルールはないため、③のような申請も考えられますが、新管轄の登記簿にいきなり代表取締役の住所に抹消線が引かれるのはなんとなく避けたいという謎の美学があります。

従いまして、①の方法により、旧管轄で住所変更と非表示の申出をして本店移転するのがよさそうだと考えられます。

実際にした手続き

(旧管轄)代表取締役の住所変更・非表示の申出・本店移転→(新管轄)本店移転

上記の検証のとおりこの方法で申請することにします。

旧管轄に1件目、新管轄に2件目を連件で申請します。

管轄外本店移転の登記の申請に併せて非表示措置の申出をする場合、「本店所在場所における実在性を証する書面」は、新本店の所在場所について証明することになります(日本司法書士会連合会が出しているQ&A(20250618日司連発第307号)QⅢ-11)。

よって、1件目の申請とあわせてする非表示の申出についての添付書面は以下のものを用意しました(完全オンライン申請です)。

添付書面

  • 本店所在場所における実在性を証する書面として、令和6年7月26日法務省民商第116号別紙様式1の証明書(PDFデータ)の後ろに、新本店宛の配達証明書発送時の「書留・特定記録郵便物等受領証」と配達後の「郵便物等配達証明書」はがき、それぞれの写しのPDFデータを挿入して、自分の職務上の電子署名をしたもの
  • 代表取締役等の住所等を証する書面として、依頼者の電子証明書(登記委任状へのマイナンバーカードによる電子署名)
  • 株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面として、資格者代理人による本人特定事項の証明書に自分の職務上の電子署名をしたもの

以上の要領で申請したところ、法務局から電話がありました。

本店所在場所における実在性を証する書面で新本店の所在場所を証明しているので、非表示措置の申出は旧管轄ではなく、新管轄の申請の方で申出をしてください。

と言われたと記憶しています。

そうすると旧管轄で住所変更登記を申請しているので、

司法書士K

旧管轄の閉鎖登記簿に移転後の代表者の住所が表示されてしまうことになるじゃないですか

と聞いてみたところ、

そうなります。

と言われたと記憶しています。

いったん、落ち着いて考えようと思い、確認しますと言って電話を置きました。

すると、いったん落ち着いて考える間もなく、再び法務局から電話があり、先生の申請で合ってましたと言われました。

つまり、本店所在場所における実在性を証する書面は、登記申請時の本店所在場所で判断するので、今回の申請で問題ないということでした(旧管轄の申請も移転後の本店で申請するので)。

ついでにいうと、本店所在場所における実在性を証する書面は、登記申請時の本店所在場所で判断するので、今回と同様の事例で、何らかの事情により、新本店にはまだ郵便が届かない、旧本店では郵便を受け取ることができるという状況の場合、

(旧管轄)①代表取締役の住所変更・非表示の申出②本店移転→(新管轄)③本店移転

の3連件とすれば、登記は可能ということになります(1件目に本店所在場所における実在性を証する書面として旧本店の実在性を証する書面を添付)。

なお、代表取締役等住所非表示措置が講じられている代表取締役等の住所と同一のものを登記するときは、改めて代表取締役等住所非表示措置の申出することをなく、引き続き代表取締役等住所非表示措置が講じられますが、管轄外本店移転の場合も該当しますので、上記3連件の申請後の新管轄の登記簿には代表取締役の住所は非表示措置が継続されます。

しかし、それでいいのかという疑問は以下のとおりです。

疑問点

代表取締役の住所非表示措置の申出をするにあたって本店所在場所における実在性を証する書面の添付を要するとされたことの趣旨としては、代表取締役の住所に訴状の送達を行うことなどが困難になることが想定されるため、代わりに本店が訴状の送達先として機能することなどを担保するためと理解していました。

ところが、住所非表示措置が講じられている会社が、新本店の所在場所の実在性を確認しなくても、住所非表示措置を維持できるというのは、制度の趣旨に照らして考えると違和感があります。

参考書籍

『商業登記ハンドブック〔第5版〕』松井信憲(著)|商事法務

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この記事を書いた人

愛媛県四国中央市出身
早稲田大学政治経済学部卒業

平成28年司法書士試験合格
平成29年から約3年間、東京都内司法書士法人に勤務
不動産登記や会社・法人登記の分野で幅広く実務経験を積む

令和2年から香川県高松市にて開業
地元四国で超高齢社会の到来による社会的課題への取組みや地方経済の発展のために尽力している

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