商業登記ハンドブック(第5版)を読む風景(1-3・1-4編)

香川県高松市の司法書士 川井事務所です。

商業登記ハンドブックを読む風景シリーズ3回目。

このシリーズはまったくSEOのことを考えずに書いている。

けど、それなりに読まれている様子。

ありがたいことです。

これは商業登記ハンドブック第5版を読みながら自分なり思ったこと、疑問点、恐れながら補足などを自分用にメモしたものでありながら公開してみるという試みです。

なので、繰り返し読むたびに加筆修正されていくかもしれません。

今回は「1-3・1-4編」です。

目次

1-3定款作成以後の手続

引き続き商業登記ハンドブック(以下「ハンドブック」)を丁寧に読んでいく。

P.81公証人の認証②認証手続

日本公証人連合会が公表したスタートアップ向け「定款作成支援ツール」は以下のリンクから確認することができる。

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エクセルシートに必要事項を入力していくと、定款と実質的支配者申告書を作成することができるというものだ。

ここでその定款の内容についてあれこれ言うつもりはないが、あまりおすすめできないかもしれない。

ではスタートアップ向けの定款でおすすめのものはないのですかと問われるならば、主にスタートアップを支援する活動をする専門家集団でおなじみBAMBOO IMCUBATORが開発したスタートアップ向けモデル原始定款をご紹介することになります。

BAMBOO IMCUBATORダウンロードページ
https://bambooincubator.jp/template/startup/aoi

なお、一部の地域で試行的に運用されていた嘱託後48時間以内に定款認証手続を完了させる取扱い(いわゆる48時間原則)は、2025年3月3日以降、全国の公証役場で実施されている。

P.82(b)電子定款の認証

2024年4月から日本全国の公証役場で、マイナンバーカードによる電子署名の検証ができるようになり、マイナンバーカードで電子署名した定款作成委任状も使えるようになった。

日本全国の公証役場がリーガルの「電子認証キットPRO」と「RSS-VC」を導入
https://www.atpress.ne.jp/news/391625

この場合、発起人の印鑑証明書も不要となり、会社設立手続きをすべてオンラインで済ませることが容易になった。

しかし、実質的支配者の申告受理及び認証証明書は書面で出てくるので最寄りの公証役場に依頼するときは、対面で認証してもらった方が早い。

ついでにいうと、印鑑カード交付申請書は書面で提出するしかなく、設立登記完了後に法務局に書面持参か郵送することになる。

登記事項証明書も紙の書面のみである。

電子化への道は遠い。

P.83(c)実質的支配者の申告

実質的支配者の申告については、こちらの記事もご参照ください。

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実質的支配者リストについてはこちらの記事もご参照ください。

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なお、2025年3月21日からオンラインによる登記の申請と同時に行う場合には、オンラインによる実質的支配者情報一覧の保管及び写しの交付の申出を行うことができるようになっている。

法務省|オンラインによる実質的支配者情報一覧の保管及び写しの交付の申出について
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00224.html

P.93出資の履行(1)発起人による出資①履行の時期

令和4年6月13日民商第286号通知により出資の履行の時期についてはずいぶんと規定が緩くなった。

こちらがいくら出資の履行日について説明しても、気が付くと「もう払ったよ」という依頼者がいなくはないが、やはり緩すぎるような気がする。

P.95(2)設立時募集株式の引受人による金銭払込み

今のところ募集設立にしたいという人に出会ったことがないし、ここは募集設立の方が良さそうですと提案したこともない。

つまりまだ募集設立の手続きをやったことがない。

『論点解説新・会社法』によれば、募集設立の利点は次のようなものになる。

  1. 発起人としての責任を負いたくないが、設立時役員の選定に関与したいというニーズに応えることができること
  2. 発起人の責任が加重されるので、出資者にとって安心感が増すこと
  3. 定款の内容が設立の障害になった場合に、創立総会において定款変更をすれば、定款の作成をやり直す必要はないこと

今後もしかしたらこのようなニーズに遭遇するかもしれないがしないような気もする。

ところで前回1-2②編でも触れたように、発起人と設立時募集株式の引受人とでは責任の重さが異なる点は気にしておいた方がよいのかもしれない。

P.96④金銭の払込場所

募集設立の場合には、払込取扱期間は、発起人及び設立時募集株式の引受人により払い込まれた金銭につき保管証明義務を負うが、これは後に出てくる1-4編の添付書面に関係してくるところである。

P.98設立時役員等の選任及び優任(2)設立時役員等の就任

取締役会設置会社や互選規定を置いた会社でない場合は、代表取締役の地位と取締役の地位とか一体となっているため取締役として就任を承諾すれば、別途代表取締役としての就任承諾は不要と解されている、ということが案外知られていないのか、設立時取締役の就任承諾の他に設立時代表取締役の就任承諾が必要かどうか同業者から質問されたり、ときには法務局から設立時代表取締役の就任承諾書がついていませんけど?という電話がかかってきたりする。

ただ、就任承諾書に代表取締役の記載がないと依頼人にも疑問に思われる可能性もあり、不親切のようにも思えるため、設立時代表取締役の就任承諾書には「設立時代表取締役である設立時取締役に就任することを承諾いたします」という記載のものを用意するようにした。

1-4設立登記申請の手続き

P.103登記申請書(1)申請の方式

ファストトラック、登記申請件数の多い時期を除き、原則として、添付書面の全部が登記所に到達した日の翌日から起算して3営業日以内に登記を完了するものとされている。

この「登記申請件数の多い時期を除き」というのが、けっこうある。

高松でさえたまにある。

2025年4月は酷かったようである。

私も福岡に設立登記を申請したら5営業日ぐらいかかった。

そんなことがあったので、その後、東京の港に設立登記を申請する際は、依頼者に、完了するまでかなり時間かかるかもしれませんと説明することになったが、添付書面到着の翌日に完了した。

さすが港。

なお、平時の完全オンライン申請であれば、設立登記の申請から数時間で完了している印象。

ところで、完全オンライン申請の場合は当然添付書面の別送はないのだが、法務局の思い込みから添付書面の到着を待っている状態となり、処理されない場合がある。

添付書面が到着することは永遠にない。

なぜならそれが完全オンライン申請だからだ。

別送無しを選んで申請しているのである。

法務局にとってありがたいはずの完全オンライン申請をしているのに、完了予定日を過ぎても完了しないうえに、こちらから確認の電話をしなければならない手間が、大変腹立たしい。

申請受付時に別送の有無を確認しないのだろうか。

多忙であるならなおさら最初にそこを確認した方がよいと思うが。

なお、設立登記ではそんな目にあったことがないので、処理プロセスが違うのだろうか。

P.105(2)申請書の記載事項

2024年10月から登記事項証明書等における代表取締役等住所非表示措置が始まった。

その詳細についてはこちらの記事をご参照ください。

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2024(令和6)年10月1日開始の登記上の代表取締役等住所非表示措置とは? 香川県高松市の司法書士 川井事務所です。 株式会社の代表取締役の住所は原則として登記しなければならないのですが、2024(令和6)年10月1日から代表取締役等の住所に...

さて、申請書には「申請人の商号及び本店並びに代表者の指名及び住所」を記載しなければならないが、代表取締役の住所非表示措置が講じられている会社のデータを申請ソフトに取り込んでも、当然代表取締役の住所は非表示となっている。

今までの感覚でスルーしないように注意しなければならない。

P.107(3)印鑑の提出①印鑑の提出方法

印鑑とは読んで字のごとく印の鑑、つまり印影のことである。

そして押印した時に手に持っているものは、ハンコである。

あるいは印章といっていいかもしれない。

会社内でのハンコの管理方法を定めた規程を印章管理規程と呼んでいるはずである。

一般的には印章のことを印鑑と呼んでいることが多いが、法務局に提出するのはもちろん正しい意味での印鑑だ。

法務局にハンコを持っていってどうすると言いたい。

2019年の商業登記法の改正により、オンライン申請を行う者は印鑑の提出が義務付けられず、任意に印鑑を提出することができるようになった。

とはいえ、登記手続き以外で会社実印を使用する機会が発生するはずなので、印鑑を提出しない人はいないと考えられる。

オンラインで印鑑を提出することもできる。

法務省|オンラインによる印鑑の提出又は廃止の届出について(商業・法人登記)
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00072.html

目盛付きのオンライン専用様式の印鑑届書を使用する必要があるが、これをこちらがお願いしたとおりに印刷してPDFを取るのを1回で成功した人があまりいないような気がする。

スマートフォンのアプリでPDFを取って送ってきたりする。

こうして今日も時間が過ぎていく。

ところで、届出印は法令の規定を守っていれば、印影は何でもよく、会社名が入っていなくても構わない。

会社のハンコの発注が間に合わなければ、例えば、いったん個人の実印を届け出ておくことも可能である。

注意しなければならないのは、法令の規定を守っていれば、何でも登録されるというところだ。

管轄外本店移転の依頼を受けたときのことだった。

登記申請後、法務局から印鑑届に押された印鑑が違うという指摘の連絡がきた(管轄外本店移転時に印鑑届が不要となる改正前)。

どういうことかと詳しく話を聞いてみると「銀行印」と記された印鑑が届出されているという。

私が依頼者から受け取った印鑑届には「代表取締役印」の印鑑が押されてあった。

その依頼者からは初の依頼で、こちらに印鑑証明書の写しはなかった。

依頼者に連絡をとり、法務局には「銀行印」と彫られた印鑑を提出しているようなので、それが御社のいわゆる会社実印、あるいは代表者印なのだと説明しても、なかなか理解してくれない。

とにかく銀行印と彫られたハンコで押印した印鑑届書を送りなおしてほしいとお願いして、以下詳細は省略するが、何ターンかやりとりして、最終的になんとかなった。

どうやらその依頼者は会社設立時は自分で登記したらしい。

P.110②印鑑カード及び印鑑証明

上にも書いたが、会社の設立登記と印鑑届を完全オンライン申請しても、今のところ印鑑カード交付申請書は書面で提出するしかなく、設立登記完了後に法務局に書面持参か郵送することになる。

印鑑証明書の交付は、依頼者から委任状に電子署名してもらえれば、オンラインによる請求をすることができる。

この場合でも印鑑カード番号の入力が求められるため、印鑑証明書を取得するには、一度は印鑑カードを発行してもらわなければならない。

P.112添付書面

株式会社設立時の添付書面については以下の記事をご参照ください。

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P.115(4)引受人の出資に関する書面

「払込取扱機関における口座の預金通帳の写し(表紙と該当頁)」について、依頼人から通帳をスマホで撮影した画像が送られてきたものでも申請は通っている。

P.116(ⅲ)預貯金の名義人

発起人、設立時取締役の全員が日本国内に住所を有していない場合に、第三者を名義人とする口座に出資金の払込みをすることが認められた(平29・3・17民商41号通達)が、その会社が日本で会社名義の銀行口座を開設することができるかどうかは会社設立前に金融機関に確認しておく必要がある。

P.117(ⅳ)預金通帳の記載内容

「出資金の払込人は、各発起人(現物出資のみをする者を除く。)が、発起人を使者としてこれに交付して入金してもらうことや、使者を通じて振込入金することもあり得るため、預金通帳に各発起人の氏名が表示されている必要がない」という情報がありがたい。

たとえば、発起人法人のグループ会社から発起人法人の銀行口座に入金された記録であっても問題ない。

通帳の入金記録のあるページについて、入金記録以外の情報を見られたくない場合はマスキングしてもかまわない。

ネット銀行や通帳が発行されない口座の場合は、ウェブ上の入出金明細のPDFデータでもかまわない。

金融機関のロゴはグループ全体のロゴの場合が多く、ロゴだけでは銀行か信託銀行か証券の口座か判明せず、金融機関名が入った通帳写し等が必要となる。

P.118②募集設立の場合には、払込取扱期間の払込金保管証明書

募集設立の場合、払込金保管証明書が添付書面となる。

同様に、資産流動化法に基づき設立することができる特定目的会社の設立登記の際には払込金保管証明書の添付が必要となる。

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参考書籍

『商業登記ハンドブック〔第5版〕』松井信憲(著)|商事法務

『論点解説新・会社法: 千問の道標』相澤哲(編集)|商事法務

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この記事を書いた人

愛媛県四国中央市出身
早稲田大学政治経済学部卒業

平成28年司法書士試験合格
平成29年から約3年間、東京都内司法書士法人に勤務
不動産登記や会社・法人登記の分野で幅広く実務経験を積む

令和2年から香川県高松市にて開業
地元四国で超高齢社会の到来による社会的課題への取組みや地方経済の発展のために尽力している

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