香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
会社設立時には、会社の本店所在地・所在場所を定める必要があります。
本店は基本的に自由に定めてよいのですが、いくつか注意点があります。
今回は、会社の本店と本社について、本店所在地が影響を及ぼす事柄(納税地、訴訟管轄、許認可・行政手続き、銀行取引)、同一商号・同一本店の禁止、本店所在場所をどこまで登記するのかなどについて取り上げます。
本店と本社
ビジネスを運営する際、企業の中心拠点として「本店」や「本社」という言葉を耳にすることが多いのではないでしょうか。
しかし、これらの用語には法律的・実務的な違いがあります。
本記事では、「本店」と「本社」の違いを整理し、それぞれの意味と役割について詳しく解説します。
本店
「本店」とは、ものの本によると、「主たる営業所、すなわち複数の営業所がある場合には会社の全事業を統括し最高の意思決定を行う営業所」ということのようです。
とはいうものの、本店として登記した住所が、法律上は会社の本店となるわけで、必ずしも主たる営業所の機能が備わっていなくて構わないといえます。
つまり形式上の本店で構わないということになります。
そもそも会社という存在は、ある種のフィクション、バーチャルな存在です。
今や役員・従業員全員が在宅リモートで就業している会社もあるぐらいですので、形式的なものと言えなくないでしょう。
本社
「本社」は、企業の経営管理を行う中心的な拠点を指す言葉です。
多くの企業では、本店と本社が同じ場所にありますが、異なるケースも少なくありません。
例えば、法律上の本店を地方に置き、実際の経営拠点である本社を都心部に構える企業もあります。
逆に、例えば、本社機能を淡路島に移転した企業もありました。
その企業の社長が、たしか、船上にオフィスが理想と言っていましたが、本社機能は船の上でもよさそうですが、法律上の「本店」を船の上にすることができないのは言うまでもありません。
本店は会社の登記上の義務として必要ですが、本社は法律上の定義はなく、実務上の用語として使われることが多いという点がポイントです。
本店の所在地が影響を及ぼす事柄
本店の所在地は、企業の運営や法的な手続きにさまざまな影響を与えます。
主な影響事項について見ていきましょう。
税務上の影響
法人税の課税基準の一部は本店所在地に基づいて決定されるため、税制優遇を受けられる地域に本店を置く企業もあります。
また、地方税(法人住民税や法人事業税)も本店の所在地によって異なるため、コストの観点から本店をどこに登記するかは重要なポイントとなります。
訴訟管轄
企業が法的な紛争に巻き込まれた際、訴訟の管轄裁判所は本店の所在地を基準に決まることがあります。
許認可・行政手続き
業種によっては、事業を行うための許認可が必要になります。
許認可を管轄する行政機関の所在地は本店の住所と関係する場合があり、どの都道府県で登記するかによって手続きの難易度や必要な書類が変わることがあります。
銀行取引
バーチャルオフィスを本店として登記した場合、銀行口座の開設や取引において影響が生じる可能性があります。
一部の銀行では、バーチャルオフィスを本店所在地としている企業に対して、口座開設を厳しく審査する場合があります。
理由として、バーチャルオフィスを利用する企業の中には、実体のないペーパーカンパニーが含まれることがあり、銀行側がリスク管理を行っているためです。
銀行によっては、バーチャルオフィスを本店所在地とする企業には追加書類(事業実態を示す書類やオフィス契約書など)の提出を求めることがあります。
そのため、事前に銀行と相談し、必要な書類を準備しておくことが重要です。
同一商号・同一本店の禁止
他の株式会社が既に登記した商号と同一の商号を用い、かつ、その本店の所在場所が当該他の株式会社と同一であるときは、登記することができません(商業登記法第27条)。
たとえば、他の会社の本店が「Aビル」と既に登記されているときは、同一の商号の会社は、本店を「Aビル●階」として登記することはできません。
同じ場所で同じ会社名が被るなんてことがあるのかと思わなくないですが、東京商工リサーチの調査によると、同じ住所を本店とする会社数が4000社を超える住所があるようです。
東京商工リサーチウェブサイト
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1200470_1527.html
おそらくバーチャルオフィスなのだと考えられますが、バーチャルオフィスを本店とする場合は、商号(会社名)の入念な調査が必要でしょう。
まあ、そもそも調査しない専門家はいないと思いますが。
本店所在場所をどこまで登記するのか
建物名・部屋番号
会社は、定款上、本店所在地を定め(会社法第27条第3号・第576条第1項第3号)、本店の所在場所を登記しなければなりません(同法第911条第3項第3号・第912条第3号・第913条第3号・第914条第3号)。
定款の本店所在地には、通常、最小独立行政区画である市区町村まで記載します。
本店の所在場所は、地番を含む住所のことを指します。
つまり、「●番地●」や「●丁目●番●号」まで登記する必要があります。
問題は、本店が建物の一室などに入っている場合に、建物名や部屋番号を登記するかどうかです。
しかし、建物名や部屋番号を省略することで、本店宛の郵便物が届かないのでは困ります。
建物名を登記せず、建物に設置された郵便受けにその会社の表示もなければ、税務署などからの郵便物が届かないということもありえます。
従いまして、郵便物が問題なく届く程度に建物名などを登記するか、あるいは、建物名などを省略するのであれば、郵便物を受け取ることができるように対策しておく必要があります。
都道府県名
商業登記簿に記載する本店、支店又は役員の住所等については、地方自治法第252条の19第1項の指定都市及び都道府県名と同一名称の市を除いては、都道府県名をも記載するのが相当である(昭32・12・24民事甲2419号通達、登記研究123号38ページ)とされています。
つまり、高知県高知市であれば高知県を省略して登記することができるということです。
参考書籍
『商業登記ハンドブック〔第5版〕』松井信憲(著)|商事法務
『会社法コンメンタール(1)』江頭憲治郎(編集)|商事法務
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