香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
創業株主間契約は、複数人で創業したスタートアップ企業の創業者や初期株主間で結ばれる重要な契約です。
創業者間株主契約、創業メンバー株主間契約、創業者間契約と呼ばれることもあります。
主にいずれかの株主が退任または離脱する際の株式の取扱いを明確にしておくことを目的としています。
今回は、複数人で共同創業した場合の問題点、創業株主間契約の内容(誰が株式を買い取るのか・退任をどのように定めるか・対象となる株式・買取り時の株式の価格をいくらにするか・創業者に相続が発生したときどうするか)、契約の締結時期について取り上げます。
複数人で共同創業した場合の問題点
複数人で共同創業する場合、多くのメリットがありますが、同時にいくつかの問題点も存在します。
創業者が複数人いることにより、意思決定の複雑化、役割と責任の不明確さなど、整理すべき問題はいくつかありますが、中でも創業者の退任とその保有する株式をどうするかという問題が生じた場合は、解決が困難だとされています。
創業時はもちろん仲良く始まるわけですが、仲違いをして辞めていくというのはよく聞く話です。
あるいは、仲違いしなくても、経営の方向転換(ピボット)をすることになりメンバーを一新しなくてはならなくなったり、病気や介護など個人的な事情でやむを得ず退任することもあり得ます。
創業者は、それなりの株式数を保有していることが多く、辞めた創業者から株式を買い戻せなければ、株主総会による会社の意思決定に支障が生じたり、最悪の場合、一から会社をやり直すことにもなりかねません。
そのような事態になることを避けるため、創業者間で、誰かが退任したときに、残った創業者が退任者が保有していた株式を買い取る旨を定めておく契約が創業株主間契約です。
創業株主間契約の内容
創業株主間契約の内容でポイントとなるのは次の点です。
誰が株式を買い取るのか
創業者が2名であれば、一方が退任すれば、もう一方が株式を買い取ることができる、ということになりそうです。
ただし、たとえば、A・Bの2名による創業で、Aが株式の90%、Bが10%の比率で実質的な創業者はAのみといってもよい場合には、Aのみが買い取ることができるとしてもよいかもしれません。
創業者が3名以上であれば、会社に残る創業者の持株比率に応じて按分する方法や、買取りできる人の優先順位を定めておくなどのやり方が考えられます。
優先順位を定めておくというのは、たとえば、A(代表取締役)・B・Cの3名による創業でCが退任した場合、Aに第一順位の買取請求権を定め、第一順位の買取請求権の全部または一部が行使されなかった場合に、第二順位のBが買取請求権を行使することができる、というような定め方です。
A・B・Cの持株比率に差がなく、パワーバランスが同じぐらいというケースであれば、持株比率で按分ということでよいかもしれません。
また、会社が株式を買い取ることができるとする規定を置くことも考えられます。
ただし、会社が自己株式を取得する場合には分配可能額の規制というものがあり、会社が赤字の場合は、株式を買い取ることができないおそれがあります。
退任をどのように定めるか
株式を買い取る権利が発生する創業者の「退任」をどのように定めておくかも考えておく必要があります。
役員を退任した場合か、あるいは役員を退任した後も従業員、顧問などの外部協力者として残ることも考えられ、それらの地位も喪失した場合かを定めておく必要があります。
対象となる株式
一般的には、会社に残る創業者が退任する創業者の株式が保有する株式の全部を買い取ることができるとする例が多いとされています。
一方で、べスティングを設定するかどうかの問題があります。
べスティングとは、一定の期間の経過に応じて権利を確定させる契約条件のことをいいます。
たとえば、次のような設定のことをいいます。
期間 | 退任創業者が保有できる株式の割合 |
---|---|
契約締結後から1年まで | 0% |
1年経過後から2年まで | 20% |
2年経過後から3年まで | 40% |
3年経過後から4年まで | 60% |
4年経過後から5年まで | 80% |
5年経過後 | 100% |
上記の設定において、2年半で創業者が退任した場合、退任創業者は自分が保有していた株式のうち40%の株式を引き続き保有することができ、会社に残る創業者が残りの60%を買い取ることができることになります。
べスティングがなければ、どれだけ会社に貢献しても、辞めるときは、全ての株式を手放すことになる可能性があります。
買取り時の株式の価格をいくらにするか
退任創業者の株式の買取価格をいくらにするかについても検討する必要があります。
一般的には、次のようなものが考えられます。
- 退任創業者が株式を取得したときの価格
- 無償
- 時価
①の取得価格とすることが多いように思いますが、株式買取時の適正な株価と取得価格に差があるときは税務上の問題が生じますので、顧問税理士等に相談する必要があります。
創業者に相続が発生したときどうするか
株主が死亡した場合、その保有していた株式は相続人が相続することになります。
創業株主間契約には、創業者の死亡による退任についても、当該創業者の相続人に対して株式の買取請求ができる旨を定めておくことが望ましいです。
創業株主間契約の締結時期
創業株主間契約の締結時期は、もちろん、共同創業者間の関係が良好な会社設立時に締結しておくべきでしょう。
あるいは設立後に、重要なメンバーが合流し、株式を譲り渡す場合には、そのタイミングで契約を締結するのが望ましいでしょう。
参考書籍
『スタートアップの法律相談(第46巻)(最新青林法律相談46)』山本飛翔・菅原稔・尾下 大介(編集)青木孝頼・青野雅朗(著)|青林書院
『起業のファイナンス増補改訂版』磯崎哲也(著)|ダイヤモンド社
『ベンチャー企業の法務AtoZ』後藤勝也・林賢治・雨宮美季・増渕勇一郎・池田宣大・長尾卓(編集)|中央経済社
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