香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
インターネットを使った会議システムなどによるオンライン出席の株主・役員がいる場合の株主総会や取締役会が増えてきました。
今回はオンライン出席の役員がいる場合の株主総会議事録の記載方法について取り上げます。
出てくる事例は、あくまでもパラレルワールドの失敗事例です。
当事務所とは一切関係ありません。
事例
司法書士法務太郎は、ある登記に添付する株主総会議事録及び株主リストを次のような記載にして登記申請しました。 なお、株主はA・B・Eの3名です。


すると法務局から「双方向性・即時性が確保されている状況を基礎づける事実の記載がないので議事録を差し替えてください」という連絡がありました。
根拠は、「平成14年12月18日民商第3044号回答のとおりです」とのことでした。
これはいったいどういうことなんでしょうか。
今回は、開催場所に存しない出席者がいる場合の議事録の記載方法についてみていきます。
平成14年12月18日民商第3044号回答とは
まずは、本事例で法務局に指摘された平成14年12月18日民商第3044号回答(以下「本先例」といいます。)の内容を知っておく必要がありそうです。
本先例の概要は、登記の申請書に電話会議の方法による取締役会議事録が添付した申請があった場合に、その取締役会議事録の記載から出席取締役が一堂に会するのと同等の相互に充分な議論を行うことができる会議の議事録であると認められるときは、当該申請は受理されるというものです。
本先例では電話会議のことしかふれていませんが、テレビ会議方式でもかまいませんし、情報伝達の双方向性及び即時性が確保される等の一定の要件を満たす限りにおいて、インターネットによるチャット等の方法についても同様であると考えられています(論点解説新・会社法363頁)。
具体的な議事録の記載方法は次のようになります。

このように本事例で法務局が示した先例というのは、取締役会についてのものでした。
取締役会における取締役の出席方法については確かに本先例のとおりです。 本事例は株主総会議事録の記載について指摘されていますので、続いて株主総会についてみていきます。
バーチャル株主総会について
ここでバーチャル株主総会について確認しておきます。
株主総会を開催するためには、株主総会の日時・場所を定めなければなりません(会社法298条1項1号)。
そのため、現実の開催場所を定めずにインターネットを使った会議システム等を利用して出席した者のみによって行われる、いわゆる「バーチャルオンリー型株主総会」は原則として認められていません。
ただし、令和3年の産業競争力強化法の改正により、一定の要件を満たした上場会社は、現実の開催場所を定めないバーチャルオンリー型株主総会を開催することができます(2025年12月現在)。
上記のような一定の要件を満たした上場会社でない場合でも「ハイブリッド型バーチャル株主総会」は認められています。
ハイブリッド型バーチャル株主総会とは、リアルな株主総会を開催し、一部の株主等がインターネットを使った会議システム等によって株主総会に出席するというものです。
なお、経済産業省と法務省による「株主総会運営に関するQ&A(https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai_qa.html)」のQ2では、株主総会の会場に株主がリアル出席していなくても株主総会の開催は可能とされており、この場合、限りなくバーチャルオンリー型株主総会となりますが、適法な株主総会となります。
バーチャル株主総会の議事録に記載すべき事項については、株主総会の開催場所に存しない株主・役員の出席方法と開催場所とインターネットを使った会議システム等による出席者との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されている状況を基礎づける事実の記載が必要となります。 具体的な議事録の記載方法は次のようになります。
ご参考までに経済産業省の「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(2020年2月26日策定)」の一部抜粋を掲載しておきます。
総会におけるリアルタイムなインターネット投票 (298条関係)
株主総会について、インターネットを通じて、リアルタイムで、株主総会の状況を画像で送信し、株主も、質問権や議決権の行使ができるようなシステムを採用することができるか。
【A】
- 株主総会の開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されているといえる環境にあるのであれば、個々の株主が、インターネットを使って株主総会に参加し、議決権を行使することは可能である。
- なお、その場合の議決権の行使は、電子投票(298条1項4号)ではなく、その株主が招集場所で開催されている株主総会に出席し、その場で議決権を行使したものと評価されることとなる。
- なお、この場合の株主総会議事録には、株主総会の開催場所に存しない株主の出席の方法を記載する必要がある(施行規則72条3項1号)。同号は「株主の所在場所及び出席の方法」等という規定を置いているわけではなく、株主の所在場所は議事録に記載することを要しない。
ただし、出席の方法としては、開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されている状況を基礎づける事実(ビデオ会議・電話会議システムの使用等)の記載が必要である。 - なお、取締役会議事録において開催場所にはない取締役の出席方法(施行規則101条3項1号)についての記載についても、上記と同様、当該取締役の所在場所を記載する必要はない。
(資料)相澤 哲、葉玉 匡美、郡谷 大輔 『論点解説 新・会社法 千問の道標』 株式会社商事法務(2006.6)
本事例の株主総会議事録
ここまで確認したところで、本事例の株主総会議事録と株主リストを振り返ってみます。
株主は3名で、そのうちAとEが株主であることがわかります。
また、Aは代表取締役でもあります。
取締役Cと監査役Dはインターネットを使った会議システムにより出席しており、総会の会場にはいません。
実は、司法書士法務太郎は、株主3名のうち残りの1人が取締役でもあるBであることを確認しており、株主Eも出席していることを知っています。
つまり当該株主総会には株主は全員会場出席しており、有効な決議がされていると考えられ、本事例の議事録の記載で十分と考えたようです。
(役員のみがオンライン出席でも情報伝達の双方向性・即時性が確保されていることは必要です。確保されていない場合は、株主総会決議の取消事由に該当するおそれがあります。そのことを議事録に書くかどうかは別問題です。)
司法書士法務太郎は、法務局側に対し、本事例の株主総会は、平成14年12月18日民商第3044号回答や経済産業省の「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」に掲げられている状況とは異なり、リアル出席した株主により決議されている旨、また役員の株主総会出席は株主総会の成立要件ではない旨を伝え、議事録の差し替えは不要であると主張しました。
話し合いの結果、法務局は議事録の差し替えは不要だが、CとDが株主でないことを証明するために株主リストにBを追記して提出してほしいと要求してきました。
確かに、本事例の株主総会議事録と株主リストからはCとDが株主でないことは明らかではありません。
しかし、そもそもC又はDが株主であるならば、議事録には双方向性・即時性が確保されている状況を基礎づける事実の記載が必要になると考えられますが、そうではないため、本事例のような記載になっているのであり、それが正しいものとして審査すべきではないでしょうか。
たとえば、役員変更の登記で、株主総会議事録に「議長は、当会社定款の定めにより、取締役の全員が本総会の終結と同時に任期満了退任し~」という記載があれば、定款の任期の規定を確認することなく、議事録の記載が正しいものとして審査されるはずです。
また、株主リストは法定の要件を満たしているため修正する理由もありません。
結局、本事例では株主総会議事録も株主リストも差し替えることなく、登記は完了しました。
今後の対応
本事例では結局、添付書面の差し替えや修正はありませんでした。
しかし、本事例のように法務局の審査が円滑に進まないことがありますし、役員による株主に対する説明義務もあることから、株主が全員リアル出席していても、役員の一部がインターネットを使った会議システム等による出席で総会会場に不在の場合は、株主総会議事録には双方向性・即時性が確保されている状況を基礎づける事実を記載した方が無難であると考えられます。
参考書籍
『会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A 電子署名・クラウドサインの活用法』土井万二(編集代表)|日本加除出版
『Q&A 商業登記と会社法-司法書士が押さえておきたいポイント-』加藤政也(編集)|新日本法規出版
『商業登記ハンドブック〔第5版〕』松井信憲(著)|商事法務
『事例で学ぶ会社法実務〈全訂第2版〉』東京司法書士協同組合(編集)金子登志雄・立花宏・幸先裕明(著)|中央経済社
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