香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
東京証券取引所には一般市場と呼ばれるプライム・スタンダード・グロースの3つの市場の他にTOKYO PRO Marketという株式市場があります。
TOKYO PRO Marketに上場している会社はまだ少なくあまり知られていないかもしれません。
TOKYO PRO Marketとはどのような株式市場なのでしょうか。
今回は、TOKYO PRO Marketへの上場について主に登記の視点から取り上げます。
TOKYO PRO Marketとは
TOKYO PRO Marketの特徴
TOKYO PRO Marketとは、東京証券取引所が運営する「プロ向け株式市場」です。
一般市場と呼ばれるプライム・スタンダード・グロースの3つの市場の株式は誰でも売買することができますが、TOKYO PRO Marketの株式は限られたプロ投資家のみが売買することができます。
プロ投資家とは、金融機関、外国企業のほか、株式会社・一定の要件を満たした個人投資家を指します。
TOKYO PRO Marketの特徴は次のとおりです。
- プロ投資家向け市場
- 上場のための数値基準がないなど柔軟な上場制度がとられている
- 監査証明が1年間で足りる上、四半期開示や内部統制報告制度の適用は任意など上場準備負担が軽減されている
- TOKYO PRO Marketに精通したJ-Adviser(※)による上場支援のほか、上場後の開示支援のサポートが受けられる
(※)J-Adviser制度はTOKYO PRO Marketに特有の制度です。J-Adviserは東証に認証された企業で、東証に代わって上場申請会社に対して上場適格性の調査確認をしたり、上場後も適時開示の助言・指導、上場維持要件の適合状況の調査を実施します。
ご参考までに銘柄一覧のリンクを貼っておきます。
銘柄に対して担当J-Adviserが併記されています。
TOKYO PRO Market 銘柄一覧
https://www.jpx.co.jp/equities/products/tpm/issues/index.html
TOKYO PRO Marketに上場している会社はまだ少なく、2022年11月22日現在の上場会社数は次のとおりです。
市場 | 上場会社数(単位:社) |
---|---|
プライム | 1,836 |
スタンダード | 1,451 |
グロース | 500 |
TOKYO PRO Market | 62 |
このように一般市場と比べると上場会社数はまだ少ない状況です。
特定取引所金融商品市場
プロ向け株式市場について掘り下げておきます。
プロ向け株式市場を金融商品取引法上のことばでいうと、特定取引所金融商品市場といいます。
条文をみておきましょう。
金融商品取引法
(特定取引所金融商品市場)
第117条の2 金融商品取引所は、業務規程の定めるところにより、その開設する取引所金融商品市場ごとに、会員等が特定投資家等以外の者(当該有価証券の発行者その他の内閣府令で定める者を除く。)の委託を受けて行う有価証券の買付け(次項において「一般投資家等買付け」という。)を禁止することができる。
2 前項の規定により一般投資家等買付けを禁止する場合において、金融商品取引所は、その業務規程において、前条第一項各号に掲げる事項のほか、特定取引所金融商品市場に関し、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 有価証券の売買の受託の制限に関する事項
二 特定上場有価証券の発行者が提供又は公表をすべき特定証券情報及び発行者情報の内容、提供又は公表の方法及び時期その他特定上場有価証券に係る情報の提供又は公表に関し必要な事項
第2項第2号の「特定上場有価証券」とは、特定取引所金融商品市場のみに上場されている有価証券をいいます(金商法第2条第33項)。
なお、東証では「特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例(以下「プロ規程」といいます。)」によりTOKYO PRO Marketの上場に関するルールを定めています。
特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例(東京証券取引所)
http://jpx-gr.info/rule/tosho_regu_201305070010001.html
TOKYO PRO Marketへの上場と登記
登記手続上、一般市場と共通する点と相違する点をみていきます。
一般市場との共通点
電子提供措置に関する規定
金融商品取引所に上場する内国株券は、振替法に基づき指定振替機関における株式等振替制度の対象となります(プロ規程第137条参照)。
振替株式発行会社は、株主総会資料の電子提供制度が義務づけられますので、電子提供措置に関する規定を設定することになります。
公告をする方法
電子公告にします。
単元株式数
100株になります。
東証では、一般市場の全上場会社の売買単位を100株に統一しています(東京証券取引所有価証券上場規程第427条の2)。
TOKYO PRO Marketでは規則等で単元株式数を一律に定めることを要求していませんが、売買単位を100株にすることが望ましいとしているようです。
なお、法令上、単元株式数は、1,000株以下であり、かつ、発行済株式総数の200分の1以下である必要があります(会社法第188条、会社法施行規則第34条)。
発行可能株式総数
後記のとおり株式の譲渡制限を廃止して公開会社となりますので、発行可能株式総数は発行済株式総数の4倍を超えることはできません。
株主名簿管理人
株主名簿管理人を設定します。
プロ規程上、上場申請日までに、東証の承認する株式事務代行機関に株式事務を委託しているか、または、株式事務代行機関から受託する旨の内諾を得ていることが必要です。
株式の譲渡制限の規定
株式の譲渡制限の規定を廃止して公開会社になります。
このため会社の機関としては最低限、取締役会設置会社でなければなりません(会社法第327条第1項第1号)。
ということは、監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社でない限りは監査役を置くことになります(同法同条第2項)。
なお、公開会社になることにより取締役と監査役の任期は満了します(同法第332条第7項第3号、同法第336条第4項第4号)。
一般市場と異なる点
会社の機関
一般市場の上場会社は監査役会、監査等委員会、指名委員会等のどれかを置き、会計監査人を置かなければなりません(東京証券取引所有価証券上場規程第437条)。
一般市場の上場会社でも会社法上の大会社の要件を満たしていない会社はあるのですが、会社法第328条にかかわらず、上記規程により会計監査人を置く必要があります。
これに対して、TOKYO PRO Marketでは上記規程のようなルールがありません。
上場していても会社法上の大会社の要件を満たしていない場合は、取締役会と監査役が置かれているだけということもありえます。
これを知らないとTOKYO PRO Market上場会社と出会ったときにかなり驚くかもしれません。
ただし、会計監査人を置いていないからといって会計監査を受けなくてよいというわけではなく、プロ規程上、財務書類については監査法人による監査は受けなければなりません。
参考書籍
『商業登記ハンドブック〔第4版〕』松井 信憲(著)|商事法務
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