香川県高松市の司法書士 川井事務所です。
商業登記の実務に詳しい方であれば、「募集新株予約権(株式)の引受けの申込みを証する書面を代表者の証明書方式で」と聞けば、ああ、あれのことね。となるのではないかと思います。
知っていればプロフェッショナル感が出るかもしれません。
今回は代表者の証明書方式をさらに深堀りしていきます。
「複数の契約書により一の総数引受契約が締結された場合における募集新株予約権の発行に係る総数引受契約を証する書面の取扱いについて(通知)」(令和4年3月28日法務省民商第122号)が発出されたことにより解決済みの問題です。
募集新株予約権の引受けの申込みを証する書面 原則と代表者の証明書方式
募集新株予約権の発行の手続きの際に必要となる添付書面のひとつが募集新株予約権の引受けの申込みを証する書面です(以下、株式の場合も同様です)。
通常は、募集新株予約権の申込人が引き受けようとする募集新株予約権の数を記載した新株予約権申込証を申込人の人数分の原本を添付することになります。
これに対して、代表者の証明書方式(と勝手に読んでいるだけですが)の場合は、新株予約権申込証に代えて、
- 発行会社の代表者が作成した新株予約権の申込みがあったことを証する書面
- 新株予約権申込証のひな形
- 申込人の一覧表
以上3点を合綴したものを募集新株予約権の引受けの申込みを証する書面とすることが認められています(平成14年8月28日民商2037号通知)(商業登記ハンドブック〔第4版〕 278ページ、商業・法人登記先例インデックス 86ページ参照)。
①の証明書には申込証の枚数、申し込みがあった新株予約権の個数、各新株予約権の発行に際して払い込むべき価額(無償で発行する場合を除く。)および申込取扱期間を記載し、当該記載事項のとおり申込みがあったことを証明する旨の記載した上で、代表者が会社実印をもって記名押印し、②③と合綴して契印します。
なお、令和3年1月29日民商10号通知により会社実印での押印は不要になったと考えられます。
上記取り扱いは募集株式の発行についても同様です。
新株予約権申込証の枚数が多い場合にこの方式を使うことが一般的とされています。
なお、 上記の平成14年の先例も収録されている『商業・法人登記先例インデックス』は商業・法人登記の代表的な先例について詳しく解説されていますので、商業・法人登記をがんばりたい人にはぜひおすすめしたいです。
令和4年3月28日法務省民商第122号について
「複数の契約書により一の総数引受契約が締結された場合における募集新株予約権の発行に係る総数引受契約を証する書面の取扱いについて(通知)」(令和4年3月28日法務省民商第122号)が発出されています。
その内容は、
募集新株予約権の発行による変更の登記の申請書に、募集新株予約権の発行会社の代表者が作成した総数引受契約があったことを証する書面に総数引受契約書のひな形及び引受者の一覧表を合綴したものが添付された場合には、当該書面を商業登記法第65条第1号の総数引受契約を証する書面として取り扱って差し支えない。
なお、総数引受契約があったことを証する書面には、総数引受契約書の枚数、引受けがあった募集新株予約権の数、募集新株予約権の払込金額(無償で発行する場合を除く。)及び割当日を記載し、当該記載事項のとおり総数引受契約があったことを証する旨を記載した上で、発行会社の代表者が記名する必要がある。
というものです。
総数引受契約があったことを証する書面には、総数引受契約書の枚数、引受けがあった募集株式の数、募集株式の払込金額、募集株式の払込期日(または期間)を記載し、当該記載事項のとおり総数引受契約があったことを証する旨を記載します。
以下の文章は、上記通知が発出される前に書いた文章です。
法務局によって結論が異なっていた問題について言及したもので、上記通知により解決済みですが、ご参考までに残しておきます。
総数引受契約書で契約者多数の場合に代表者の証明書方式は認められるのか(参考)
実は、ここからが本題のようなものでして・・・
では、新株予約権申込証に代わって、総数引受契約で手続きする場合、同様に代表者の証明書方式が認められるでしょうか。
このことを考える前提として、総数引受契約書も複数の新株予約権の引受人がいる場合に、引受人ごとに作成することができるということを知っておく必要があります。
ただし、総数引受契約といえるためには、実質的に同一の機会に一体的な契約で募集株式(新株予約権)の総数の引受けが行われたものと評価しうるものであることが必要とされています(論点解説 新・会社法―千問の道標 208ページ参照)。
そして、引受人が多数で総数引受契約書の部数が多くなった場合にも、代表者の証明書方式が認めらるかどうかですが、上記の平成14年の先例を読む限り、総数引受契約書については触れられていません。
そこで法務局に相談してみました。
管轄は日本でもトップクラスの商業登記件数を扱う法務局でした。
回答は、申込証も総数引受契約書も趣旨は同じものなので、ご意見のとおり、つまり、代表者の証明書方式でもかまわない、というものでした。
つまり、①代表者の証明書②総数引受契約書のひな形③契約者の一覧を合綴したものを総数引受契約を証する書面として提出することが認められました。
納得できる結論だと思います。
ところが、後日、同様のケースがあり、当然に代表者の証明書方式で他の管轄に申請した際に、法務局から電話がかかってきました。
総数引受契約書の原本が必要です。と。
その根拠は「民事月報」の平成27年5月号に書かれてある。と。
民事月報・・・
なんですか、それ・・・?
読んでいて当然のものですか、それは・・・?
まわりの人に聞いてもわからない・・・
どこに売っているかもわからない・・・
売っていても買いたくない・・・ということで生まれて初めて国会図書館に閲覧しに行きました。
今のところ国会図書館に行ったのは、人生でその一度きりです。
民事月報なるものを見つけ、該当箇所を読んでみました。
それっぽいことは書いてありました。
「・・・総数引受契約書など、その契約書そのものの存在が登記原因事実を端的に証明しているものであって、登記所に提出することに特段支障がないと考えられるものについては、原本に代えて会社代表者が作成した書面を添付書面とみなすような簡便な取扱いをすることは相当でないと考えられる。」
・・・ということのようです。
新株予約権の引受人が100人いたら、総数引受契約書の原本100部を提出しないといけないのでしょうか。
結論としては、総数引受契約書の場合は、代表者の証明書方式は認められないことがあるので注意が必要です!ということです。
参考書籍
『商業・法人登記先例インデックス』鈴木龍介(編著)|商事法務
『商業登記ハンドブック〔第4版〕』松井信憲(著)|商事法務
『論点解説新・会社法 千問の道標』相澤哲・郡谷大輔・葉玉匡美(著)|商事法務
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